第52話
「ふっふ~ん、ふふふ~」
「もう、環樺! 歩くの早いってば」
「あ! えへへ、ごめんごめん」
鼻歌を歌いながら軽快な足取りで少し前を歩く環樺の揺れている手をぱしっと捕まえて、環樺の歩きを止める。
「もう二回目なんだけど」
「ごめんってば~」
「ずいぶんと機嫌が良さそうだね」
「そりゃあもう! だって、久しぶりのお姉と二人っきりのお出掛けだもん!」
今日は朝からずっと楽しそうだったけど、今日一番の笑顔で元気に答える環樺。
そしてちゃんと横に並んで一緒に歩き出す。
「毎週どこかしら出掛けてるとは思うんだけど」
「今日はご飯の買い出しとか運動しに行くのとは別でしょ!」
「まぁ、確かにそうかも」
思い返してみると、なんだかんだこうして二人でショッピングとして出掛けるのは高校に入ってから初めてだ。
中学の時からそんなに頻繁にショッピングをしに出掛けているわけではなかったけど、それでも一か月に一回くらいは二人きりで駅前にふらりと遊びに来ていた。
もしかしたら学校で一緒に居られない分、家でゆっくり二人で過ごしたかったという気持ちはあったからそのせいかも。
「だから今日は嬉しいの! それとも、お姉はそうでもなかった......?」
「そ! そんなことない! 私は、環樺と居れるならどこでも楽しいってだけで......」
環樺にシュンとした表情をさせてしまって、つい慌てて訂正する。
「ホント!?」
「当たり前でしょ。もちろん今日だって楽しみにしてたよ」
「えへへ~、そうだよね~!」
その言葉通り、今日は私も環樺もいつものお出掛けよりもおしゃれな服装をしてきていた。
私は水色のフリルレースカーディガンに白いフレアスカート。
環樺は白いTシャツに白黒のチェックのオーバーサイズのシャツを羽織り、下はパンツスタイル。頭にはキャップを被っている。
どちらかと言えば、私は可愛い系、環樺はカッコいい系の服装を好んでいる。
普段はあまりしないメイクもほんの少しだけ。
「だから今日は晴れてくれてよかったな~」
「そうだね。でも、早く歩かれるとついていくのが大変だからもう少しゆっくり歩いてほしいな」
「はーい! ちゃんと隣に居るね!」
やっと最初の話に戻って歩く速さを合わせてもらうことをお願いする。
環樺はスニーカーだけど私はパンプスを履いているから早く歩くのが大変なの。
そうしてちゃんと並んで歩きながら、今日したいことや見に行きたいものの話をしていると駅へと到着する。
今日は久しぶりのショッピングなのでせっかくなら電車に乗ってどこかに行きたいと環樺が言い出し、それなら私が環樺の誕生日プレゼントを見つけた大きな雑貨店に行こうということになった。
先日話したフィットネスのゲームもそこで見たものだったしちょうどよかった。
「ほら環樺、こっちだよ」
「あ、そっか。ついいつもの癖で」
前の私と同じく、改札をくぐって違う方向に行きそうになった環樺を引っ張って正しい乗り場へ向かう。
今まで電車に乗るとなったらあっちの方向にしか行くことがないので間違うのも無理はない。
しばらくして電車がやってきて環樺と一緒に乗り込んで、あまり混んでいない車内の端の方に並んで座る。
「やー、いつもと違う方向に行くだけでわくわくするねー」
「くすっ」
「ん? どしたのお姉」
「んーん。私も前回電車に乗りながら全く同じこと思ったなって」
「えへへ、流石わたし達」
今回は電車を待っている間も、電車に揺られながら移動している時間も環樺が一緒なので何だかあっという間に感じられた。
「あ、ここだよ環樺」
「もう着いちゃった? もう少しお姉と並んで電車に揺られてたかったな~」
「帰りもあるからまた楽しめるよ。ほら行こ」
電車が止まってプシューと扉が開き、環樺の手を取って立ち上がらせて一緒に電車を降りる。
スマホで確認せずとも記憶通りに階段を上って改札を抜け、同じ出口を出て雑貨店へと向かって歩く。
「へぇ~こんな場所なんだ~」
「そういえば私もあの雑貨店以外全然お店知らないかも」
環樺が物珍しそうに周りを見ながら歩いているのを見て、私も改めて周りの建物を見ると、前に来た時は環樺の誕生日プレゼントを探したくて真っ直ぐ雑貨店に向かったのと、帰りも疲れて真っ直ぐ帰った為にあまり見れていなかったお店が沢山目に入る。
二回目に来た時も学校帰りだったし、その後家事や晩御飯づくりを環樺と一緒にやらなければいけなかったので受け取ってすぐに帰ってしまったし。
「じゃあお昼はこの辺でお店探して食べる?」
「ふふ、そうしよっか」
家を出る前はいつも食べるような所でお昼を食べて、その後行きつけのクレープ屋さんに行くっていう話をしていたんだけど、せっかくならお昼ご飯はこっちで新しいお店を開拓するのも楽しそうだ。
肝心の雑貨店は駅から近いのですぐに着いてしまうんだけど。
「おお~ここが」
「さて、何から見ていく?」
「お姉がコケリウムを見つけたお花屋さんがあるんでしょ? 一回見てみたいな」
「そう? じゃあ見に行ってみようか」
建物に入ると、環樺がキャップを取ってバッグに入れる。
今回はまず入口にある案内図を見ようとしたけどすぐに環樺からのリクエストが入り最初の目的地が決まったので、やっぱり案内図はちゃんと確認することなくお花屋さんに向かって歩き始める。
同じルートを通ってお花屋さんに辿り着くと、前とは違った彩りで沢山の花が出迎えてくれる。
「お花屋さんなんて久しぶり~」
「久しぶりに見ると楽しいよね」
「うんうん! あ、見て、この花小学校の通学路でいつも見てたよねー。あ、こっちはおじいちゃん達の家で昔育ててたやつ!」
「懐かしいなぁ。環樺が近くで見ようとしたら中から虫が出てきて驚いた時のね」
「うわぁ! 思い出させないでよー! うぅ、鳥肌が......」
「あははっ」
並んでいる花を見て環樺と思い出話に花を咲かせていると見知った顔の店員さんと目が合った。
「いらっしゃいませ。あ、お客様。またいらしてくださったんですね」
「こんにちは。その節はお世話になりました」
「こんにちは」
「あら。もしかしてそちらの方が......」
私の後ろからひょこっと出てきて挨拶をした環樺を見て、店員さんが思い当たったことを口に出す。
「そうなんです。プレゼントを送った相手の、双子の妹で」
受け取りに行ったときに誕生日プレゼント用だと伝えて包んでもらったので店員さんもそういう物だったことは把握していた。
「わぁ......! あ、すみません、双子の方を見たのは初めてだったもので......! よく似ていらっしゃいますね」
「ありがとうございます。よく言われます」
双子だと紹介すると、驚きつつ興奮する表情を見せた店員さんも仕事の接客中ということだからか、すぐに平静を取り繕った。
「あの、わたしからもありがとうございました。あのプレゼントすっごく嬉しくて、最高の誕生日になりました」
環樺からもお礼を伝えると、店員さんはふっと微笑み、眉尻を下げてどこか涙をこらえるような表情になった。
「ありがとうございます。そうしてお客様の特別な日を彩ることができてその感想をいただけることが、私達にとって何よりの報酬です。また何かご入用の際は是非ともお気軽にお申し付けください」
「あっ。ありがとうございます......」
その店員さんは最後に笑いながらそう言うと、いきなり踵を返して離れていってしまった。後ろ姿からだけど、歩きながら目のあたりに手を持っていっていた。
「なんか、すごく良い人なんだろうね」
「うん。私が最初見てた時も優しく教えてくれたし、受け取りに行った時も親切に取り扱いを教えてくれたよ」
「そっか。よし、今後何かあったりお姉にお花を送ってあげる時はあのお姉さんに相談しよっと!」
「ふふっ、そうだね」
「とりあえず、今日のところは他の場所を見にいこっか。わたし達がずっとここに残ってたら気まずいだろうし......」
「うん」
最後にちょっとだけコケリウムのある棚を見て、見つけた時のことを話したりしてから良い出会いのあったお花屋さんを後にして、他の場所を見に行くことにした。




