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[双子百合]うまれる前から永遠に  作者: 唯凜
わたしには刺激が強すぎた
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第51話

「ふぃ~。気持ちよかった~」


 身体の疲労が回復してから、汗を流すためにお風呂で首から下だけ軽くシャワーを浴びて部屋着に着替えリビングへと戻ってくる。

 汗をかいて暑くなっているこういう時にはむしろあっつあつのシャワーを浴びるのが気持ちいい。そして最後にサッと冷たい水を浴びてお風呂上がりの汗を引かせるのがコツだ。


「おかえり。お風呂上がりの麦茶いる?」

「飲みたい!」

「はーい、ちょっと待っててね」


 同じく先にシャワーを浴びて部屋着に着替え、ソファに座ってくつろいでいたお姉が立ち上がってキッチンの方に歩いて行き、コップを二つ用意してから冷蔵庫の扉を開ける。


「よいしょ。あ」

「どしたの?」

「ごめん環樺、牛乳でもいい? 期限が迫ってきてるから消費しちゃいたいな」

「うん、全然いいよー」


 食卓テーブルの方に腰を下ろし、お姉の提案に頷く。むしろお風呂上がりのキンキンに冷えた牛乳は大好物だ。


 お姉は一度取り出した麦茶ポットをしまいなおし、代わりに牛乳パックを冷蔵庫から取り出して二つのコップに注ぐ。

 空になった牛乳パックを水で濯いでから二つのコップを持ってこちらに来て片方を差し出す。


「はい」

「ありがと!」


 お姉の手からコップを受け取って、ゴクゴクと一気に牛乳をあおる。


「ぷはーっ! おいしー!」

「ふふ、良い飲みっぷり」


 わたしの隣の席に腰かけて、お姉も牛乳をゴクゴクと七割ほど飲んでからコップをテーブルに置く。


「ねぇ環樺、今後の運動はどうしようね」

「そうねぇ。梅雨に入ったからよく雨が降るだろうし、梅雨が明けたら明けたで本格的に暑くなってくるだろうし......」

「しばらくは今日みたいに家の中でになりそうかな」

「たまに暑さが落ち着いてる日にでも市民体育館に遊びに行きたいな~」

「そうだね」


 最近の夏の暑さはシャレにならないくらいになってきているし、この週に一回の運動の目的はあくまでも生活リズムを整える為に早く起きるというものなので、暑い日に体調を悪くするリスクを抱えてまで外で運動することはあってはならないというのは二人の共通認識だ。


 本当に、酷暑の中に外で部活や試合をしている運動部はすごいと思う。それが良いことかどうかは分からないけど。実際近年は野球を筆頭に、色々な競技で夏の間に行われる大会のルールについて物議を醸しているニュースをよく目にするし。


「家でできることと言えば、今日みたいなことしかないよね」

「あ、そういえば。誕生日プレゼント探してる時に色んな運動グッズも見たんだよね」

「何か良い物見つけた?」

「あの少し前に話題になったフィットネスのゲームあったでしょ? あれが安く売られてて」

「あ~あったね。出始めの頃に欲しかったけど全然手に入らなくて諦めたやつだ」


 発売から何年も経っているけど、発売当初は大人気すぎてどこを探しても在庫がなくて手に入らなかったゲーム。

 ゲーム本体だけじゃなくて、付属してくるアイテムを使ってプレイするタイプだったから生産量が供給に追いついていなかったんだろう。

 いつの間にか忘れてしまって買わずじまいだったけど、確かに、アレなら家で運動するのも楽しくなりそうだ。


「うん、めっちゃ良さそう!」

「じゃあ、明日は大雨の予定らしいから、来週の休みにコケリウムの中に入れるフィギュア探しと一緒に買いに行こっか」

「おっけー! ふふ~ん、楽しみだな~」


 コケリウムの中に入れる用のフィギュア探しもそうだし、そのゲームも楽しみだし、何よりも久しぶりのお姉と二人でのご飯の買い出し以外のお出掛けに心が躍ってしまう。


「よいしょっと。それはそれとして、お昼ご飯はどうしようか?」


 わたしが色んな楽しみの妄想で思考を明後日の方向に飛ばしていると、隣のお姉が立ち上がって現在に引き戻すような話を振ってくれる。


「あ、うーん、そうだなぁ」


 わたしもお姉を追って立ち上がって、一緒にキッチンに食材を見に行こうと歩き出してすぐ、事件が起こった。


「ゥア゙ア゙ゥゥ!!」

「グゥゥゥ!」


 さっきまで部屋の隅で一緒に丸まって仲良く寝ていたはずのクロエとクロノのお互いを威嚇するような低い唸り声がリビングに広がった。


「クロノ、クロエ、どうしたのー」


 冷蔵庫を開けようとしていたお姉も動きを止めて、子供を宥める優しいお母さんみたいな口調で二人に声を掛ける。

 これまであまり喧嘩とかはなかった二人なので、わたしもどうしていいか分からず、こちらからは刺激しないようにソファ越しに威嚇し合っている二人を見守る。


「ンァアア」

「ウゥゥ......!」


 それからも動くことなくお互いをじっと見つめたまま唸るクロエとクロノ。


「クロ——」


 そして、わたしが名前を呼ぼうと口を開いた瞬間だった。


「ギニ゙ャアァーー!!」

「ン゙ナ゙ァァアー!」


 クロエがクロノに飛び掛かり、間一髪でクロノが躱してそれを皮切りに追いかけっこが始まり、カーペットの上から移動してフローリングの上をカリカリと走り回る音が鳴り響く。


「ちょっ......! 二人とも、落ち着くよー!」


 わたしの静止する声も意味をなさず、器用にテーブルや椅子の脚の間をスルスルと通り抜けながら目まぐるしく駆け回る二人。

 そしてテーブルの下から抜け出したクロノが一息にピョーンと大ジャンプをして食卓テーブルの上に飛び乗った。


「うぇ!?」


 それを見てついつい驚きの声をあげてしまうが、それを追ってクロエもピョーンと飛び乗った。


「あ! ちょっと待って!」


 今度はお姉が二人を制止する声を出すと、クロノが逃げるようにするりとテーブルから降り、ゆるりと数歩動いてからテーブルの下で動きを止めた。

 テーブルの上ではクロエがその後を追ってスタスタ歩き、その拍子にお姉の飲みかけでまだ少し牛乳が残っているコップにぶつかって倒してしまい、コツーンという音が鳴った。


「あぁ......」


 お姉が間に合わなかったという気持ちのこもった残念そうな声を出す。


 倒されたコップからテーブルの上を川を成して流れた牛乳がテーブルの端まで達し、そこからぽたぽたと下に零れていく。

 そしてそれはよりによって丁度そこに止まったクロノの上に降り注いだ。


「あーあーあー......」


 クロエはテーブルに広がる牛乳を踏みながらそれを辿ってするりとテーブルから降りてクロノの隣に着地して、二人仲良く上から滴ってきている牛乳を身体で受け止めていた。

 喧嘩は終わったようだけど、よりによってそんなところで仲良くくっついて止まらなくても......


 一応倒れたコップを起こすが、零れてしまったものはもう戻らない。


「もぉ。ふふ、しょうがないなぁ」

「はいはい、二人とも、そこでじっとしててねー。それ舐めちゃダメだよー」


 わたしは一旦テーブルの上にあるティッシュで牛乳を拭いて滴るのを止める。お姉はキッチンの棚にある手を拭く為のタオルの予備を持ってきてクロノとクロエを軽く拭いてあげる。


「うーん。二人とも、これは久しぶりのお風呂ですねー」

「ありゃりゃ。だってさ、大人しく行ってきなー」


 反省してるのか逆に何も感じていないのか、二人は黙ってお姉に身体を拭かれた後、多めに牛乳を被ったクロノはタオルに包まれて抱っこされる。


「じゃあお風呂入れてくるから、ここは環樺に任せるね」

「おっけー。掃除し終わったら手伝いに行くね」

「うん、ありがと。ほらクロエ、ついてきて」

「良い子にするんだよ、二人とも」

「「ンナァ」」


 クロエを抱えてリビングを出ていくお姉にクロエがついていってお風呂場へと向かう。


「さてと」


 ここの掃除を任されたわたしは、拭くものを探しにキッチンの方へと向かう。


「えっと、キッチンペーパーでいいかな」


 棚からキッチンペーパーを取り出して、ぐるぐると適当に取って水を含ませて絞り、ちょっと洗剤をかける。

 それとキッチンペーパーの本体も持って食卓テーブルに戻る。


 まずは濡らしてないキッチンペーパーでテーブルを拭く。それからフローリングと椅子とテーブルの脚の牛乳が付いている場所をチェックするけど、クロエとクロノが大半を身体で受け止めていたらしく全然汚れが見当たらなかったのでそこら辺を一通り簡単に拭く。

 その後に濡らしたキッチンペーパーを広げて、それまでに拭いたところを水拭きしてからもう一度キッチンペーパーを千切って乾拭きする。


「くんくん。よし、これで大丈夫でしょう」


 匂いを嗅いでちゃんと拭けていることを確認してから掃除を終わらせてお姉とクロクロが居るお風呂場に向かう。

 お風呂場に行く為の洗面所のドアを開けると、シャーとシャワーが出ている音にチャパチャパという水音とお姉が洗うのに苦戦していそうな声が聞こえてくる。


「お姉ーだいじょぶー?」

「ほーら、ちょっと大人しくしてね。環樺、ちょっと抑えててもらえる?」

「はーい」


 洗面所とお風呂を区切るすりガラスのドアを開けると、お湯の張られていない湯船に避難させられているクロエと、猫用の小さなお風呂に入れてあげながら案の定四苦八苦しているお姉といやいやしているクロノがそこに居た。


 お姉を手伝う為に猫用お風呂を挟んだ対面にしゃがんでクロノを撫でてあげてから身体を優しく抑える。


「ほら、怖くないからねー」

「ありがと。思ったより手こずっちゃって。はいクロノ、洗っていくからねー」


 わたしの方の掃除があまり汚れていなくて早く終わってこっちに来たのでまだあまり進んでいないみたいだ。


 わたしがクロノを抑えてあげてようやく動きが収まり、勢いが弱めのぬるいシャワーで身体を洗い流し始める。

 横に置いてある猫用シャンプーを手に持っている泡立てスポンジに出してクシュクシュと泡立ててからクロノの身体に泡を移して洗ってあげる。


「んー良い子だねぇ、綺麗になろうねぇ」


 お姉の顔を見つめながらお利口さんに身体を洗われているクロノを褒めてあげる。


「ていうか、いつの間にかあんなにジャンプできるようになっててびっくりしちゃった」

「ホントだよね。こんなに大きくなって......」

「私達が育てた子供が大きくなるってこういう気持ちなんだろうね」

「ぅえっ!?」


 つい変な声が出てしまった。


 さっき見ていた一年くらい前や半年くらい前の写真に比べてこんなに成長していて嬉しかったり感慨深かったりでしみじみしようと思っていたところに、お姉がこっちをみて優しい表情をしながらそんなことを言うもんだから......


 わ、わたし達の......こ、子供......


 べ、別に何も変なことじゃない。クロノとクロエはほぼ赤ちゃんの頃から迎えて二人で一緒に育ててきた子だからね。うん。


「環樺?」

「え!? あ、うん! そうだね、本当に健康に育ってくれて嬉しいなぁ」

「それはそうだけど、ちゃんと抑えてあげてて」

「あぁごめんごめん!」

 

 意識が逸れてクロノを抑える手が疎かになってしまっていたので、再びちゃんと抑える。


「よし。じゃあ泡流していくからねー」


 身体を洗い終わってシャワーで泡を洗い流し、クロノのお風呂が無事に終了する。


「はいお疲れ様。綺麗になったよーいいこいいこ」

「だって。よかったねークロノ」

「にゃ」

「それじゃあクロエと交代ね。ちょっとだけここで待っててね」

「クロエー、お風呂入ろうねーこっちおいでー」


 お姉がクロノをお湯の張られてない湯船の中に移動させ、わたしは大人しく待っていたクロエを抱っこして猫用お風呂に入れる。


「うぅぅ!」

「わー! だいじょぶ! だいじょぶだからね~」


 嫌がるそぶりを見せて少し暴れるクロエを宥める。

 それでもすぐに落ち着いてくれて、クロノと同じようにシャワーで身体を流してからシャンプーを始める。


「いいよー。クロエも良い子だねぇ」

「もうすぐ終わるからねー」


 そうして順調に身体を洗い終わり、シャワーで泡を洗い流し終わろうかというその時、床に落ちていた大きめの泡がパンと弾けた。


「ぅにゃーー!?」

「わぁ!?」


 それがクロエの顔に飛んだのかクロエが驚いて、抑えきれずにわたしの手をすり抜けてお姉の方に飛びついた。


「きゃあ!?」

「ニャアア!?」

「うわ!?」


 お姉が驚いた拍子にお姉が手に持っていたシャワーから放たれた水がわたしの顔に少し直撃してから上に向けられて、お風呂の中に水が降り注ぎ、それでクロノも驚いてしまった。


「ぷぁっ! クロエ大丈夫だからね! クロノも!」


 わたしもすぐに顔に掛かった水を腕で拭ってからクロエを捕まえて落ち着かせてから湯船の中のクロノも宥める。


「いたた......」

「ふぅ......お姉もだいじょ——」


 なんとか二人を落ち着かせてから尻もちをついていたお姉の方を見て、ギョッとする。


 運動後に薄手の部屋着に着替え、白いTシャツを着ていたお姉は、大量に被ってしまったらしい水によってシャツがぴっちりと肌に張り付き、胸元とそこから両肩に延びる一筋にだけうっすらとパステルイエローの色が——


「うん、大丈夫、ありがと環樺。......環樺?」

「はっ!? お、お姉! あとはわたしがやっておくから着替えてきて!!!」


 我を取り戻してからすぐにバッと顔を逸らして目を隠し、ドアの方を指さして叫ぶ。


「え? ......え!?」


 わたしの様子を見て何事かと目線を下げて自分の身体を確認したお姉が遅れて気づき、顔を赤く染める。


「ご、ごめん! 後は任せるね......!」


 お姉はそう言って濡れていることも憚らず、バタバタと急いでお風呂場を出ていった。


 わたしも少し水が掛かっていたけど、黒いTシャツを着ていたので無事だった。


「はぁ......はぁ......。やば......」


 バクバクと心臓が耳の横にあるみたいに音が聞こえてくる。

 お風呂に入ったわけではないのにのぼせたみたいに顔が熱かった。


「......クロノ、クロエ、身体乾かそっか」


 とりあえず、それ以上何も考えないように無心でクロクロのお風呂を済ませて脱衣所で身体を拭く。

 少ししてから着替えてきたお姉と合流してドライヤーで乾かしてあげたりしたけど、お互いに口数が少なくて少し気まずい空気が流れていた。


 その後もずっと、どこか悶々とした一日を過ごしたのであった......

 黄色、お姉によく似合ってるなぁ......

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