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[双子百合]うまれる前から永遠に  作者: 唯凜
わたしには刺激が強すぎた
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第49話

 いつものようにスマホの目覚ましが鳴っているのが聞こえて目を覚ます。


「うぅん......」


 でも今日はいつもと違って目が覚めてもなんか頭がぼんやりしているようで、再び目を閉じてから目覚ましを止めることもせずにアラームの音を聞き続け、しばらくしてからもう一度目を開けてもぞもぞと動き出してようやく目覚ましを止める。

 目を開けてからも頭が起きて意識がはっきりしてくるまでいつもより時間が掛かっていた。


 スマホがあった方と反対の横を見ると、寝る時に抱きしめていたお姉がプレゼントしてくれた犬のぬいぐるみが視界に入って頭を撫でてあげる。

 肌触りが気持ちよくて、この子のおかげで寝つきはすごくよかった気がするのに、寝起きはなかなかうまくいかないな。


 段々と頭が起きてくると、窓の外や屋根からうっすらポツポツと音が鳴っていることに気づいて、身体を起こしてカーテンのできるだけ真ん中の方に手を伸ばす。

 そして波打って山折りになっている部分を人差し指と中指で挟んでピッと引っ張ると、挟む力が弱くてすぐに指先からカーテンは抜けてしまったけど、左右のカーテンとカーテンの間にはそれなりの隙間ができてそこから窓の外を眺める。


「あー。雨かぁ」


 窓の外では機嫌の悪そうなどんよりとした薄暗い空から雨が降っていて、そこで今日の目覚めがあまり良くない理由に気づく。

 最近はリズム良く生活していて、明るくなってきたら起きるような身体になっていた為に、今日は外が暗いままだったからなかなか意識も起きてこなかったんだろう。


 実際、カーテンを開けて外を見たのにもかかわらず、朝だという実感が湧いてこない。

 それならせっかくの休日なので、もっとベッドに横になってぼーっとしてあわよくばもう少しだけ二度寝をしても、なんて思わないこともないんだけど、今日はお姉と週に一回の朝の運動をするという約束をしていたのでそういうわけにもいかない。


「んっ、んん~~」


 掛け布団を身体から剥がしてゆっくりとベッドから這い出て、ぐぐーっと両手を上にあげて、さらにつま先立ちまでして限界まで伸びをする。


「——っはぁ!」


 身体がじんわりあったかくなってさっきよりも頭が起きてきた。それと同時に少し眩暈もする。だけどこの感覚が癖になってしまっている。


 いつもならこの後はカーテンを開けて日光を摂取して身体を起こす手伝いをさせるんだけど、今日はその役割を果たしてくれそうにないのでカーテンは少しだけ開いたまま放っておくことにする。


 きっとお姉も起きてくる時間なのでリビングに行って日光の代わりにお姉を摂取すればすぐに元気になれる。

 そう考えて、ヘアアイロンの電源を入れてから寝間着から部屋着へと着替えて軽く髪を整え、部屋を出てリビングへと向かった。


「あ、環樺おはよ」

「お姉! おはよ!」


 目的通りにリビングにはお姉が居てくれて、お姉の顔を見ただけでわたしの頭も身体もパチッとスイッチが切り替わったかのように一瞬で起きてきてくれる。


 もしかしたらお姉こそがこの世界の真の太陽なのかもしれない。


「なにしてるのー?」

「ん~」


 キッチンの中に居るお姉に近づいていって覗いてみると、お姉は包丁を持って桃を切っていた。


「桃だ! 美味しそうー!」


 そういえば数日前におじいちゃんとおばあちゃんから郵便でいくつかの果物が届けられていたのを思い出す。

 おじいちゃんとおばあちゃんは自分達で畑を持って果物を育てているので、そこで最近旬を迎えて収穫された物を送ってきてくれていた。

 数日寝かせた方が美味しいよとのことで、一旦暗所で寝かせておあずけされていたのをようやく食べれる時が来たのでテンションが上がる。


「この桃すっごく美味しかったから楽しみにしてて」

「あー! お姉つまみ食いしたんだ!?」

「あ! しまった......」


 わたしに指摘されて失言に気づいたお姉は目を泳がせる。


「ず~る~い~」

「ほんのちょっと、切れ端を食べただけだもん」

「わたしにもちょうだい!」

「もう、すぐに食べれるから座って待ってて」

「やーだ! 今!」

「しょうがないなぁ」


 わがままを言うと、お姉はくすっと笑い既に切り終わって皿に盛ってあった桃を一つ手に取り、半分にカットしてからわたしの口元に差し出してくれる。


「はい」

「やった! あ~、ん。ん~~!」


 桃が小さかったので食べる時に唇にお姉の指先がほんの少し触れてしまう。


 肝心の桃は口に入った瞬間にとろんとした濃厚な甘さが広がり、その時点で声をあげてしまう。

 そして一回噛んだだけでじゅわっと瑞々しい果汁が出てきて、噛めば噛むほど味が出る果肉によって口の中が幸せで満たされていく。


「はふぅ......」


 ごくりと飲み込んだ後についつい幸せのため息が出てしまった。


「ふふっ。どう?」

「天国」

「分かる。ほら、もう少しで終わるから座ってて」

「はい」


 幸せによってふわふわした頭で、今度はお姉の言葉に素直に従ってソファに座り、お姉が点けていたテレビから流れていた休日特有のいつもとは違って名前が分からないニュース番組を眺めて待っていると、すぐにお姉がお皿を持ってやってきた。


「はい、まずは桃」

「ありがとお姉!」

「それと~」


 さっきお姉が切っていた桃が盛られているお皿をわたしの前のテーブルに置いて、そのまま座るのかと思ったらもう一度キッチンの方に戻っていった。

 それから手のひらサイズの丸くて深いお皿をスプーン付きで二つ持って戻ってくる。


「はいこれも。桃が入ったヨーグルト」

「おお~、お姉さっすが~!」


 お姉はこれまた美味しそうなゴロゴロと果肉が入ったヨーグルトのお皿をテーブルに置いて今度はわたしの隣に座った。


「それじゃあ運動前に軽く腹ごしらえしよ」

「はーい! いただきます!」

「いただきます」


 二人で一緒にいただきますをしてから桃に二つ刺さっている爪楊枝を一つ取って桃に突き刺し、さっきよりも大きい果肉を口に頬張る。


「んんん~~~~」

「くすっ。環樺、まただらしない顔になってる」

「だってぇ、美味しいんだもん」

「まぁ、そうだよね。......んん~おいひぃ~」

「あははっ、多分お姉も同じようになってるよ」


 お姉も爪楊枝が刺さっていた桃を口に運んで、とろけるような表情をする。

 もぐもぐと咀嚼して動いている頬をツンツンしてみる。可愛い。


「じゃあこっちもいただいちゃおうかなー」


 お次はヨーグルトの方を手に取って、スプーンで軽く混ぜ合わせてから果肉を多めに掬って口に運ぶ。


「ん~! こっちも美味しいねぇ」

「ほんと? こっちの方はまだ食べてないから楽しみ」


 わたしにつづいてお姉もヨーグルトの方を食べる。

 ヨーグルトの酸味にたまに混ざってくる桃の甘みや食感がなんともたまらない。


「うん。朝食にすっごく良いねこれ」

「ね! 毎朝お姉に作ってもらいたいな~」

「なんかプロポーズみたいなセリフだけど、それって私の負担が今までより大きくなるっていうだけだよね」

「確かに」


 チラッとお姉を見ながらおねだりしてみるとジト目で返されてしまう。

 朝はほとんどが二人で一緒に準備するか、今日みたいにわたしかお姉の先に起きてきた方がその日の気分で先に準備し始めるかなので今のままが丁度いい。

 お姉が作った朝ご飯を毎日食べたいというのは本当だけど、一緒に料理しなくなるのはそれはそれで嫌だ。


「わたし達には今まで通りが一番だね」

「そうそう」


 そんなことを言い合って会話が一段落したのでちゃんと食べるフェーズに入って、二人とも無言でご飯を食べながらテレビを見ていると、今日から梅雨入りをしたというニュースが日本地図と一緒に画面に映し出される。


「ついにきちゃったかー」

「そうだね。憂鬱ー」

「初日からちゃんと降ってくれちゃってるし」


 窓の外を見ると、相変わらず空は薄暗く、雨は降り続けている。

 リビングはエアコンと除湿器も作動しているのですごく快適だけど、わたしもお姉も湿度が高いのは嫌いなので梅雨入りと聞くと気分が下がってしまいそうになる。

 雨自体は場合によってはそんなに嫌いでもないんだけど。


「今日は何で運動しようかねぇ」

「どうしよっかねぇ」


 どうするか相談し始めたけど、今日は雨が降っているから外に行くわけじゃないし時間を考えなくていいので、まずはこのお姉が作ってくれた美味しい桃と桃入りヨーグルトを存分に味わうことにした。


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