第47話
「お、ね、え! 今何してるのー?」
近寄ってきた環樺は、え! のタイミングで私の両肩にポンと勢いよく手を乗せてきた。
私は前に向き直る。
「さっきまで川に入って少し遊んでて、今は休憩中」
「えー! 羨ましいー! てかホントだ、裸足じゃん」
後ろから私を見ていたから私が裸足だったのに気づいていなかったようで遅れて指摘してくる。
「やっほーお姉さん!」
「あ、明奈、こんにちは」
「あ! 真尋、向こうでめっちゃ遊んでる!」
環樺の後ろからついてきていた明奈は挨拶だけすると、少し離れた所の川の中で遊んでいる真尋ちゃんに気づいて、急いでその辺に適当に靴と靴下を脱ぐと、バッシャバッシャと真尋ちゃんの所に向かって走って行った。
前から思ってたけど、この二人はどこでそんなに仲が良くなっているんだろう。きっと私と環樺が知らない所でも遊んだりしてるんだろうな。
「それから、えっと......」
明奈を見送ってから首だけ少し振り返って横を見て、さっき明奈の隣にちらっと見えたもう一人の子と目を合わせる。
「え、あっ......」
「この子はねークラスメイトの久野さん。今日のオリエンテーションで一緒の班なの!」
いきなり私に会話のターゲットにされたからか、慌てて口ごもってしまったその子の代わりに環樺が紹介をしてくれた。
「そうなんだ。はじめまして、環樺の姉の円樺です」
「は、はじめまして! 環樺さんのクラスメイトの久野と言います!」
「はじめましてがこんな態勢でごめんね。環樺と仲良くしてくれてありがとう」
「だからお姉! お母さんじゃないんだから!」
環樺にいつもみたいにツッコまれる。そんなつもりはないんだけど、つい環樺の友達に挨拶するときはこういう言葉が口に出てしまう。もう癖になってしまっているようだけど、本当にそう思ってるんだから半分仕方ない。
「いえ、そんな......! むしろ環樺さんにはこっちが一方的にお世話になってるというか......」
「別にそんなことないと思うけど」
「後、お姉さんのことも一方的に存じ上げてます」
「あぁ、前に一度環樺のクラスに行ったこともあるから」
「それもあるんですけど、お二人は少し前から有名になってきているので......」
少しもじもじしながらだけど、ちゃんと話してくれるようになってきた。
ていうか有名にって。
「私達が? 特に何もしてないと思うけど。学校ではたまにすれ違うくらいで放課後まで全然会ったりしてないし」
「まぁ、双子だしやっぱり珍しいんじゃない?」
「もちろんそれもなんだけど、そうじゃないっていうか......」
「どういう——」
「あー! 環樺さんと円樺さんが一緒に居るじゃーん!」
久野さんから話の続きを聞こうとしたら、更に後ろから二人組がやってきた。
「こんにちは!」「こんちは~」
「お姉、この二人も今回一緒の班の子達!」
「そうなんだ。こんにちは」
「二人が一緒に居る所見れるなんてラッキー!」
「こらこら、そんな人を縁起物みたいに」
「あはは......」
もう一人の子がその子に注意する。でも、こちらとしてはそういうことを言われて全然悪い気はしない。
二人が来ると、川の方からもざぶざぶとこっちに近づいてくる音が聞こえてきた。
「やっときた、内村ちゃん! この川めっちゃ気持ちいいから早く来なよ!」
「それな! 早く入りたい! 皆も行こーよ!」
明奈に内村ちゃんと呼ばれた子が迎えに来た明奈に続いて靴とかを脱いで川へと向かって行った。
「あ、うん!」
「しょうがないなー」
他の二人もその後に続いていった。まだちゃんと自己紹介もできてなかったけど。
なんか賑やかな台風のようにいきなりやって来てすぐに去っていってしまった。元々皆でこの川で遊ぼうと思ってここへ来たんだろうな。
「皆テンション高いねぇ」
「環樺は行かなくていいの?」
「もうちょっとお姉とここにいよっかなっ」
そう言って私の両肩から手を離して横から身体を軽くぶつけてきて、私が座っている岩の上に一緒に座ってくる。
それほど大きい岩でもないので当然のように狭くて、肩やお尻などがくっついている状態になっている。
「も~環樺、狭いんだけ、どっ」
「きゃはーー!」
肩で環樺をぐぐぐっと押すと、楽しそうな声をあげながら押し返してくる。
「スンスン。んふー、お姉、すごい煙臭い」
「えっ!?」
しばらく肩で押し合っていると、環樺がおもむろに私の首筋あたりに鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、ニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。
「やだぁっ! 少し、離れてぇっ!」
さっきまではじゃれるくらいで本当に退かそうとしていたわけではなかったけど、今度は本当に離れさせようと両手で環樺のことを全力で押す。
「やだね~! くふふっ、この前のお返し~」
「この前のも、どちらかと言えば、私が被害者でしょうがっ......!」
「えぇ~そうだったかなぁ」
全力で押しているのにも関わらず、環樺は全然離れてくれない。力の強さはほとんど同じはずなのにどうしてこういう時は余裕そうなんだ。
「っ......はぁ! もう、なんで離れてくれないのっ......!」
「んふふ~、そんなに褒めないでよ」
「褒めてない! はぁ、もういいや」
もう疲れてしまったので諦めて押すのをやめると、再びくっついて座る形になる。
「お姉の班はバーベキューしてたんでしょ? なら仕方ないって」
「そうだけどさ」
確かに今回の私達の班のメニューは皆でお肉や少しの野菜を持ち寄ってのシンプルなバーベキューだった。
それ以外では飯盒炊飯でご飯を炊いてみたくらい。
「お姉も炭に火をつける役割した?」
「うん。やっぱり環樺もやったんだ?」
「うん! 火をつけてる最中、お姉もやってるかなーって考えながらやってた」
「ふふっ私も考えてた」
それを聞いて私も環樺の匂いを嗅ごうと首筋に鼻を近づけると、恥ずかしそうにしたもののさっき私に同じことをしたのもあって抵抗せずにされるがままにしている。
くんくん。
「少し煙の匂いはするけど、いつもの環樺だ」
「わたしのとこは鍋とかフライパン使った物しかやってないからね」
「ホットサンドとシチューだっけ?」
「そうそう、すっごく美味しく出来たんだ~。お姉にも食べさせてあげたかったな」
「いつか二人でこういう所に来て一緒にご飯作りたいね」
「そうだね、約束ね!」
「そうなると運転免許取ってからになりそう」
「うわ~夢が広がるなぁ。免許取ったらお姉と二人でいろんなところに行ってさぁ」
そんな風に二人でくっついて座って川で遊んでいる人達を眺めながら色んな話をしていると、少し後ろの方で数人の男子のグループが歩きながら話しているのが聞こえてきた。
「やっぱ滝って良いよなぁ」
「いや~見に行ってよかったわ~」
というような内容だった。そういえばこのキャンプ場全体のマップを見た時にそんな話を聞いた気がする。確かこの川の上流の方だ。
「だってさお姉! ちょっと見に行ってみない?」
それを聞いて目を爛々と輝かせた環樺がこっちを見ながら提案してくる。
「行きたいけど、いいの? 班の子達を置いていって」
「う~ん、そうだなぁ......」
少し悩んだ環樺は、立ち上がって数歩歩くと明奈達が居る所に向かって大きな声で呼び掛けた。
「明奈ー! わたし達ちょっと行ってくるー!」
それに気づいた明奈は振り返って「オッケー!」とだけ返すと自分達の遊びに戻った。
適当だなぁ。
「だって! 行こお姉!」
了承を得た環樺は駆け足でこっちに戻ってきて私の腕を引っ張る。
「まぁそうだね。行こっか」
真尋ちゃんは明奈と一緒に遊んでいるし、こっちの班も大丈夫だろう。
やっと靴下と靴を履くと環樺に手を引かれていく。そして私達のちょっとした探検が始まった。




