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[双子百合]うまれる前から永遠に  作者: 唯凜
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第46話

「見て見て円樺ちゃん! お魚さんが泳いでる~!」

「真尋ちゃーん! 足元気をつけてねー!」


 班での炊事をしてご飯を食べ終えた後は各自自由時間へとシフトしていった。


 このキャンプ場へとやってきた瞬間からひと際皆の目を惹いていたこの渓流。

 自由時間になったことで遂に見に行けると興味津々だった真尋ちゃんに連れられて、班の他の子とも一緒にこの大きな渓流にやってきた。

 そして来るなりすぐに靴を脱いで元気に勢いよく川へと入っていく真尋ちゃんに注意を促す。

 改めて近くで見ると、広くはあるけど浅くて流れも緩やかなので転んだりしたところで流されたりする危険はないだろうけど、ところどころ当たり前に大きな岩とかは存在しているから気をつけるに越したことはない。


「大丈夫大丈夫~! あっ!?」

「え!? 真尋ちゃん!?」


 一瞬周りの景色を見たタイミングで真尋ちゃんが大きい声を上げたのを聞いて、まさか何かあったのかとすぐに真尋ちゃんの方を見ると何ともなさそうに立っていた。


「何か見たことない魚がいたよ!? 何だったんだろ~」


 びっくりしたけど、何か危険があったわけじゃないらしいのでホッとする。


「もう、いきなり大きい声出したからびっくりしたよー」

「えへへ、ごめんごめん。あっ! またいた!」


 何を見たのかは分からないけど、すぐに同じようなまた大きい声を出して何かを追っていく真尋ちゃん。

 いつも元気ではあるけど、いつもよりいっそうテンションが高くなっている様子を見て微笑ましくも思う。


 周りにも班での炊事を終えてやってきたであろう人達が何人か先に川に入って遊んでいて、少し離れた場所には川で遊んでいる生徒達を監視する役だと思われる先生が立っているのが見える。


「私もちょっとだけ」


 気持ちよさそうにはしゃぐ真尋ちゃん達を見ていると自分も少し川の水に触れてみたいと思って、靴を脱いで靴下を脱いだ靴の中に入れて揃えて置き、ジャージのズボンの裾を捲ってくるぶしくらいまで川の中に入ってみる。


「気持ちいい~......」


 ひんやりしているのももちろんだけど、緩やかに肌の上を流れていく水の感覚が心地良い。

 今日は真夏に比べると暑すぎるとかはないけど、天気も良いし夏が近づいてきているくらいには気温が上がっていて、それに加えてさっきまで炭を使ってバーベキューをして火照っていた身体に川の優しさが染み渡る。

 普段あまり感じることのない、足の裏に直接当たるゴツゴツとした石の感触ですらどこか楽しい。


「あ、円樺ちゃんもこっちにおいでよ~!」


 私が川に入ったのに気づいた真尋ちゃんが大きく手を振ってピョンピョン跳ねながら声を掛けてくる。

 チャプチャプと音を立てながらゆっくりとそちらの方に向かって行くと、思ったよりも深くなくて膝のあたりまでしか水が来ないみたいだ。

 それでもここは流れが緩やかだからいいものの、津波とかはこのくらいで身体が持っていかれるのに抵抗できないくらいらしいから、自然は怖いものだということは忘れないように気をつけていこう。

 だけど遊ぶにはもってこいの場所かもしれない。


「ほらほら! こういうところにね、あ、居た!」

「んー? ほんとだ、見たことないのが居るね」


 さらに真尋ちゃんに導かれて奥に見に行ってみると、少し先にあまり見かけない形の魚が数匹泳いでいるのが見える。

 それほど魚に詳しいわけではないけど、少なくともスーパーとかそういう魚売り場では見たことがない形だ。

 あ、そもそも川魚はスーパーでは見ないかも。


 川魚と言えば、昔はたまーにお父さんに連れられてこういう大自然の中にある釣り堀に来ることがあった。

 そこで竹で出来た簡素な釣り竿を借りて粘着質な泥団子みたいな丸い練り餌を買ってニジマスやイワナを釣り、その釣った魚をその施設で唐揚げにしてもらって帰りの車の中で食べたりしたなぁ。


 ここにもその時に見た子達と同じ魚は居るのかな。アユの塩焼きとかも食べてみたいな。


「この子達も食べれるのかな~?」

「あはは、どうなんだろうね......」


 今自分で考えていたのと似たようなことを真尋ちゃんが口に出したのを聞いて、つい苦笑してしまう。

 二人ともさっきご飯を食べ終えたばかりだというのに、やっぱり川魚を見るとそういうのを考えてしまうんだろうか。


「あ! 円樺ちゃん、あの子はよく見る子じゃない!?」

「え? あ、ホントだ! この子は見たことある!」


 川の中を観察しながら移動していく真尋ちゃんがまた何かを発見したようで、指をさす所を見ると確かに昔見た魚と同じような魚がそこに居た。

 見分けられたりはしないからどの子なのかは分からないんだけど。


「採って食べてみようよ!」

「えー、いいのかなぁ......?」

「そりゃ~!」


 物騒なことを言ってその魚が居た場所へザバザバー! と豪快に突撃していく真尋ちゃん。

 採って食べる、とは言ってたけど本当にそんなつもりはなくて、ただ楽しんでるだけだというのがよく分かるくらいの大きい動きで両手を川の中に突っ込んで大きい水しぶきをあげた。


「ぷわっ! きゃは~~!」

「あーもー、真尋ちゃん、濡れちゃうよー!」

「気持ちいい~!」


 水しぶきは真尋ちゃんの顔や身体にも思いっきり跳ねて服を濡らしていたけど、それをむしろ楽しむ真尋ちゃん。

 本人が楽しそうならいいんだけど、この調子でいたら全身ずぶ濡れになって帰りのバスに乗せてもらえなくなったりするかも。


「真尋ちゃんー! それ以上濡れちゃダメだよー!」

「はーい! あ、こっちにもいるー!」


 返事はしているけど ちゃんと分かっているのかいないのかそのまま続けてはしゃいで行ってしまった。


「ふふっ。たまにしかこういう機会もないし仕方ないか」


 私の分まで沢山はしゃぎまわる真尋ちゃんを見ているとかなり満足感を覚えてしまったので、ゆっくり歩いて脱いだ靴がある所まで戻ることにする。


「はぁ~気持ちよかったぁ」


 川に入るのも気持ちが良かったけど、冷たい川の水から出て久しぶりに外気に触れた足の感覚もそれはそれで気持ちが良い。


 靴を回収してから、川岸にあった近くの座りやすそうな大きな岩に座って、首に掛けてあったタオルで軽く足に付いている水を拭く。

 気をつけていたつもりだけど、ジャージのズボンの裾が少し濡れていた。

 まだ足が湿っているので靴は履かずに隣に置いて一息つき、改めて周りの景色を眺めることにする。


 よく見るとさっきよりも炊事を終えてやってきた人が増えてきていた。

 真尋ちゃんはまだ元気にはしゃぎまわったまま、さっき居た場所よりも遠くに行っているようだ。脱いだ靴の位置ちゃんと覚えてるかな......


「ふぅ......」


 目を瞑って耳を澄ませてみれば、生徒達のはしゃぐ声の中に聞こえてくる川のせせらぎ、遠くから聞こえてくる鳥や虫の鳴き声に改めていつもと違う環境に居るんだな、という気持ちに浸ることができる。

 たまに気分転換したいときや寝つきが悪い時に動画サイトを開いて聴く環境音を生で感じる。

 人が増えてきているからもう少し静かなところに移動してみたいなという気持ちも出てくる。


 そうして目を瞑ったまま周りの音に耳を澄ましていると、背後でも沢山のジャリジャリと川岸の石の上を歩く人達の足音も聞こえる。

 

 聞いているとその中にどうしてか一つだけ、やけに耳か頭か、身体の中の何かしらに強調されるように聞こえてくる足音が一つ。


 あ、この気配——


 近くに来るとその足音が小さくゆっくりになった。

 もう誰か分かったので、目を開いて振り返りながらその気配の正体の名前を口に出す。


「環樺」

「あ。やっほーお姉! やっぱり気づかれちゃうか~」

「ふふん、当然」


 気づかないふりして驚かされてあげてもいいんだけど、私が環樺に気づけなかったって思われたくないからこれでいい。

 目が合って一瞬固まった環樺だけど、もういいやという風に開き直ったようで、小走りでこちらに近寄ってきた。


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