第45話
「三人はまだ帰ってきてないみたいだね」
「あっちも借りに行ってる班が多いのかも?」
「そうなのかもね。先に材料切っておこうか」
テーブルに水の入ったペットボトルを置いて周りを軽く見渡す。
わたし達が炊事場から拠点に戻ってきてもまだ三人の姿は見えないようで、やれることをやって待っていようと思って100均で買ってきたプラスチックのまな板をビニール袋から取り出してテーブルの上に置く。
「えっと、何から切る?」
「そうだなぁ......」
ここでわたし達の班の作るメニューを発表しよう。
事前の話し合いで決めた主なメニューは二つ。
一つ目は主食となるホットサンド。そして二つ目は主菜兼スープ代わりにもなるクリームシチューだ。
このメニューになった理由はというと、映えが欲しかったかららしい。
いつものように明奈がそう提唱したところに内村さんがノリノリで賛成してそういうコンセプトになりメニューを考え始めた。
定番のカレーだと他の班と被ってしまうしなんか物足りないということで、少し工夫を凝らしてのホットサンドとそれに合うクリームシチューになった。
シチューの方は私の提案だ。
色々考えたけど、これなら使う具材をほとんど同じにして、なるべく用意する材料の数を絞ることができる。
後は、一応飯盒炊飯を体験したいという意見もあって、シチューならその要望も満たせると思ったから。
シチューとご飯が認められない人はスープとして楽しめばいいし、沢山食べたい人はご飯にシチューをかけて食べることができる。
ちなみにわたしはご飯にシチューをかけて食べれる側の人間だ。逆に無理な人の気持ちが分からない。美味しいじゃん。
「キュウリとトマト取ってもらえる?」
「分かった!」
時間が掛かるシチューの具材の方からやるのがいいんだろうけど、今日に限っては炭から火を付けるので火が付くまでに時間が掛かる。
その間、他の子達がホットサンドの具材を挟んで楽しめるようにそちらの具材から切っていくことにした。
「あの、環樺さん。今日はどうもありがとう」
「ん? どうしたの? まだ始まったばっかりだけど」
トントンとキュウリを輪切りに切り始めると、いきなり久野さんからお礼を言われた。
「えっと......他に仲の良い子も居るはずなのに、一緒の班になってくれて......」
「あぁ、それならむしろ声を掛けてもらえて嬉しかったよ。普段あまり話をしない人と組んでこそレクリエーションって感じもするし」
「環樺さん......」
「だからこっちこそありがとね」
そんなことを思っていたから、班が決まった時も少し縮こまっていたのかなーと今振り返ると思う。
本当にいい機会だと思うし嬉しかったし、こちらからもお礼を伝える。
「おーーーい!!」
「あ、帰って来たみたい」
少し離れたところから明奈の大きな声が聞こえてきて、そちらを見ると大きめのバーベキューコンロを二人で一緒に持った明奈と内村さん、他の小物を持った井上さんがこちらに向かってきているのが見えた。
「おかえりー」
「いやーおまたせおまたせー」
「ごめんね二人とも、貸し出しのとこが混んでるのもあったんだけど」
「高橋さんがウキウキでちょっとだけ川を見に行きたいって走って行ったもんだから」
「あ! 内村ちゃん! それは言わない約束だったじゃん!」
ここに着いて荷物を置くと、早々にきゃいきゃいと仲良く言い合いを始めて一気に賑やかになる。
「明奈~~」
「いや! 川に行ったのは一瞬でホントに人が多くて時間が掛かったんだってば! ほら、貸し出しの確認とかもあって!」
「寄り道したから並ぶのが遅れたんでしょ」
「そ! れは、あるかもしれないけど......だってすっごい綺麗な川だったしこの時間は誰も居なくて一人占めできたし、それに井上ちゃんと内村ちゃんだって割と乗り気だったし!」
「あ! 責任転換だ!」
「ひどーい」
「ふふっ」
わたしが詰め寄ると早口で言い訳を始めて、井上さんと内村さんを巻き込んでさらにわちゃわちゃとして、それを見た久野さんがくすっと笑った。
久野さんの笑顔に免じてここまでで許してあげよう。
「ほらほら、まずは火を付けなきゃ何も始まらないから」
「炭なんか使ったことないんだけどー」
「先生が周ってくるらしいからそれ待つ?」
「大丈夫、わたしできるから。久野さん、包丁任せていい?」
「あ、うん、任せて!」
「お~環樺さんさっすが~」
ゆっくりやってもいいんだけど、他にも沢山ある班を渡り歩いてくる先生を待っていたらあまりにも皆手持無沙汰になってしまうだろうと思い名乗りを上げる。
そこからシチューを作るのも更に時間が掛かるだろうし。
久野さんに包丁を渡し野菜を切る役割を引き継いで、井上さんが持ってきた物の中にあった軍手を履く。
着火剤もあるみたいだし正直誰でもできそうだ。
まずは火ばさみで着火剤を置く。そしてその上に炭を手掴みで組み立てていく。
バーベキューコンロの中で炭のやぐらを作り、マッチにシュッと火を点けて着火剤へ火を移す。
後はしばらく待ってからうちわでパタパタと仰いでいればそのうち火が付くだろう。
「おお、手際が良いねぇ」
「すごーい、よく知ってるねー」
「前にちょっとやったことがあってね」
一昨年だったっけ、久しぶりに家族でこうやって出掛けた時にやったバーベキューでお姉と一緒にお父さんに教えてもらいながら覚えたことだ。
小さい頃はもう少しそんな風に家族で出かける機会も多くて、そういう時は当然のようにお父さんが火を起こしていた。
それを見てかっこいいなーって思っていたわたし達は毎回のように「わたし達もやりたいー!」「やらせてやらせてー!」みたいな感じにお父さんにねだっていた。
そして当たり前に子供には危ないからって言われてやらせてもらえなくて。
その過程を経て一昨年のバーベキューをやった際、ついに任せてもらえたのが嬉しくて、やり方も含めて色濃く思い出に残っていて、今回こうしてお披露目できる機会が訪れたことも嬉しく思う。
そういえば、お姉の班も今日はお肉を焼くって言ってたから、もしかしたら今同じようにお姉もこうして懐かしい気持ちになりながら火を起こしてるのかもしれない。
「んふふっ」
そう考えると楽しくなってパタパタとうちわを仰ぐ手も弾んでいく。
「あ、環樺~、今お姉さんのこと考えったっしょ~」
「えっ!? なっ、なんのこと?」
いきなり明奈が近くに寄ってきて、周りに聞こえないくらいの小声で指摘されて、ついビクッとしてしまったけどすぐにいたって平静を装う。
皆、わたしが火を起こし始める様子を少し見て、その後は一旦ホットサンドづくりの為に材料を切っている久野さんの周りに集まってテーブルで作業を始める準備をしていた。はずなのになんで、っていうかどうして気づかれた......?
「あはははっ」
と楽しそうに笑うだけ笑って、再び皆の方へと帰っていった。
なんだったんだ。
それからしばらくすると炭に火も付いたので、火ばさみで組んでいた炭を広げて追加の炭も入れる。
「火付いたよー」
「おーありがとー!」
「久野さん、先にシチューの材料もらっていい?」
「はーい!」
先にバーベキューコンロの上に鍋を置いて、油を敷く。
火をつけている間に用意してもらっていたシチューの材料が乗っているお皿を受け取る。
皆がパンに材料を挟む作業とかをしやすいようにテーブルの上のスペースを作ってあげる為、順番を気にせずどんどん鍋にシチューの材料を投入して火を通し始める。
外で作る料理だから大雑把なくらいが味が出てちょうどいい。
シチューを作っている片手間に、鍋の隣でフライパンで卵やベーコン、玉ねぎを焼いて皆に渡してあげると、きゃあきゃあと騒ぎながら色んな組み合わせを話し合いながら楽しそうに作業していた。
材料に火が通ったのでペットボトルの水を鍋に適当に加えて、市販のルーを投入して煮込む。
同時進行で他の四人はパンに材料を挟み終えて、隣のフライパンでパンを焼き始める。
「できたんじゃない!?」
「おお~良い感じ!」
「やったー、完成ー」
最初に焼きあがったホットサンドにみんな喜んでから、次々と焼いていく。
「よーし! てことで、環樺さん! はい!」
「「「あ~ん!」」」
「えっ!? あ、あー。んぐっ」
さっき最初に焼いて少し冷ましていたホットサンドを持った内村さんがわたしの口に向け、いきなりだったから反射的に口を開けると軽く突っ込まれる。
「はふっはふっ......!」
いきなりだったから自分が猫舌なのも頭になく、少し冷ましていたとはいえわたしには熱々のホットサンドを頑張って口の中で冷ましながら咀嚼していく。
パンの部分は熱かったけど、中のレタスとかマヨネーズは熱くなかったのでなんとかなりそう。
「どうどう、環樺?」
「んっ、んっぐ。うん、すっごく美味しい」
何とかできるだけ急いで飲み込んで感想を伝える。熱かったけどちゃんと美味しかった。
「やったね! 次は私ー!」
「あ、ずるい」
わたしの感想を聞くと、すぐに皆でそのホットサンドを一口ずつ回し食べし始める。
「んーー! んまー!!」
「んー! アタシらセンスあんじゃね!?」
「うん、うまい。久野ちゃんもほら」
「あ、うん、いただきます」
わたしはギリギリだったけど、皆は普通に食べているのを見てやっぱりわたし達の猫舌って結構重度なんだなって思ってしまった。
いきなりでいただきますも言えてないし。久野さんだけはちゃんと言ってて偉い。
そうして皆で作業をして出来上がったシチューとホットサンドがテーブルに並べられ、皆で座って食べ始める。
その間にバーベキューコンロの上では皆で調べて準備していたらしい飯盒が炊かれ始めており、後から何人かで分けてシチューをかけて食べた。
なんで外で食べるご飯ってこんなにも美味しいんだろう。




