第44話
「もう少しで着くので降りる準備をしてくださいねー。寝てる人は起こすようにー」
「だって環樺! 楽しみー!」
「久しぶりの大自然だなぁ。どんな所だろ」
隣に座る明奈が先生の声にはしゃぐ。
今日は一年生全体でのレクリエーション学習の日だ。炊事遠足みたいなことをするらしい。
学校を出発して一時間としばらく、わたし達のクラスを乗せたバスに揺られて今回の目的地になっているキャンプ場へと向かっていた。
先ほどからいつもわたし達が暮らしているような日常の景色は鳴りを潜め、木々の間を少しの傾斜をつけて登っていっているようで、先生の言葉通りにそろそろ目的地に着くんだという雰囲気が強くなってきている。
「ん、着いたんじゃない?」
「マジ!?」
それから十分もしないくらい、窓の外を眺めているとそれまでの道路よりも広い場所に出て、バス前方の視界が広がったのが見える。
スピードが緩んでバスがぐいーっと曲がったりすると、すぐにかなり大きめの駐車場に入って、先に到着していた他のクラスのバスの隣に止まった。
「ここからはしばらく移動するのではぐれないようにー」
ギャアギャアと皆がテンションを上げて騒ぎ始め、ぞろぞろと前から順番にバスを降りていって、先生がバスから全員降りたのを確認するとクラス全員で列になって駐車場からキャンプ場へと歩き始める。
周りの子達と話をしながら坂道を登ったりしてどんどん奥へと進んでいくと、ついにキャンプ場の姿が見え始め、わたし達が今回活動に使うらしいエリアに到着する。
「すごーひろー」
「空気が気持ちいいー!」
「見て見て! めっちゃ川綺麗!」
眼前に広がる大自然を見渡すと、広い野原の先の木々が立て並ぶ中にテーブルやベンチが設置されていたり、屋根が付いた炊事をする為の場所が数か所あったり、少し離れた向こう側には広い渓流があって、マイナスイオンで溢れているんだろうと実感できるくらい空気が美味しい。
それから二分くらいすると隣のクラスが到着してわたし達のクラスの隣に並んだ。
「はーい全員集合ー! 先生方、クラスごとに人数確認してくださーい!」
クラス毎に簡単な点呼が終わると、この二クラスを総括する先生から今日の催しに関する話とこのキャンプ場の説明が開始される。
今回のオリエンテーション学習は全部のクラスが同じ場所に集まるとギュウギュウになってしまうので、二つのクラス毎にエリア分けがされるらしい。
前半の炊事をする時間はこのエリアで各班に別れてそれぞれの持ち場で料理をしてご飯を食べ、その後の自由時間になったらキャンプ場のどこに行ってもいいみたいだ。
ちなみに、このエリアは3組と4組が合同で利用することになっているので、どこに陣取るかは分からないけどお姉も一応同じエリアだ。嬉しいな。
少し首を伸ばして隣のクラスの方を確認する、と——
居た! お姉だー!
先生の説明を聞いているお姉の横顔を確認できて、気づいてーと念を送ると感じ取ってくれたのか少しキョロキョロとしてからわたしを見つけて目が合う。
先生に注意されないくらいに軽ーく手を振ると、もうしょうがないな、なんて声が聞こえてきそうな感じで微笑んでから前に向き直ったのでわたしも満足して前を向く。
いつかの入学式を思い出して、同じようなやり取りをしたなって懐かしい気持ちになった。
そしてやってはいけないことや行ってはいけない場所、炊事場の説明や貸出している物などの諸々の説明が終わって一旦解散となり、班ごとに分かれて各々の持ち場に散り始める。
「明奈、行こっか」
「おっけー」
「おーい、久野さーん」
「あ、環樺さん!」
男女に別れて五人一班で、わたしは明奈と数日前に体育の授業で一緒に遊んだ久野さんと、久野さんと仲が良くていつも一緒に居る井上さんと内村さんの五人の班になった。
どういう経緯でこうなったかというと、班決めの際にいつも一緒にお昼ご飯を食べている四人になるのかなーあと一人かーとうっすら思っていたところに、班決めが開始されて真っ先に久野さんから声を掛けられた。
せっかくの誘いだったので快諾させてもらい、あっちは三人だったので明奈を誘ってこの班の完成だ。
「井上さんと内村さんも今日はよろしくね」
「こっちこそよろしくねー」
「うん、よろしく!」
五人で合流して改めて挨拶をしてからわたし達も持ち場へと向かうことにする。
「ここかぁ! うんうん、良い感じじゃない!?」
「景色も良いし炊事場もそんなに遠くないし、良いかも」
自分達の持ち場に辿り着き、持っていた荷物を木で出来たテーブルの近くに置く。
今日の活動はまず炊事から始められる。
各々作りたいものを自分達で決めて、食材や調理道具を班のメンバーで分担して持ち寄ってくることになっていた。
「えっと、まずは各班に支給される道具を取りにいこっか」
「あ、アタシ受け取りに行くから環樺はここで準備しててよ!」
調理をする為の火元になるバーベキューコンロや炭などは貸し出しているらしく、まずはそれを取りに行こうと考えたところで明奈が名乗りを上げる。
「環樺さんにほとんど調理は任せちゃってるから力仕事はうちらに任せといて」
「そう? じゃあお願いしようかな」
わたしは普段からよくお姉と一緒に料理をしているのもあって、この班の中では一番料理ができるだろうということで調理担当に任命されていた。
「それじゃ私ら三人で行ってくるから、久野ちゃんは環樺さんの手伝いしといて」
「あ、うん!」
「はい、食材が入ってる袋はここに出しておくね」
「よーし行こ! 井上ちゃん内村ちゃん!」
そういうことで皆が各々持参してきた食材達をバッグから取り出して一通りテーブルやベンチの上に出すと、わたしとたまに料理をするらしい久野さんを残して他の三人は貸し出している物を管理している先生の所へと向かって行った。
「久野さん、炊事場に水汲みと野菜洗いに行こっか。それ持ってもらえる?」
「えっと、これ?」
「そうそう」
わたしが持参してきたビニール袋に入った料理道具達をバッグから取り出して空の2Lペットボトルを二つ持ち、久野さんに野菜が入った袋を持ってもらって一緒に少し離れた所にある炊事場に向かう。
「今日は良い天気になって良かったね。晴れてるけど暑すぎもしないし」
「そうだね、そろそろ梅雨入りの時期だから心配だったけど、晴れてよかったな」
「明日から連続で雨の予報だったからギリギリだったね」
今年は例年よりも梅雨の時期が遅れているおかげでこうして最高の環境を楽しむことができている。
そんな天気の話をしていると炊事場に辿り着いて、なんとか一つだけ空いていた洗い場の一番端の水道を確保する。
ここともう一か所の炊事場があるとはいえ、このエリアに居る二クラスの人達が共同で使いに来る場所なので結構人が多かった。
それと、この洗い場を囲むようにかまどが設置されていて、そこで火を使っている班もあるようだ。
さっと何かを焼くだけならここのかまどを使いにきても良いけど、わたし達は長く火を使うことになるだろうからこのかまどではなくバーベキューコンロを取りに行ってもらった。
「一か所空いててよかった~。先にさっと野菜洗っちゃお」
「うん!」
二人でジャージの袖を捲って、久野さんがレタスやニンジンなどの野菜をビニール袋から取り出して軽く洗って袋にしまいなおして、その後にわたしが料理道具を軽くすすいでからペットボトルに水を汲むと、さっさと混んでいる炊事場から退散して自分達の拠点へと戻った。




