第38話
朝、カーテンの隙間から差し込んでくる一筋の日差しと小鳥の鳴き声に起こされる。
目を開けようとすると、いきなりの明るさに目が耐えられずにちょっとした痛みを感じながら目を細める。
「んっ......」
寝返りを打って身体を横に向ける。それから枕元に手を伸ばして手探りでスマホを見つけて画面を確認する。
目覚ましを掛けていた時間の直前に起きてしまったらしく、もう二度寝もできないなーとうっすら思いながらタイマーの数字が減っていくのを寝ぼけ眼でぼーっと見つめる。
瞼の重さに負けないようにしながら減っていく数字を見守り、10、9、8......3、2、1......そしてタイマーが0になって、ピと最初の音が鳴った瞬間にタイマーストップのボタンを押す。
「ん~~~~」
上半身を起こして伸びをして身体中に血液を巡らせる助けをする。
「ふぅ......。......よし」
一呼吸おいてちょっと気合を入れてからベッドから降りて、棚の上にあるお姉から誕生日プレゼントとしてもらったコケリウムを覗き込んで今日の様子を確認する。
「んふふ」
まだもらってから数日しか経っていないし、変化はないだろうなとは分かってはいるけど、こうして今日はどうかなーって確認するのが毎朝の楽しみの一つになっているのは間違いない。
「あぁ、お水あげたい! けど我慢我慢......」
これを完成させた後お姉に水のやり過ぎはダメだと説明されたし、お姉にもらった説明書もしっかり読んで確認した。でもやっぱりお世話してあげたい! って思ってしまうこの気持ちを抑えるのもまた毎朝の日課みたいになっている。
「ふぅ。そろそろ行こうかな」
水やりの誘惑を抑えるのに成功して部屋を出て下の階に行く。
顔を洗うために洗面所に行く、んだけどその前にお姉が起きてきてるか確認するためにチラッとリビングをドアのガラス越しに覗いてみる。
ん~、いた!
「お姉おはよっ!」
ソファの背もたれ越しにお姉の頭が見えたのでリビングのドアを開けてお姉に挨拶する。
「あ、環樺おはよ」
ソファに座ってテレビを見ていたらしいお姉はわたしの声に振り返って挨拶を返してくれる。
それだけで気分が良くなってルンルンな状態で洗面所に行って顔を洗ってくる。
顔を洗って目が覚めて、改めてリビングに入ってスタスタとソファに向かって歩いて行きお姉の隣に勢いよく座る。
「よいしょっ」
「もう、朝から元気だね」
「えっへへー。お姉も今日はバッチリ目が覚めてるね」
「そうだね、今日は久しぶりに寝起きが良かったかも」
「えっ、珍しいっ」
「む~、その反応はムカつく~」
そう言いながらお姉が人差し指でわたしの頬をぐりぐりしてくる。
「あーごめん、ごめんってばお姉ー」
「ふふ、よろしい」
冗談でムカつくとは言われたけど、この時間にしては珍しく目が覚めていて気分が良さそうなお姉と触れ合えて楽しくなる。
テストや誕生日でこの数週間、少し気分的に忙しくしていた日々が過ぎ去って、久しぶりに何も意識しなくてもいい日常が訪れてゆったり流れている時間を堪能する。
もちろんそういう忙しい日々もお姉と一緒だから楽しいんだけど、こういうのは交互に来る方がどっちの良さも実感できるのでその方がいい。
「環樺、いつもよりちょっと早いけどご飯もう食べちゃう?」
「うーん、いつもの時間までゆっくりしてようよ」
「そう? じゃあそうしよっか」
「うんうん、朝はいつも通りが一番いいよ。ねークロノ」
「ンア~」
いつもは二人が目がちゃんと覚めてからご飯を食べている。今日は二人とも目覚めが良かったようでいつもより少し早い時間だけど、別に急ぐこともない。
いつもの時間までゆっくりすることを決め込んで、わたし達の足元まで歩いてきていたクロノを座ったまま捕まえて抱きあげ、もう一度ソファに深く身体を預けた。
「今日の星座占い~」
「さーて、今日はどっちかなー」
ご飯を食べている最中に、いつも見ている平日朝のニュース番組の定番の星座占いのコーナーが始まる。
学校がある日の朝はこの占いの結果でどっちが食べ終わった食器を洗うか決めてもらっていた。
流石に朝からあっち向いてほい対決をする気にはならないので、わたし達が干渉できない外部に運任せにしている。楽しいし。
誕生日が違ったらどっちの星座の順位が上だったかで決められるんだろうけど、わたし達は双子で当然同じ星座なのでそれはできない。
そこで、わたし達の星座であるふたご座の順位が一位から六位だったらお姉、七位から十二位までだったらわたしが洗い物をするということにしている。
わたし達にとってこの占いコーナーは上位だったから嬉しい、下位だったから残念、というよりは洗い物を回避できた方がちょっとラッキーみたいな認識になっている。
そう考えるとこの占いコーナーを作ってくれている番組に対しては趣旨と少し違って申し訳ないかも。
でも物事の楽しみ方は人それぞれだっていいよね。
「今日の七位は~ふたご座のあなたー!」
「あ~おっしー!」
「やった。じゃあ今日もお皿洗いよろしくね、環樺」
「むぅ。もう三回連続くらいだけどしょうがないかー」
ということで今日の運試しはお姉に軍配が上がったので、二人で朝ご飯を食べ終えた後はわたしが洗い物を担当した。
洗い物をした後は、わたしの洗い物が終わるまでソファでくつろいでいたお姉と洗面所で並んで歯を磨いてから部屋に戻り、鏡の前で髪を整えたり制服に着替えたりして登校の準備を進めていく。
「うん、いい感じ」
最後にスタンドミラーで全身を確認してから、今日使う教科書や持ち物をしっかりチェックしてバッグを持つ。
そうして全部の準備を終えて、お姉とリビングで合流していつも家を出る時間まで少しだけ時間をつぶした。
「「いってきまーす」」
家の奥から自室に居るお母さんのかすかな「いってらっしゃーい」という声を聞いてから家を出た。
「ん~~、いい天気~」
「だねー」
「あ! お姉、見て見て!」
「ん? お~、紫陽花も少し咲き始めてるね」
庭にある紫陽花が数日前まで何もなかったはずだけど、今日になって少し花を付け始めていた。
気温だけではなく、こうして視覚から得られる情報からも季節の移ろいを感じる。
しばらく一緒に紫陽花を眺めてからその場を離れて通学路を進み始める。
「紫陽花が咲いてきたってことはそろそろ梅雨入りかなぁ」
「今年はちょっと遅いみたいだよ」
紫陽花を見てふと連想したことを口に出す。
「あ、そうなんだ」
「じめじめするのいやだなぁ」
「ねー」
雨はそれほど嫌いではないんだけど、連日雨が降って湿度が高い日が続くのは過ごしにくいから梅雨はあまり好きじゃない。
梅雨が終わると一気に暑くなっていくイメージがあるし。
そんな風に雑談や記憶に残らないくらいの適当なやり取りをしつつ、二つの足音とたまに小鳥の鳴き声を聞きながらお姉と学校に向かって行く。
学校に近づくにつれて人が増えていくけど、今までもよく話したりするクラスメイトとは教室に入るまでに出会うことはほとんどなかった。人が多いから気づかないだけかもしれないけど。
明奈はいつもギリギリに来るから時間は合わないし。そういえば真尋ちゃんも結構ギリギリだったっけ。
あの二人は見掛けるたびに仲良くなってる気がするけど、こういう時間によく会って話したりしているんだろうか。
そして教室に着くまでギリギリまでお姉を補給しておくことにする。
「それじゃあまた連絡するね」
「うん! じゃあねお姉ー」
教室の前に着いてお姉と別れの言葉を交わす。
「おはよー環樺さん」
「あ、おはよー」
「うん、おはよう」
教室に入り何人かと挨拶を交わしながら自分の席に着いた。




