第37話
「よっし! じゃあプレゼント持ってくるから待っててね!」
「はーい、いってらっしゃい」
休憩の時間を終えた環樺が勢いよく立ち上がり、プレゼント交換の為に用意してくれたプレゼントを取りに行こうと一旦自分の部屋に戻った。
「ふぅ......」
私も一息ついてから立ち上がって、環樺に見つからないように隠して保存しておいた誕生日プレゼントをクローゼットから取り出す。
一昨日、学校帰りに一人で電車に乗って、あのお花屋さんに取り置きしてもらっていた物を取りに行ってきた。
小さい紙袋の中に入っている手のひらに収まるくらいの小さめの綺麗なラッピングが施されているプレゼントを、どうにかなっているわけもないと分かっていながらちょっとだけ取り出して本当にそこにあるのか、なにも問題はないか確認する。
環樺は私が選んだものは大体なんでも喜んでくれるはずだとは頭で分かっていても、それでもちゃんと喜んでくれるかなぁとか、こういう時は楽しみでもあるんだけどいつもちょっとだけ緊張してしまう。
そうしていると部屋の外からパタパタパタと環樺の足音が聞こえてきたので紙袋にしまいなおす。
「ただいまー!」
「ふふっ、おかえり」
元気よく部屋のドアを開けて入ってくる環樺を見ると自然と顔と緊張が緩んでしまう。
その環樺の手には私と同じようにそれほど大きくない紙袋が一つ。
「あ! それがお姉の用意してくれたプレゼント? 何だろ、楽しみだなぁ!」
「ふふ、私も楽しみ。じゃあさっそく交換しちゃう?」
言葉通りに楽しそうにはしゃぎながら、私が座った向かい側にテーブルを挟んで座り、テーブルの上にお互いのプレゼントを置いた。
「ひゃあ~! 緊張するー!」
「そうだよね、何年経っても楽しみだし緊張するよね」
「うん! それじゃあ、はいこれ!」
「ありがと。私のも、はい」
環樺が私にプレゼントを手渡してくるのを受け取って、私も環樺にプレゼントを手渡す。
「どっちから開ける?」
一緒に開けてしまったらせっかく用意したプレゼントを受け取った相手の反応が見れなくなってしまうので、こういうときは一人ずつ順番に開けようっていうことにしている。
「じゃんけん......いや、お姉が先に開けて!」
「そう? なら私から開けちゃうね」
私からの問いかけに少し悩んでから私に先に開けて欲しいという環樺の決断を受けて、環樺の用意してくれたプレゼントの紙袋の開け口に手を掛ける。
その中にあったラッピングされている物を取り出してテーブルの上に置く。
無言の環樺に見守られながら丁寧にラッピングを剝がしていくと、一つの箱が現れる。
箱に手を掛けて、チラッと環樺を見るとコクリと頷いた。
そして箱を開けて、中から出てきた物を直接手に取ってみる。
「わぁ。これ、有名なヘアブラシだよね」
「そうそう!」
私が聞くと、それまで沈黙していた環樺も言葉を発した。
「毎日使えそうなものとか、高校生になったし、とか色々考えた結果ヘアブラシにしてみたの」
「嬉しい、ありがと環樺」
「ホント!? よかったぁ」
お礼を言うと、環樺は安心したようにぱぁっと笑顔になって元気になる。
「お姉の綺麗な髪が大好きだから、もっと綺麗な女の子になって欲しいなって」
「ふふっ、そっかそっか」
「ホントはドライヤーとかにしたかったんだけど、流石に良い物ってなると高くてさ。ヘアブラシなら予算内で良いもの選んであげられたから」
安心からか口が流暢になりながらなんでこれを選んだのかというのを説明してくれる。
「これなら環樺の髪乾かしてあげる時にも使ってあげられるしね」
「確かに!? でもわたしも使ってもらえるからって選んだわけじゃないからね!」
「あははっ! ごめんごめん、分かってるってば」
ちょっと意地悪だったことを言うと慌てて否定してくる環樺が可愛かった。
でもそういう意図はなかったにしろ、それで環樺も一緒に綺麗になれるならそうしてあげたいと思う。
「今日はパーティーする前に先にお風呂入っちゃったから、あとで寝る前にこれで髪梳かしてあげる」
「やったぁ! って、だから逆だってば!」
「ふふっ、あはははっ! もう、笑わせないで......!」
「お姉のせいじゃん! わたしがお姉の髪やってあげるから!」
とてつもない天然な環樺のノリツッコミのような言動についつい笑ってしまって怒られてしまう。
「ふぅ、はぁ~......」
「もう、笑いすぎだってば」
「ごめんってば。......それじゃ、次は私のプレゼント開けてくれる?」
「あ、う、うん!」
二人とも一旦落ち着いてから環樺が私が用意したプレゼントが入っている紙袋を手に取った。
中から取り出した物のラッピングを私と同じように丁寧に剥ぐと、すぐにそれは出てきた。
「ん? なんだろこれ......?」
「さて、なんでしょうか~」
「ガラスのケースと、石? 木も入ってる」
「そうだねぇ」
中に入っていた小分けになっている物達を取り出してまじまじと観察しながらそれが何かを考え始める。
「これは、草......? インテリア的なもの?」
「ん~惜しい! ほとんど正解だけど」
「それならなんかのキット? な気はするけど......」
「それは当たり!」
「え~分かんない! 答え教えて! 答え!」
両手を上げて身体でお手上げ状態をアピールしてくる。
正直、私もこの存在について知らなかったし、分からない状態ならどれだけ考えても分からないと思う。
「えっと、これはね、コケリウムっていうものなの」
「こけりうむ?」
「うん。コケリウム、苔テラリウムって言うインテリアなんだって」
「これ苔なんだ!?」
「ふふっ。実はそうなんだよね」
「確かによく見ると苔だ......何種類か入ってるね」
いい反応をしてくれる環樺を見て笑みがこぼれる。
「苔ってあの苔だよね......? これを組み合わせて飾るの?」
「そうそう、このガラスケースの中にこのオブジェクトを好きに配置して」
「へ~。さっそく作ってみてもいい?」
「うん、もちろん。そうして欲しいなって思ってたから」
「やった!」
私がそう答えると、環樺はテーブルの上に入っていた物を全部出して準備をし始める。
「他にも何種類かあったんだけど、これの商品名が『わかば』でね」
「わたしの名前と一緒じゃん!」
「そうなの。だから絶対これがいいなって思って」
「も~、お姉ってば......」
環樺が嬉しさからかわざとらしく頬に手を当てながらニヤけている。
これがあの日売り切れだったけど、予約して後日もう一度取りに行ってまでこれを選んだ理由だった。
他の物も素敵だったけど、これを見つけたらもうこれしか考えられなくなった。
「よし! こういうのって作ることないから新鮮で楽しみ~」
「私も環樺なりの出来上がりが楽しみ」
「えっと、まずは......」
「あ、苔だけは最後に上に乗せる感じでね」
「おっけー!」
環樺はまず砂が入っている小袋を開けてガラスケースの下に敷いていく。
「まずはサラサラ~っと。で、次はどうしようかなー」
「環樺のセンスが試されてるよ~」
「ふふん、任せてよ! あ、てかなるほどね」
「どうしたの?」
環樺が岩のオブジェクトを持って砂の上に配置しようとしたところで何かに納得した様子を見せながら作業している手を止める。
「これがあるからクロクロを連れてこなかったんだなーって思って」
「あーうん、そういうことだったの」
「細かいパーツも多いもんねー。ああいう時に連れていかないの珍しいなーって思ってたから、納得納得」
「かわいそうかなって思ったけど、安全の為にも一応ね」
「それじゃ、今日はその分も二人で楽しもうね」
そう言って作業を再開する環樺。
「岩はここにして~......はい、次お姉ね!」
「え?」
岩のオブジェクトを配置してから、次は木のオブジェクトを小袋から取り出してそのまま置くかと思いきや、私の方に差し出してくる。
「次はお姉が置くんだよ。はいこれ」
「私も置くの?」
当たり前でしょとでも言いたげな表情の環樺。
「お姉と一緒に作った方が記念になるし嬉しいじゃん」
「そっか。それじゃあ、どこに置こっかな~」
それなら私も最高の作品に仕上げてあげようと、環樺から木のオブジェクトを受け取って見てる側から一緒に作る側に回る。
「こことかかなー」
「いいねー。じゃあその隣にこの岩も置いてっと」
そういう風に二人であーだこーだ話し合いながらどんどん色んなオブジェクトを配置したり、全体のバランスを整えるために微調整したりして完成に近づけていった。
「さあ、これで最後の仕上げだよ環樺」
「うん! えっと、こんな感じでいいのかな......」
一緒に他の全てを配置し終えたので、最後に苔が入っているプラスチックのケースを開けて、あらかじめ用意していたピンセットを使って砂や岩の上、木の根元のあたりなど全体に満遍なく被せていくのを見守る。
「......よし、出来た! ふぅーー」
集中しながら小袋の中の苔を全部置き終わると額を拭いながら大きく息を吐いた。
「どおどお、お姉?」
「うん、すごくいい感じだと思う」
「だよねぇ! うわぁいいね、こういう手作りのインテリアって!」
「だね。世界で一つだけのものになるし」
「お姉と一緒に作れて楽しかった~」
「ふふっ、私も」
二人で完成したコケリウムを眺めて感想を言い合う。
小さくなって中に入っても本物だと思えるくらいクオリティが高い気がする。
私も初めてこういうのを作ったけど、楽しいし愛着も湧きそうなので自分でも欲しいと思ってしまう。
まぁ、環樺の部屋に行けばいつでも見れるからその欲求は満たされそうだけど。
「後はこの蓋をしてっと」
「あ、環樺ストップ」
「おっとっと、なになに?」
「コケリウムってね、これで終わりじゃないの」
「え!? じゃああと何するの? なんかあったっけ?」
環樺はそれを聞いて紙袋の中を探したり、周りをキョロキョロと見回して何かないか探し始める。
「ふふふ、ごめん環樺。その辺には何もないよ」
「え~! じゃあどういうこと?」
「実はコケリウムはね、そこから育てていくインテリアなの」
そう説明しながら、私は立ち上がって棚に向かって行き、事前に準備してあった水を入れてある小さい霧吹きを持ってきて環樺に渡す。
「これって、霧吹き?」
「ほんとは説明書がついてたんだけど、環樺にどういうものなのか分からない状態でいてもらった方が面白いかなーって思って私が取っちゃったんだ」
「そうだったんだ。それで、これをかけてあげればいいの?」
「うん。それで、一週間に一回くらい濡れ過ぎないくらいに水をあげていくと、月日が経つにつれてどんどん見せてくれる表情が変わっていくんだって」
「え、なにそれ! すごーい、わくわくする!」
明らかに環樺が盛り上がってくれているのを見れて心からじわっと温かいものが溢れてきて、このプレゼントを選んで正解だったなって思える。
「では、記念すべき初めての水やりをしてあげたいとおもいます」
「ふふっ。はい、環樺さん、それではお願いします」
いきなり始まった記念式典みたいなやり取りをしてから、環樺が完成したコケリウムに向かって小さい霧吹きを構えて、プシュッと水を掛ける。
それから、わ~! と二人で拍手をする。
「よーし。でも何回くらいやればいいんだろ?」
「どうなんだろ。畑なら最初はびちゃびちゃになるくらい水あげるけど、これはそういうのじゃなさそうだし」
二人でうーん、とちょっと悩んでから環樺がプシュプシュッともう二回霧吹きをプッシュした。
「とりあえず、様子見でこのくらいにしてみよっと」
「うん、いいんじゃないかな」
「後は蓋しちゃっても大丈夫?」
「大丈夫だと思う」
確認してからガラスケースに蓋をして改めて中を眺める。
水をあげたからかさっきよりガラスケースの中の小さな自然がキラキラと輝いて生き生きとしているように映る。
「うわぁ、綺麗だねお姉」
「とっても。それで、これから何週間か経ったら苔が定着していくんだって」
「へ~、そうなんだ」
「そしたら小さい動物のフィギュアとか入れて飾るのも可愛いらしいよ」
「それいいね。そしたら今度一緒に探しに行こうよ」
「そうだね」
二人でコケリウムを眺めながらそんな約束も交わす。
「あ、そうだ。まだコケリウムをプレゼントに選んだ理由教えてなかった」
「確かに! 聞きたい聞きたい!」
ちゃんと伝えておかなければいけないことだったけど、一緒に作っている時間が楽しくて危うく失念するところだった。
「えっとね。高校入学っていうタイミングだから、三年間環樺の成長と一緒に思い出を作っていける物がいいなって思って」
「ふんふん」
「でも毎日手の掛かるものだと大変だし、逆に放っておけ過ぎちゃうものでもなーって思って探してたら見つけたの」
「そうなんだ! コケリウムって見たことなかったけどよく見つけたね~」
「ほんとにたまたま見つけれたの。それで、このタイプのコケリウムは大体三年くらいが寿命になるんだって」
「ぴったりじゃん! 嬉しいなぁ、そんなに沢山考えて選んでくれたの」
店員さんに聞いたことや自分で調べたりして学んだ私の話を本当に興味津々に嬉しそうに聞きながらリアクションをしてくれる。
あの日、何となくあの場所に探しに行ってたまたま目に入ったお花屋さんで見つけたこのコケリウム。
「奇跡みたいなものだったと思うな。でもよかった、こんなに喜んでくれて」
「これからがますます楽しみになっちゃった」
「ふふっ。あ、一応説明書も渡しておくね。水やり過ぎると腐っちゃうみたいだから気を付けるようにね」
「ええ~そうなの!? いっぱいお世話したいのに~!」
こうして私達の楽しい楽しいプレゼント交換は大成功で幕を閉じたと言っていいんじゃないだろうか。
環樺からのプレゼントもすごく嬉しくて、この後寝る前にお互いの髪を梳かし合ったりもして。これからも沢山使ってあげたいって思った。
そうしていつもより少し遅い時間まで一緒に過ごした後、環樺は私がプレゼントしたコケリウムと紙袋を大事そうに抱えて部屋に戻っていった。
今後もずっとこうやって何かの機会の度にお互いに贈り合ったりして、もっともっと大事なものを増やしていけたらいいな。




