第36話
「環樺、どこがいい?」
「えっと、じゃあここ!」
「おっけー」
お母さんが作ってくれた私達の誕生日の御馳走を思う存分に食べ終わって、楽しみにしていた美味しそうなチョコレートケーキに辿り着く。
崩れないように慎重に環樺が選んだ切り分けられたホールケーキの一片をお皿に取って手渡す。
「はい」
「ありがとー! お姉のはわたしが取ってあげる! どれがいい?」
「それじゃあ、環樺の隣のこれで」
「ふふっ、おっけー!」
環樺が楽しそうにお皿に取ってくれたケーキを受け取る。
「それと~、チョコのプレートを半分こっと。はいお姉」
ケーキの真ん中に乗っていた私と環樺の名前が書かれたチョコレートのプレートをパキンと気持ちのいい音を鳴らして半分に割ると、私の切り分けられたケーキの上に乗せてくれる。
「ありがと。あ、それとお母さんにはさっきも言ったけど、お父さんもケーキありがとう。いただきます」
「ありがと! いただきまーす!」
二人ともお皿にケーキを持って席に座って改めて感謝を伝えていただきますをする。
環樺は真っ先にケーキの上に乗っているイチゴにフォークを刺して口に運んだ。
「いやいや、むしろ可愛い娘達に誕生日ケーキを用意させてもらえる幸福を噛みしめてるよ」
「もう、今日はずっと大袈裟なんだから。......ん~! おいしい!」
私は環樺と対象にまずはチョコレートのクリームで綺麗にコーティングされているスポンジをフォークで切り取って食べる。
すると口に入れた瞬間に濃厚な甘みが広がり、ついついテンションが上がってしまった。
「しあわせ~。誕生日さいこ~」
環樺もスポンジの部分を食べて味わうと、頬に手を当てて幸せそうな表情をしていた。
「あれ? ふふっ、もう環樺ってば」
「くふふっ、やっと気づいてくれた」
次の一口を食べようとフォークをケーキに入れたところで、さっき環樺が私のケーキに乗せてくれた名前が書かれた半分に割られたチョコのプレートを見ると、それに「&wakaba」と書かれていることに気づく。
隣の環樺のケーキの上を見ると、当然そこには「madoka」と書かれているチョコのプレートが乗っていた。
こういうのは普通自分の名前の方を食べるものだけど、環樺らしい行動に微笑ましくなる。
「じゃあ、お望み通り食べちゃおうかな」
その「&wakaba」と書かれたチョコのプレートを指で摘まんで口の近くに持ってきてこれから食べるぞということをアピールしてみる。
「わぁ~! お姉に食べられちゃう~」
環樺を見て、見られながらゆっくりと口に持っていき、食べると見せかけて一瞬焦らしてからチョコを噛むとパキンッとまた良い音を鳴らす。
「うわぁ~~~」
「ふっふっふー」
「じゃあわたしもお姉食べちゃうもんね~」
環樺が大袈裟なやられたーみたいなリアクションをしたりわちゃわちゃしてから自分のケーキの上にある私の名前が書かれたチョコを摘まんで一口で食べる。
「ふふっ、食べられちゃった」
「んっん~」
楽しそうに笑いながら口の中でパキパキと音を鳴らしながら咀嚼する。
「アンタ達ホントに仲良しなんだから。でもそういうのあんまり外で言っちゃダメよ」
「え? なにが?」
「ははは!」
お母さんが微笑ましそうに見ていて何かを注意されてお父さんがなぜか笑っていたけど、私の問いには答えずにテーブルの上の食べ終わったお皿を流し台に運んでいった。
「あーあ、ケーキもっと食べたいけどお腹いっぱいだぁ」
「そうだね。また明日だね」
美味しいけれど、美味しすぎるものほどどんどん食べれてしまうので、このケーキももう後一口で食べ終えると思うと寂しくなってしまう。
「ケーキもこの唐揚げとかも取っておくから明日二人で食べてね」
「ありがとー」
誕生日は今日だけだけどその幸せの余韻みたいなものは明日にだって続いてもいいはずだ。
また明日食べれるからという希望をもって、二人とも最後の一口を口に運ぶ。
お父さんとお母さんが用意してくれた食事とケーキは最後の最後まで大満足だった。
「ごちそうさまでした」
「んー! ごちそうさまでした!」
「はーい、お粗末様でした」
「二人とも、後片付けはお父さんとお母さんがやっておくからもう二人で部屋に戻っていいぞ」
「え?」
食べ終えたお皿を流し台に運ぼうとしたところでお父さんにそう声を掛けられる。
「明日も学校だし、もう誕生日の時間も限られてるだろ? 少しでも長く二人だけの時間を過ごしたらいいよ」
「そうそう、お父さんとお母さんはもう少しここで飲んでるから、あとは任せて」
「じゃあ、そうさせてもらおっか、お姉」
「うん。ありがとうお父さんお母さん」
二人のお言葉に甘えることにして、後のことは任せてこれにて私達の十六歳の誕生日パーティーはお開きになった。
「行こっお姉!」
「はいはい」
「にゃ~ぉ」
二人で部屋に戻ろうとリビングの入り口の方に向かうと連れていって欲しそうにクロエとクロノが私達の足元に歩み寄ってきていたのに気づく。
「おっと」
「一緒に行きたいの?」
「にゃ」
「クロノークロエー、今日は私達とここでお留守番しよっか」
屈んで撫でてあげると、お母さんが気を使ってくれてクロクロを呼び止めておいでおいでと手招きする。
「全然連れていっても大丈夫だけど......」
「そう? アンタ達これからプレゼント交換とかもしなきゃでしょ? 邪魔にならない?」
「邪魔になんてならないけど。でも、そうだなぁ。この後したいこともあるし今日はお留守番しててくれる?」
いつもならこうやってついてこようとしたときは連れていくし、リビングで自由に遊んでいたそうなときには無理に連れていかないようにという風にしているんだけど、今日はちょっとこの後の予定を考えてお母さんに見ていてもらおうかなと判断して二人に伝えてみる。
「だって。それでもいい?」
「にゃ~」
「ありがとー、良い子だねー!」
多分私の言うことを理解して大人しくしてくれた二人を環樺と一緒に撫でて褒めてあげる。
「じゃあ、この子達のこともよろしくねお母さん」
「任せて~」
私がクロエを、環樺がクロノを抱っこしてソファまで連れていってクッションの上に乗せてあげる。
すると、数秒こちらを見つめてから毛繕いし始めるのを見て、可愛いと思うと同時に少し申し訳なく思って、明日は存分に遊んであげようと心に決めた。
「おやすみなさい」
「おやすみー」
「おー、おやすみー」
「おやすみなさい、二人とも」
お父さんとお母さんに挨拶してから今度こそ環樺と一緒にリビングを後にして階段を上がって私の部屋に戻る。
「ふぃぃ~。お腹いっぱーい」
「そうだね、ご飯もケーキも美味しかったからねー」
部屋に着くなり環樺はベッドに近づいて、崩れるようにベッドを背もたれにして座り込む。
私も後を追うように環樺の隣に座ってベッドに身体を預けてリラックスする。
「そういえば、お姉、さっき言ってたしたいことってなんだったの?」
「それはネタバレになっちゃうから後でのお楽しみ~」
「そうなんだ? えー、なんだろなんだろ!?」
「えっと今時間が......。うん、プレゼント交換の前に五分だけこのままゆっくりしようよ」
スマホを出して時間を確認すると、まだちょっと余裕がありそうなのでこのまま少しの休憩を提案する。
「えぇ、気になる~。でも、そうだね。食後の休憩ってことで少しだけ」
同意した環樺が私に軽く寄りかかってきてコツンと肩に頭を乗せ、そのまましばらくくっついたまま休憩した。




