第35話
「それじゃあ電気消すわよー」
お母さんの掛け声でパチッという音と共にリビングの電気が消え、真っ暗な部屋の中をロウソクの柔らかな明かりだけが辺りを照らす。
十歳くらいまではその歳の数分のロウソクが立てられていたけど、流石にそれ以上はケーキがボロボロになってしまうので、それ以降は数字の形のロウソクが立てられている。
今年は1と6。
「せーの。ハッピーバースデートゥーユー——」
手拍子をしながら、まずは私に向けて環樺とお母さんが誕生日の歌を歌い始める。
「ハッピーバースデーディアお姉~『円樺~』! ハッピーバースデートゥーユー!」
そして歌い終わるとすぐに環樺が激しい拍手をしながらテンションを上げる。
「わああああ! お姉おめでと~~!!」
「ありがと。でも次環樺の番だから、ね?」
「はーい!」
環樺を落ち着かせてから、産まれた順番通りに私の次は環樺に向けて歌う。
「ハッピーバースデーディア環樺~。ハッピーバースデートゥーユー!」
歌い終わって、今度は私が環樺に拍手を送る。
「環樺、誕生日おめでとう!」
「ありがとお姉~!」
私達がそうしているうちにお母さんが立ち上がって電気のスイッチのところまで歩いて行く。
「いいわよー、二人とも」
「じゃあいくよ環樺」
「うん! せーの!」
お母さんの合図の後、目を見合わせてから環樺の掛け声で、二人で隣り合ったまま目の前のテーブルの上にあるケーキに立てられているロウソクに向かって、文字通り息を合わせてふーーっ、と息を吹きかけて火を消す。
瞬間、唯一の明かりを失った部屋が真っ暗になり、数秒後にお母さんが電気をつけると、今年お父さんとお母さんが用意してくれたホールのチョコレートケーキが再び現れ、その上の消したロウソクから余韻を感じさせる白い煙が立ち上っていた。
「ふぅぅやったぁ!」
「誕生日パーティー開始だね」
「うわぁ、おいしそ~」
誕生日パーティーの開始を告げるロウソク消しをした後は、白米をよそってから席に着き、お母さんが腕によりをかけて用意してくれた私達の好きなものばかりの食べ物達に手を伸ばし始める。
「環樺、はいお皿」
「ありがと~。どれから食べよっかなぁ」
唐揚げやエビフライなどの揚げ物だったり、エビチリなどの惣菜、アボカド海鮮サラダなど様々なバリエーションがテーブルの上を彩っている。
「それじゃあ、いただきまーす!」
「いただきまーす」
「はいどうぞ。好きなだけ食べてね、二人とも」
隣の環樺が勢いよくまずは唐揚げに噛り付く。それを見て私も唐揚げを選んで口に運んだ。
揚げて間もないのでジューシーでとても美味しい。
私達がご馳走を食べ始めている時間にお母さんはケーキを端に寄せて後で食べやすいように切り分け始めてくれていた。
「おいし~」
「ありがとうお母さん。仕事から帰ってきてすぐにこんなに沢山作ってくれて」
しばらく食べていると、ケーキを切り終わってご飯を盛った茶碗を持ったお母さんが向かい側の席に座ったので、そのタイミングで改めて感謝を伝える。
「もー、いいってば。むしろこんなに可愛い娘達の誕生日なんだから思いっきり祝ってあげれなきゃ寂しいもの」
お母さんは笑いながら嬉しそうにそう返してくれる。
「ていうか、あんた達は手が掛からなすぎてこういう時じゃないと親としての見せどころがないのよ~」
「えーそうかなぁ?」
「そうよ~、この前もお父さんと二人でなんでもできちゃうから寂しいよねって話してたのよ」
「お母さんとお父さんのおかげでやりたいことをやれてるんだよ」
「そうだよー」
「うふふ、お父さんがそれ聞いたら喜ぶわよ~」
「あれ? この音......」
「噂をすると、だけど」
そんな話をしていると、家の外から聞き慣れた車のエンジン音が近づいてくるのが聞こえてきて、家の庭で鳴り止んで少しするとガチャリと家の玄関のドアが開かれた音がした。
「ただいまーーー」
そう言いながらリビングのドアを開けて顔を見せたお父さんを皆でおかえりを言って出迎える。
「あれ、お父さん、帰ってくるの早くない?」
「まだ19時だよ?」
「いや~、可愛い娘達の誕生日パーティーを楽しみにソワソワしてたら一緒に居た従業員に帰れって言われちゃって」
アハハと笑いながらお父さんが私の向かいの席に座った。
「もう、また迷惑かけて~。あと一時間だけだったんだからしっかりして下さい」
「だってぇ......」
元々の予定の20時でもいつもより早く帰ってくる時間なのに更に早く帰ってきたことをお母さんにどやされる。
「まぁ今日は良しとしてあげます」
「よし、ということで! 誕生日おめでとう、二人とも」
「ありがとーお父さん」
「ふふっ、ありがとう」
なんやかんやあったけどお父さんも加えて家族全員での誕生日パーティーが再開される。
「美味しそうなご馳走だなぁ」
「はい、お父さん」
「あぁ、ありがと」
お母さんが冷蔵庫から取り出して持ってきた二つのお酒の缶のうち一つをお父さんに手渡した。
お父さんもお母さんも普段家でお酒を飲んでいるのは見掛けないけど、こういうおめでたいと言える日だけはこうして家でもお酒を飲んでも良いことにしているらしい。
「はいお父さん、乾杯」
「わたしも乾杯」
お父さんがカシュッと缶の蓋を開けたところにせっかくなら乾杯してあげようと環樺と一緒にグラスを差し出す。私達のグラスの中身は水だけど。
「お前達は本当にできた子達だなぁ、乾杯!」
大袈裟なくらいに泣きそうにしながら私達が差し出したグラスに缶を軽くぶつける。
それからお母さんがお父さんの前にお皿を持ってきてからその隣に座って、同じように乾杯をするとお父さんは勢いよく飲み始めた。
「はーいかんぱーい。そうそう、ちょうどお父さんの話をしてるところだったのよね」
「ぷはぁ! 俺の? どんな話?」
「私達の娘達は良い子すぎて寂しいって話してたんだよねーっていう話」
お父さんが帰ってくる直前まで話していた内容を改めてお母さんが説明する。
「あぁ~。そうだな、二人とも結局反抗期とかも全くなくて、良い子すぎて俺らが何もできることないんじゃないかって思っちゃうくらいだよな」
「自分達目線じゃ反抗期がどうとかなんて実感ないからわからないけど......」
「こんなに幸せに育ててもらってるのに反抗なんてするわけないけどなー」
「そういうところが良い子すぎるんだよなぁ、二人は。同じ時期の自分を思い返すと恥ずかしくなるよ......」
「ほんとよねぇ」
「あはは」
環樺の言う通り、こんなに幸せに産んで育ててもらっていて両親に反抗なんてするなんて考えられないし、やっぱり私は環樺のお姉ちゃんとしてしっかりしていようという想いもあったからっていうのもあるのかもしれない。
環樺はどうなのかわからないけど、私から見てもずっと良い子だと思う。
「そういえば二人とも、最近学校の方はどうだ? 高校生の生活にも慣れてきたか?」
「うん、環樺とクラス離れたりとかもあったけど、仲の良い友達もできたし最近は楽しく過ごしてるよ」
「そうかそうか! 中学の知り合いが居ないって言ってたし、二人は一緒に居るのが好きだからからどうなることかと思ったけどそれならよかった」
お父さんは私の言葉を聞いて安心したような表情を浮かべる。
「それとテストの結果はどうだったの? 二人のことだから心配はしてないけど」
「今回はお姉の勝ち~。どっちも結果は良い感じだったけどね」
「環樺が良い感じっていうなら良い結果だったんだろうな! 流石だな二人とも!」
環樺の適当な返答に対してもお父さんは信頼だけで根拠なく褒めてくれる。まぁ実際良い感じではあったから胸を張って報告出来るくらいではあると思うけど。
そんな風に最近の学校でのことを話したりしながらケーキに向けてご飯を食べ進めていった。




