第31話
自慢というほどではないけど、クレーンゲームは今までもそこそこやってきているのでそれなりに上手いんじゃないかと自分では思っている。
三本爪と言われるものだったり、たこ焼き器と言われるものとかはほぼ運でしかないのでどうにもならないが、この台は事前にここまで動かされているということはアームも問題なさそうだし実力次第でどうにでもなりそうだ。
財布からまずは百円硬貨を一枚だけ取り出す。
「うーん......まずはこっちの軸を合わせて、っと」
硬貨を投入してから派手な音楽を鳴らして操作を待っているこの子をそのままに、ボタンに手を添えたままで腕を伸ばして筐体の角のギリギリのところから、しばらくどこまでアームを進めるか観察してから狙いを定めて縦の軸を合わせる。
「まぁ、こんな感じかな」
正面に戻って、今度は片眼を閉じて横方向に一気にアームを動かす。
狙い通りのところで止めると、すぐにアームが降下を始めていく。
ここからが本当の勝負だ。
一回目の挑戦は様子見と自分の考えが合っているかの答え合わせでもある。
この狙いが合っていればあらゆる景品はそれほど苦労せずして私の手中に収まるし、間違っていればもう一度考え直しになる、だけならまだいいが景品が変な態勢になったりすると何倍もの手間が掛かってしまったりもする。
今回私が狙ったのは寝そべっているこの子の後ろ足の間と首あたり。
上手い感じにそこを挟んで持ってくれたら前足も支えになってくれて簡単に取れそうなんだけど。
祈りながら行方を見守っていると頭の中で想像した形とほとんど遜色がないところに左右のアームが入っていく。
ぬいぐるみを挟んでから数秒止まったアームが効果音と共に動き出すと、狙い通りにガッチリ掴んでその体を持ち上げていく。
一番上まで持ち上がって景品口の方に移動を始めると、ズルっと体が落ちそうになりながらも何とかアームが足に引っ掛かって一瞬踏みとどまる。
でもすぐにポロッとアームから落ちてしまうが、その一瞬のおかげで景品口に限りなく近づいてくれて、穴に沿って立てられている透明な壁に寄りかかる形で斜めになった。
こうなってくれたなら五百円で六回のところを最初の様子見で百円だけにしておいたのが功を奏した。
追加で百円だけ入れて最後の仕上げに片方のアームで足を引っ掛けて少し動かすだけで......
あ、ミスった。
コホン。
今のはなかったことにして、最後の仕上げに片方のアームで足を引っ掛けて......
ほら取れた!
いやぁ上出来上出来。
クレーンゲームは景品が取れることと同じくらい自分の理論の正しさが証明されるのが気持ちいい。
って、つい熱くなってやり切った感を出して満足しちゃったけど今日はこれが本題じゃないから。
取り出し口から犬のぬいぐるみを取り出し、ひと撫でしてから近くにあった景品を入れる袋を一枚取ってその中に入れてあげる。
ゲームセンターの中も一通り見て遊んでいい気分転換にもなったし、誕生日プレゼント探しを再開するために外に出て駅へと向かった。
数分歩くと駅に着いて、階段を下りてよく行く方向とは逆のホームに向かって歩いて行く。
そっちの方に行ったことのない大きい雑貨店があるらしいので、どうせなら行ったことのない場所に行ってみるのがいいかなと思った。
いつもと同じ駅なのに見えるものや方向が全然違うだけで別の場所に感じて不思議な気持ちになる。と言ってもそれほど頻繁に電車を利用するというわけでもないんだけど。
ホームに着いて少しすると電車がやってきたので乗り込んで、席に座って一息ついて脚を休めた。
電車が動いている間に目的地までの行き方を調べたりしておく。 窓の外の流れる景色を眺めたりしながら数駅を移動して、目的の駅に着いたので電車を降りてホームの改札を抜ける。
事前に調べておいたおかげで間違いをせずに出口を抜けて駅を出て、少し歩くと目的地が前に現れた。
建物の中に入り、入口付近にあった案内図をあえて見ることをせずに何となくで進んでいく。
そのまま色々なお店の看板を見ながら歩いていると、一階の反対の入り口まで辿り着く。
そしてその入口の横にあったお花屋さんに目が留まって、まるで花の蜜に蝶が誘われるかの如く引き寄せられてしまった。
「わぁ。可愛いお花達......」
植物の類は割と好きな方ではあるけど、この歳でなかなかお花屋さんに足を運ぶ機会もないので、新鮮な気持ちでお花屋さんの色とりどりの大小さまざまな花に目を奪われる。
その辺に生えている花や学校などの花壇に植えられている花を見るのが好きだったし、環樺と一緒になってそういうよく見かける花の花言葉を覚えるのにハマっていた時期もあったなーなんて懐かしい気持ちになる。
「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりご覧ください」
「あ、ありがとうございます」
店員の方に声を掛けられて軽く会釈を返してからお言葉に甘えてすこしだけ鑑賞させてもらうことにした。
そのお店は花だけでなく園芸の道具なども取り扱っているようだった。
でもこうして花を見ているのは楽しいけど、流石に花をプレゼントするのはなしかなぁ。
植木鉢に植えられている多年草とかだったら何年も花を咲かせて楽しめるから今回私が探している条件に少し合いそうだけど、プレゼントしたらお世話を強制させるみたいになっちゃうし。
環樺なら私がプレゼントしたら毎日ちゃんとお世話してくれそうだけど、だからこそ頑張らせてしまうのも悪い気がする。
「う~ん......」
少し悩んで他のものにしようと思って踵を返すと、お店の端の棚にある見たことのないものに目が留まった。
「なんだろ、これ」
その棚に近づいてどういうものなのか見ていると、何かを悩んでいるように見えたのかさっきの店員さんに声を掛けられる。
「お客様、何かお困りですか?」
「あぁ、ええと......」
自分で調べてみようかなとスマホを取り出そうとしたところだったけど、せっかくなのでスマホをしまいなおして聞いてみることにする。
「これって何ですか?」
「あぁ! こちらはですね——」
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございました。では、よろしくお願いします」
「はい、お待ちしておりますね」
店員さんにお辞儀をしてからお店を後にする。
「ふふっ、良いもの見つけちゃったっ」
店員さんにどういうものなのか教えてもらうと、私の探している条件にかなりマッチしたものだったので、これだ! と誕生日プレゼントに即決した。
たまたま目についたものがまさかの大当たりになってくれるとは。
なんだけど、今私の手元にはそれはない。
何個か種類があって、その中にどうしてもこれがいいなと思ったやつがあったんだけど、このお店ではそもそも在庫を多く抱えていないものらしく、ちょうど売り切れてしまっていたので予約して二日後に受け取りに来ることにした。
「でも、ここに来てすぐに決まっちゃたけどこの後どうしようかなぁ」
せっかく電車に乗ってここまで来たからもっとこの建物内を見てみたい気もするんだけど、とりあえずプレゼントを見つけられた喜びと安心からか朝の疲れがどっと襲ってきてしまっている気がする。
あ、足が......
「うーん......。よし」
でもやっぱりせっかくなのでもう少しだけ見て回ってみようと、太ももあたりをポンポンと叩いてちょっとの気合を入れ、エレベーターに乗り込んで上の階に向かってしばらく探検してみることにした。
見て回っていると、環樺は最近運動を習慣にしてるし、夏の間は外に出て運動するのも大変だろうし、家の中で運動したりするためのグッズを買ってあげるのもいいなーとか今後のためにもなった。
だけど、少し歩いて、帰りの体力とかも考えると無理せずここまでにしておいた方が良いかも、という判断をして大人しく帰ろうと出口に向かうことにした。
「ただいまー」
「あ......」
ふらふらになりながら家に入ると、ちょうどどこかへ移動しようとしていたのか廊下に居る環樺にばったり遭遇して目が合ってしまう。
念のため、家に着いてからは環樺に会わないように一度部屋まで行こうと思っていたんだけど。
「あー、おかえりーお姉......」
「う、うん。ただいま環樺」
どんな物を買ってきたのか、今日は買ってきてはいないのか、そういうのもできるだけ知らない方がいいと思って昨日の私も環樺が帰ってきてすぐに会わないようにしたように、環樺もそうしようと思っていたのか気まずそうな表情をされる。
「ゲ、ゲーセン行ったの?」
「あーそうなの、久しぶりにね」
私が唯一持っていた買い物袋、らしいゲーセンのロゴが大きくプリントされたそれを見て環樺が聞いてくる。
誕生日に一緒に渡せばいいかなと考えていたんだけど、こうなってしまったならこっちに関しては別に隠すものでもないので、自然な流れで今日あげようと大きな袋からわんちゃんのぬいぐるみを取り出す。
「環樺、はいこれ。見つけた瞬間に環樺にあげたいなって思って」
「えっ!? うれしい!」
環樺に見せると、ぱぁっと笑顔が咲き、パタパタとこちらに寄ってきて嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる。
「じゃあお姉、ちょっと待ってて! あっ、と、先に部屋で待ってて!」
とそれだけ言うとバタバタと階段を上がって行ってしまった。
どうしたんだろうと思いながら靴を脱いでその後を追いかけて階段を上がり、言われた通りに自分の部屋に行ってしばらく待っていると、コンコンとノックをされる。
「いいよ」
返事をすると、環樺の腕の中にはさっきあげたわんちゃんのぬいぐるみともう一つ、あれは......馬のデフォルメされたぬいぐるみを持った環樺が入ってきた。
「お姉、わたしからもこれ!」
「ありがと、ふふっかわいい」
「えへへー。わたしも昨日ゲーセンでお姉にあげたいなって思って取ってきたんだー」
「そうだったんだ。ありがとね」
渡されてからぬいぐるみの背中を撫でる。
私も環樺もお父さんの影響で昔から馬が大好きなのでとても嬉しい。
この他にも馬のぬいぐるみが環樺の部屋にもあるけど、色も違うからすごくいいと思うし、いくらあっても嬉しいものだ。
「この子達どっちも可愛い~!」
「ね」
二人で一緒にこの子達を撫でてあげる。
あれ......ということは環樺も昨日同じくゲームセンターに行っているということなので、やっぱり同じ日に出掛けていたらどこかで遭遇してしまっていたかもしれなかったということか。
あぶないあぶない。やっぱり環樺とは同じところに行っちゃうな。
これからもこういう時はちゃんと別日にしなきゃいけないなと改めて決めたのであった。




