第27話
「んんんん~~終わったあああ!!」
火曜日から金曜日に渡った四日間の高校で最初の中間テストが終了し、一息つくと隣の席の明奈が大きい声を出しながら机に突っ伏した。
「おつかれー。どうだった?」
机の上の筆記用具を仕舞いながら明奈を労い、感触を聞いてみる。
「めっちゃいけた! 気がする!」
「あはは、なら一安心かな?」
明奈もこんなにちゃんと勉強することなんてなかなかないっていうくらい頑張ったみたいだし、本人が満足しているみたいなのでよかったなと思う。
わたしもとりあえずお姉に胸を張れるくらいのことはやり切れたような気がする。
「環樺はこの後何か予定あるの?」
身体を起こしながら明奈が聞いてくる。筆記用具を仕舞わずそのまま突っ伏していたらしく頬に消しゴムの型が赤くできていた。
「特に何も考えてなかったけど。お姉と合流するくらいで」
「なら、アタシの部活今日まで完全休みだからどっか行こうよ! お姉さんと、出来たら真尋とも!」
「あー、それもいいかもね」
明奈は中学まではテニスをしていたみたいだけど、この年齢になって日焼けしすぎると将来肌がなんとか~って、高校ではバドミントン部に入ったらしい。
終わった後のことは特に何も考えてなかったけど、どうせ午前中で学校が終わるならゆっくり過ごすよりも皆でどこか出かけるほうが有意義かもしれない。
もうテストのことも考えなくていいわけだし、羽を伸ばしたい気分だ。
「うんうん! 勉強会した仲で打ち上げみたいな?」
「打ち上げって、ただの中間テストだけどね」
あはは、と苦笑いすると明奈はやっと机の上を片付け始める。
「まぁまぁ、理由は何でもいいんだって」
「じゃあとりあえず、お姉に聞いてみるか」
バッグからスマホを取り出してお姉に連絡を入れる。明奈の提案でのこの後のことと真尋ちゃんのことも。
すぐに既読がついて——教室の前で集合ね——と返信が来た。
「教室前で集合だって」
「オッケー! じゃあ行こっか」
帰り支度をすぐに済ませてバッグを持って教室を出る。
廊下に出て窓際に寄りかかるとお姉のクラスから何人か出てくるのが見える。
こちらに気づくと「あ、環樺さんだ! じゃーねー」と声を掛けられたりして、それに手を振り返す。
こちらとしては誰か分からないけど、お姉の妹として認識されているがゆえに挨拶されるのは悪い気はしない。
「おお~、有名人じゃん」
「そんなことないって」
明奈のからかいをあしらっているとお姉と真尋ちゃんが教室から出てきた。
「あ、お姉ー! テストおつかれー! 真尋ちゃんもこんにちは」
手を大きく振ってここにいるよとアピールしながら声を掛けると真尋ちゃんは「こんにちは~」と手を振ってくれる。
「もう、環樺。目立っちゃうってば」
お姉はやれやれというような表情で近づいてきて両手で持っていたバッグを軽く揺らしてわたしの膝あたりにコツンとぶつけてくる。
「えへへ。お姉に早く見つけてもらいたくて」
「そんなことしなくてもすぐ見つけれるに決まってるでしょ」
確かにわたしがお姉をどこに居てもすぐに見つけられるように、お姉もわたしのことをすぐに見つけられるんだろうけど。
正直ただの言い訳でしかなく、お姉と会えてテンションが上がってやっちゃうだけなんだよね。
その様子を見ていた明奈がなぜか口元を抑えて、堪えるようにクスクスと笑っていた。
「どうしたの、明奈?」
「ふふっ、んーん。なんでもないよ」
「んふふ〜。あたしは分かるよ明奈ちゃん! 微笑ましいよねぇ」
「そうだよね~」
その様子を見てお姉と二人ではてなマークを出しながら首をかしげる。なにがどうしたんだろう。
「まぁまぁ、二人は気にしないで。とりあえず移動しよ!」
「そうだね。そうしよっか」
ということでここにずっと留まって話し続けるのも邪魔になってしまうので移動して靴を履き替えて校舎を出る。
「そういえば誘っといてだけど、真尋も部活はなかったの?」
校門に向かって歩きながら、明奈が聞く。
あんまり詳しくは知らないけど、確か真尋ちゃんはいくつかの文化系の部活を掛け持ちして所属しているらしい。
「うん。週明けの月曜日から再開だったり、そもそも自由参加の部活だったりだから~。せっかく誘ってもらったし、皆で遊びに行くのも大事な経験で部活にも活きるんだよ!」
別に無理して来てるわけでもないようで安心する。
まぁ、お姉から聞いてる感じ部活好きみたいだしそんな子でもなさそうだけど。
「それならよかった!」
「それで、どこ行こっか?」
行先も決まらずにどこかに向かうわけにもいかないので、一旦校門あたりで立ち止まってこれからどうするかを話し合うことにする。
「ん~。テスト終わりだし、やっぱ甘いものじゃない?」
「だよね! 賛成!」
「わ~い」
わたしが提案すると皆が喜んで同意する。
「じゃあとりあえず駅前に向けてしゅっぱーつ!」
「おお~!」
テンション高めに一番前に歩き出す明奈に真尋ちゃんがこぶしを上げて続いていく。
「ふふっ行こ、環樺。何食べたい?」
「え~そうだなぁ~」
二人に置いて行かれないようにお姉と並んで歩き出して、何を食べようか話したり、想像を膨らませていった。
「いや~あっついあっつい!」
「そうだね。まだ五月なのにね」
駅前近くまで移動してくると、お姉の言う通りまだ五月だというのにお昼に歩いているだけで体温の上昇を感じてしまう。
まだそれほど暑くない日もあるけど、今日はここ数日では少し高めの気温の予報だった。
あまり効果はないとはわかっていながら、気休め程度に首のあたりをパタパタと手で仰いでみる。
まだそんなに汗が浮かんでくるほどではないけど、否が応でも季節の移ろいを実感させられる。
「そろそろ夏服の出番だねぇ」
「えーはやくない!? この制服可愛くて気に入ってるのになぁ」
真尋ちゃんの発言に明奈が嘆く。
「あたしは夏服着るのも楽しみだけどなぁ」
「それはそうだけどさぁ。てか、環樺もお姉さんもそんなにキッチリ制服着てて偉いよねー」
「まぁね」
明奈に言われた通り、わたしもお姉も昔から制服を着崩したりすることはあまりしない。
対して、明奈はだらしなくシャツの第二ボタンまで開けてリボンも外してしまって、スカートも短いし、この中で一番暑さを感じていそうな格好をしていた。
「うんうん。あたしも制服をちゃんと着てる人はカッコいいと思うなぁ」
「ふふ、ありがと。でも、校則を破らないくらいなら自由にするのも悪くないと思うよ」
「だよね、そうだよね!」
特にお姉と何かを話し合ってお互いにキッチリと着ているわけではないんだけど、昔からお姉はちゃんとしていたし、わたしもお姉の妹として一緒に居ても恥ずかしくないように、出来るだけカッコよくしていたいと思って外に居る時はちゃんとするようにしているってだけなんだけど。
真尋ちゃんも第一ボタンを開けているくらいで特にだらしない要素はない。
ウチはそもそも校則があまりお堅くなく、結構自由な校風ではあるのでよっぽどじゃないと校則違反にはならないみたいだけど。
夏服と冬服を変えるのも個人の自由らしいので、その気があるなら夏もずっと今のままでいることだってできる。
「お姉の夏服見るのも楽しみだなぁ~」
「ふふっ私も。環樺は夏服も似合うと思うし」
「えへへ~」
ついついお姉の夏服姿を想像してしまう。お姉は可愛いから何着ても似合っちゃうからなー。
「ほら、環樺、そろそろお店着いちゃうよ」
「おっと」
お姉に指摘されて、少しどこかへ離れていた意識を現実に引き戻すと、いつの間にかこちらも少し前に離れていた明奈と真尋ちゃんに早歩きで追いつく。
そしてもう少しで着くはずの、今日ここにくる間に相談して決めたスイーツのお店へ向かっていく。




