第26話
テスト週間が始まってから週が明けて、テスト前日の月曜日の夜。
明日から始まるテストに向けて、お姉と一緒に最後の復習をしていた。
あれから毎日少しずつテスト勉強を重ね、金曜日の放課後にはもう一度明奈と真尋ちゃんを我が家に招いての勉強会が行われたりもして、真尋ちゃんはもちろん、明奈もお姉からこれだけ出来ればまぁ大丈夫でしょうと言われて喜んでいた。
今日はわたしとお姉の二人なので、リビングではなくもちろんお姉の部屋で勉強している。
「ねーねーお姉」
「んー?」
「ここどうやるのー?」
「ここは——」
テーブルを挟んで向かい側に座るお姉に数学の問題の解き方を教えてもらうためにシャーペンの反対の方(消しゴムが付いてる方)でお姉の手をツンツンとつつく。
お姉はわたしの問題集を回転させて自分の方に向けて書き込みながら説明してくれる。
「ありがと!」
「ん」
お姉に教えてもらった通りに問題を解く。
一分くらいしてからチラッとお姉の方を見ると集中していて、そのままじーっと見ていても全然気づかずサラサラとペンを走らせ続けている。
いや、もしかしたら気づいてはいるのかもしれないけどこっちを見ることはしない。
それにしても何かに真剣に取り組んでいるお姉の表情はかっこいいなぁ。
「お姉お姉ー」
「なに?」
もう一度お姉の手をシャーペンでつつく。
「ここはー?」
「はいはい、ここは......」
再びノートを持っていって、分かりやすく丁寧に教えてくれる。
「ありがとお姉!」
「ん」
教えてもらったところを解き終わってからそのまま問題を解き進めていき、何個目かの問題を解こうとしたところで手を止める。
うーん、と少し考えてから三度お姉の手をつついてみる。
「ねーお姉」
声を掛けると、今度はシャーペンを置いて「はぁ」、とため息を一つ吐いてから顔を上げて私と目を合わせてくれた。
「環樺。分かってるよ? さっきから解き方分かってるのに聞いてきてるよね」
「え~? なんのことかなぁ」
「はぁ」
実はその通りで、全然バレてたみたいだけど一応とぼけたふりをしてみるとジトーっとした目でもう一度ため息を吐かれてしまう。
「あっはは、でもお姉は気づいてるのにちゃーんと教えてくれてたんだもんね?」
「んぐっ......」
ニヤニヤしながらそう返すと、お姉も痛いところを突かれてしまったのか口を噤んでしまった。
「ごめんごめん、ありがとねお姉」
両腕で頬杖をついて、微笑みながらからかってしまったことを謝る。
「もぅ......」
お姉は目を逸らして数秒してから、チラッとわたしのことを見ると、ポンポンと自分が座っている場所の右側の床を叩いた。
「そんなに余裕なら、次は環樺が私に教えてよ」
「えぇ~も~お姉ってば~。しょうがないなぁ」
隣に来て欲しいというお姉からの要望に嬉しくなって、すぐさま座っていたクッションも一緒に持って移動する。
テーブルもそんなに横に広いわけではないので、お姉が少し横にずれてもギリギリになる。
「どれどれー」
「じゃあ、ここ教えられる?」
お姉がやっていたのは英語の勉強で、お姉も全然出来る方ではあるけどわたしの方が少しだけ得意なので教えてあげたり、一緒になって考えたりしながら問題を解いていった。
「よし! 今日はここぐらいにしとこうよお姉」
勉強を開始して一時間とちょっとくらい、お姉と一緒に英語の後も他の教科もチラッとさらうくらいの勉強をして区切りが良くなったタイミングで終わりの提案をする。
「うーん......ま、そうだね。このくらいにして後はゆっくりしようかな」
「この一週間十分頑張ったからね!」
お姉は少し悩んで今開いていた問題集を数秒眺めてからパタンと閉じて同意してくれた。
「でも、環樺は大丈夫そうなの?」
「だいじょぶだいじょぶ! お姉こそ......ってお姉はどうせ問題ないか」
言い返してみようとしたけどあんまり意味がないことに気づいてすぐに撤回する。
「まぁ、私も聞いてみただけだけど」
二人でテーブルの上の教科書や問題集を片付け始める。
すると、お姉が何かをバッグに仕舞おうと持ち上げた拍子か何かでお姉がさっきまで使っていたシャーペンがわたしの方にコロコロと転がってきた。
それを拾い上げて「ん」とお姉に差し出す。
「ありがと」
とお姉が受け取ろうとした瞬間に良いことを思いついて手を引くと、シャーペンを掴もうとしたお姉の手が空を掴む。
「もぅ、なに?」
「えへへ。お姉も不安だろうなーと思って、良いこと思いついたんだー」
適当な言い訳を付けながら、お姉のシャーペンをわたしの近くのテーブルの上に置いて、今度はわたしが使っているお姉と色違いのシャーペンをお姉に差し出す。
「そういうことね。でも私、別に不安じゃないもん」
わざとらしくイジワルするようにプイっと顔を背けながら拒否されてしまう。
「も~お姉ー! じゃあ、わたしがそうしたいから! お守り代わりに交換しよ? ね?」
「ふふっ、しょうがないなぁ」
今度は素直に言うと、お姉は笑いながらわたしの手からわたしのシャーペンを取って筆箱に入れた。
「やったぁ!」
わたしもお姉のシャーペンを大事に自分の筆箱に仕舞う。
これで成績が上がったりするなんてことなんてないのは分かっているけど、心強いのは確かだ。ていうか嬉しいっていうだけで十分なんだけどね。
「ん~~~~」
テーブルの上に広げていた勉強道具を全部片づけ終えて、まっさらになったテーブルに両手を伸ばして寝そべってみるとテーブルとくっついているところがひんやりして気持ちいい。
手だけをパタパタとさせると、お姉の手がわたしの左手を上から押さえつけてきて動きを止められる。
「なにーお姉ー?」
「別に何にも?」
「んふふ、そっかー」
テーブルのひんやりした温度からお姉の手の熱の温度でじんわりと温かくなっていく。
「......環樺、何か欲しいものある?」
「えー? そうだなぁ」
すぐに誕生日プレゼントのことだろうなと思い当たる。
今週の中間テストが終わったら来週にわたし達の誕生日がくるので、わたしもテスト勉強の他にお姉の誕生日プレゼントで頭を悩ませないといけない。
誕生日ケーキなどは両親が用意してくれているが、プレゼントはわたし達が両親に予算をもらってお互いに選んで渡すのが数年前からの決まりになっていた。
両親曰く、その方が二人も嬉しいプレゼントになるでしょ。ということでそうなった。
両親からプレゼントをもらってた時も嬉しかったけど、そう言われてしまうと心から否定もできないのは、うん、ごめんなさい。
「欲しいものはー、教えなーい!」
「むぅ......」
「なぜかと言うと、お姉がくれるものだったらなんでも嬉しいから~」
「それは......私もよく分かるけど」
このやりとりも毎年の通過儀礼のようなものだ。
わたしも毎年何がいいかなって頭を悩ませるけど、そのお姉の為に悩む時間も幸せを感じるし、お姉がわたしの為に頭を悩ませてプレゼントを考えてくれるのがなによりも嬉しいプレゼントになるから。
「で、お姉、いつまで手握ってるの?」
「あっ、ごめん」
考え事をしていたからか、忘れられてずっと握られっぱなしになっていた手がパッと解放される。
「んふふっ」
「なに、どうしたの?」
「お姉が悩んでるの嬉しいなーって」
「もぅ」
「わぁぁぁぁ」
呆れたような顔をしたお姉に頭をわしゃわしゃされてしまった。
「そんなことするならお風呂上りにお姉に頭乾かしてもらおー」
「しょうがないなぁ。じゃあお風呂入っておいで」
「やったぁ!」
許可を得てすぐに立ち上がり、持ってきていたバッグを持って自分の部屋に戻る。
お風呂上りにお姉に髪を乾かしてもらって、わたしもお姉の髪を乾かしてあげて、明日に向けてリラックスして過ごした。




