第25話
「じゃあまず、二人の得意、苦手を教えて?」
やっとテスト勉強をする段階になったので、まずは何が出来て何が出来ないのかの共有をするところから始めることにする。
一応この勉強会は私と環樺が教えて欲しいと言われて始まったものではあるので、何を教えてあげるかの把握をしなければ。
「はい! 言いずらいけど、全部苦手です!」
「えっと、あたしは主要五教科以外は大丈夫」
「あ、私も保健と音楽は得意!」
「あはは、二人ともやばいね」
......二人とも苦手な範囲が広いらしい。環樺は面白そうに笑ってるし。あなたも教える側なんだから困りなさい。
「えっと......じゃあ、危なそうな教科とかあったらそこからやってこうか」
「それなら、数学と英語と理科!」
「あたしは危ないのは国語と英語かなぁ」
「だったら......」
私と環樺の得意な教科を合わせて考えると——
「まずは私が高橋さんに数学を教えるから、環樺は真尋ちゃんに国語と英語を教えてあげて?」
「おっけー!」
「二人もそれでいい?」
「全然大丈夫! ありがと、お姉さん!」
「あたしも~。よろしくね環樺ちゃん」
「うん。じゃあ明奈、席交換しよっか」
教えてあげやすいように環樺と高橋さんが席を交換して、私と高橋さん、環樺と真尋ちゃんが横並びになるように座る。
「お手柔らかにお願いします、お姉さん!」
「それは高橋さん次第だけど、頑張りましょ」
高橋さんと一緒に数学の教科書やらプリントなどを用意して勉強を開始する。
「まず第一に優先するべきは絶対に赤点を回避することだから、今回の範囲で抑えなきゃいけないのは、ここと......それからここ」
「ふんふん......」
今回の高校に入って最初に行われる中間テストはほとんどが中学で勉強したことで、範囲もそれほど広くないのでここを覚えたらある程度の点数が取れそう、という場所をまずは教えていく。
「そういえば......」
「ん?」
覚えておいた方がいい公式や問題を解いていくコツなどを教えながら問題を解いていくこと数問。高橋さんがふと、シャーペンをテーブルに置いた。
私も高橋さんが問題を解いている間に自分の勉強をしていたので、顔を上げて横を見る。
「わざわざお姉さんが私に教えてくれてるってことは、環樺とお姉さんも得意な教科が違ったりするの?」
「あぁ......」
少し視線を下ろして高橋さんが解きかけている問題を見ると、少し難しそうなものだったので、行き詰ったか休憩かなのだろうかと推測する。
確かに、もっともな疑問だなと思う。
一緒に勉強会をすることになったので、どうせなら得意な方が教えた方が良いだろうと思って提案したけど、高橋さんは環樺に勉強を教えて欲しいとお願いして真尋ちゃんは私にお願いしたんだから、頼まれた人が頼んだ人に教えてあげるのが普通かもしれない。
「うん。環樺とは得意な教科が違うから、テスト勉強するときはお互いに教え合ってるよ」
「へえ~。双子でもそういうのって違うもんなんだねー」
「そうだよー、お姉とは得意なものは違うし、好きなものも違う。それぞれの感性はちゃんと違うんだー」
対面に座っている環樺も会話に参加してくる。
例えば何となく気に入らないことなんだけど、私の方が読書が好きで本を沢山読んでいるにもかかわらずなぜか環樺の方が国語が得意だったりだとか。
その間も真尋ちゃんは問題とにらめっこしながらうーーんと唸っていた。
「好きな食べ物は全部一緒だけどね。身体的なものだからかな」
「不思議ー、おもしろー!」
「双子でもその人達によって全然違うらしいからあくまでもわたし達は、だけどね!」
説明し終わってから環樺が私の方を見て、ニコッと笑ってから勉強に戻っていった。
「ごめんね、高橋さん。環樺に頼んだのに私が教えることにしちゃって」
「ええ!? 全然全然! お姉さんとも仲良くなりたいし、むしろいい機会だって!」
手をブンブンと振りながら否定してくれる。
「そう? ありがとう」
「てか、お姉さんも高橋さんじゃなくて明奈って呼んでよ」
環樺と仲の良い子なら私も仲良くしたいので、距離を詰めようとしてくれて嬉しいと思う。
「えっとじゃあ、明奈、その問題はね......」
「えっ、いきなり!? てかサボろうとしてたのバレてた!」
「一緒に勉強した人が赤点取ったりしたら悲しいからね」
「そんなこと言われちゃったらちゃんとやらないわけにはいかないなぁ」
いきなりの切り替えに驚きつつも急いでシャーペンを手に取った明奈に問題の解き方を教えてテスト勉強を再開した。
「よし、そろそろいい時間かな。今日はここまでにしようか」
窓から差し込んでいた夕陽の色が黒く染まりきった頃、頭の使い過ぎでぐったりしてきた人が約二名出ていることもあり、今日の勉強会を終わらせるための号令を掛ける。
「つかれたあぁぁぁ」
「いやー頑張ったっしょー」
「二人ともお疲れー」
すぐにシャーペンがテーブルに落ちて転がる音が二つ聞こえるのと一緒に、真尋ちゃんと明奈が一斉にテーブルにばたんと倒れこんで休み始めた。
あれから数時間の間に勉強する中で、一つの教科だけではなく不安そうな教科をなるべく一通り教えるようにした。そうすれば一人で勉強するときもやりやすくなるだろう。
「とりあえず真尋ちゃんは今日勉強した範囲は大丈夫そうだよ」
「そうかなぁ? えへへ、よかったぁ」
環樺からのお墨付きをもらって安心した表情を浮かべた。
「お姉さん、アタシはアタシは!?」
隣の明奈が勢いよく身体を起こして、縋るような目をして私の方にも感想を求めてくる。
「うーん......この後の数日の頑張り次第かなぁ......」
「えー! そんなぁ!?」
期待していた言葉とは違うものが聞こえてきたのか、ガックリとうなだれてしまった。
真尋ちゃんと比べてそもそもの苦手の範囲が広いところから始まっているし、ここで大丈夫と言ってしまってこの後の勉強を疎かにしてしまうと危なそうなので正直に伝えた。
範囲も狭いし大丈夫そうだけどね。
「あはは。テストまでわたしも教えるから頑張ろうよ」
「うぅ、ありがと環樺ぁ」
「みゃあ~」
環樺が慰めるのと一緒に、クロノがいつの間にか近くに寄ってきていて、勉強を頑張ったと労いの言葉を掛けるかのように鳴き声を発した。
「きゃあああかわいいい!!」
「頑張った頭が癒されるねぇ」
真尋ちゃんの方にはクロエが行っているようだ。
この数時間で知らない人がこの空間に居ることに慣れたんだろうか、クロノは全く気にせず明奈に声を掛けた後は私の足元へとやってきたので抱き上げて撫でてあげる。
「さ、触っても大丈夫?」
明奈がおそるおそる聞いてくる。
「どうだろう? 手を近づけてみて嫌がらなかったら撫でてあげて」
「うん......」
怖がらせないように右手をゆっくりとクロノの近くに運んでいく。
クロノは近づいてくる明奈の手をじっと見つめてはいるけど、嫌がるそぶりは見せない。
しばらく顔の前で手を止めていた明奈が私の方にアイコンタクトで確認を取る。こくんと頷いてみせるとゆっくりと手が動き出してクロノの頭を優しく撫でた。
「んんん~~えらいねぇかわいいねぇ」
「いいなぁ、あたしも撫でたい~」
真尋ちゃんが羨ましがっていると、クロエが真尋ちゃんの足元に近づいた。
「お。真尋ちゃん、大丈夫そうなら抱っこしてみる?」
「え! いいのぉ!?」
環樺がそう言うと真尋ちゃんが目を輝かせながら喜んだ。
「大丈夫? 来てくれるかなぁ?」
真尋ちゃんが屈んで待っていると、嫌がらずに抱っこされてくれたようでクロエを抱えて立ち上がった。
「やったあ! かわいいい!」
「すごい! えらい!」
真尋ちゃんと一緒に環樺も喜んでクロエを褒めてあげる。
「この子達、名前はなんていうの?」
「この子がクロノで真尋ちゃんが抱っこしてる子がクロエ。どっちも女の子だよ」
「名前も可愛いねぇ! クロノちゃんも抱っこさせてくれるかな!?」
明奈も羨ましがって抱っこしたがるのでクロノを少し明奈の方に近づけてみる。
「クロノ、いく?」
数秒して私の手から動き出すと、両手を伸ばして待ち構えている明奈のところに行くと見せかけてするりとその横を通り抜けて床へと着地し、真尋ちゃんの方に移動していった。
「あ~ん、そんなぁ......」
「あ、クロノちゃんもこっちに来てくれたんだぁ。可愛いねぇ」
真尋ちゃんが再び屈んで、片手でクロエを抱えたままもう一方の手でクロノも撫でていた。
「二人とも明奈よりも真尋ちゃんの方が良いみたい」
「追い打ちしないでよ! まぁ、猫ちゃんはそっけないとこも可愛いよね......」
環樺が面白そうにからかうと落ち込みつつも言い訳のようなことを言って自分を納得させていた。でも言っていることには私も完全に同意だ。
「それより! 最後に二人の部屋見てみたいんだけど!」
「あー、それは......」
ついにきた、と思った。当然、ウチに来るなら絶対に言われると思ったが、これがウチに招待することを迷った二つ目の理由だ。
そしてこっちの方が理由としては大きかった。
実は私達はお互いの部屋に友達を入れたことがない。なのでそもそもウチに友達を連れてきたこと自体が今回はかなり珍しかった。
なんて言うのか難しいんだけど、私達の部屋は私達二人の場所としておきたいという思いが強くて、そこに他人が入ってくることに抵抗があった。
昔から両親でもそれを尊重してくれているのか、ごくたまに何か頼んだ時や体調が悪かったりするときだったりじゃないと近づかないでいてくれている。
どうしようかと環樺と目を見合わせると、すぐに環樺が口を開いた。
「ごめん明奈、ちょっと部屋は無理ってことで」
下手な言い訳をせずに簡潔に環樺が伝えて、私も明奈の方を見る。
「そうなん? ざんねーん」
思ったよりもサッパリとした反応でこちらとしても助かった。
「じゃ、ただでさえ今日は二人のお邪魔しちゃったしここらでお暇しよっかな!」
「ううん、私も勉強になったし楽しかったよ」
「マジ? じゃ、また今度皆で遊ぼうね!」
そうしてテーブルの上の勉強道具を片付けて帰る準備を始めていた。
「明奈、道分かる? 駅まで送ってこうか?」
「だいじょぶだいじょぶ、スマホでマップ見たらいいし!」
「真尋ちゃんは......」
準備を終わらせてバッグを手に持った明奈に続いて真尋ちゃんの方を見ると、未だにクロクロを構い続けていた。
「ごめんー! この子達が可愛すぎて動けないよぉ!」
「羨ま......じゃなくて、ほら真尋! 行くよ!」
「あはは......可愛がってくれてありがとね」
それならと明奈が近づいたことでクロクロが解散してしまって今日はお開きになった。明奈は悲しんでいたけど。
あの子達も真尋ちゃんの小動物みたいな柔らかい雰囲気が気に入ったのかもしれない。真尋ちゃんはどの動物にも好かれそうだな。




