第24話
「ただいま」「ただいまー」
最近は再びいつもの光景になりつつある、環樺と二人で学校から一緒に帰宅して自宅の玄関をくぐって家の中に入る。
「おじゃましまーす!」
「おじゃましまぁす」
そして、ここからはいつもとは違って私達の後ろから友達が続いて家の中へと入ってくる。
二人は元気な挨拶をしてくれるが、さっき言ったように今日は夜までお父さんお母さんは帰ってこないので、今この家の暫定主である私が靴を脱いで揃えてからそちらに向き直り「いらっしゃい、二人とも」と迎え入れる。
「ちょっと待ってて!」
そして私の後に続いて靴を脱いだ環樺が言うと、パタパタと小走りでリビングに入っていった。
バタンとリビングのドアが閉まり、しばらくするとドアが開かれ、環樺が顔だけをひょこっと出して「おっけー!」と合図して再びリビングに入っていった。
「いいの? じゃあ」
「あ、靴はどこでも適当でいいよ」
「うん、ありがと~」
高橋さんと真尋ちゃんが靴を脱いで上がり、私が先にリビングを入ると、その後に続いて入ってくる。
「えっと、まず......」
「「あ!」」
私が口を開いた瞬間に二人が環樺の方を見て目を輝かせる。正しくは環樺の傍にいる我が家の愛猫、クロノとクロエを見て。
「猫ちゃんだぁ!」
「かわいいいいい」
「ストップ!」
テンションが上がった二人を、近づこうとする前に環樺が片手で静止させると二人はビタッと止まる。
クロノとクロエは怯える様子までは見せないものの、こちらの方をじっと見つめて動かないまま警戒はしている。
私達が二人の家はどう? と聞かれたときに悩んだ理由のまず一つ目がこの子達の存在だった。
「えっとね二人とも、見た通りウチには猫がいるんだけど、まだギリギリ子供だし、この子達がウチに来てから家族以外の人を見るの初めてだから......」
「そうなの、だからちょっと様子見させてね」
動かずにいてくれている二人に私が詳しく説明して、環樺は大丈夫だよと宥めるように撫でてあげる。
「そ、そうなんだ。大丈夫だよ~何もしないからね~」
高橋さんが脅かさないように両手を振りながら小声で語りかける。
「ごめんね、あんまり可愛いからテンション上がっちゃって......」
真尋ちゃんも少し申し訳なさそうにしてしまう。
「ううん、ダイジョブダイジョブ! この子達も怖がってなさそうだし!」
「うん、もしこの子達から近づいてきたりとかしたら可愛がってあげて欲しいな」
あくまでもこの子達最優先で、少しでも怯える様子をみせたら私達の部屋に移動させようと思っていたけれど、今のところは大丈夫だと思う。
できれば人に慣れてくれたらいいなという思いもあるし、どうせならウチの子達の可愛さを見てもらい気持ちもあるので、少し悩んだけど二人を招待した。
「そういうわけで、一旦気にせず過ごしてよ!」
「ここに座って。飲み物はお茶でいいかな?」
「あ、うん、ありがとう」
「ありがと~」
二人をリラックスさせて、いつもご飯を食べる時に使う方のテーブルへと座ってもらう。いつも私と環樺が座っている席の向かいのお父さんとお母さんが座っている椅子の方に。
環樺もこちらの方へ移動してきていつもの場所に座る。私は冷蔵庫に向かいながらクロクロの様子を見ると、既に落ち着いているようでお互いを毛繕いし始めていた。その様子を見て安心する。
お盆にお茶をいれたグラスを人数分乗せてテーブルへと運んで差し出すと、皆がお礼を言う。
「勉強を始める前に少しだけ......」
各々勉強しようとしている教科の教科書などを広げ始めていると高橋さんが小さい声で言い始める。
「あはは、明奈、話し声は普通で大丈夫だから」
「あ、そう? じゃあ。ちょっと雑談でもしようかな~って」
今までと同じくらいの声の大きさに戻った高橋さんが早速そんなことを言いだした。皆、積極的に勉強をしたいわけじゃなさそうだし、遅かれ早かれ脱線はすると思ってはいたけど。
環樺がこちらをチラッと見てくる。
まぁ、勉強のモチベーションを保つために最初に楽しんでおくのもいいかなと思って、環樺に小さく頷き返す。
「うん、学校終わって移動してきたばっかりだしね。少し休む時間があってもいいかも」
「そう! お姉さん話が分かるぅ~」
「で、何かあるの? 明奈」
「まず前回からめっちゃ気になってたんだけど!」
「な、なに......?」
高橋さんはこちらにずいっと身を乗り出して環樺を見て、私を見てからもう一度環樺の方を見て口を開く。
「環樺、お姉さんが一緒に居る時、いつもとテンション違くない!?」
高橋さんがそう言うと——
「分かる! 円樺ちゃんも環樺ちゃんが一緒に居る時はいつもと違うの!」
と、真尋ちゃんも興奮気味に身を乗り出して高橋さんの言葉に同意する。
「え? そ、そう......?」
「自分じゃ分からないけど......」
「「絶対違うよ!!」」
興奮した正面の二人の圧に負けるように目線を逸らすと、逸らした先の環樺と目が合う。
アイコンタクトでそうなの? と聞いてみると、いや分かんないよ、みたいな小さく首を振るジェスチャーを返される。
「二人とも一旦ちょっと落ち着いて?」
「おっと、ごめんごめん」
前に向き直って、興奮して身を乗り出している二人を宥めると、二人は謝りながら椅子に腰を落ち着けた。
「何がそんなにいつもと違うの?」
同じく目線を前に戻した環樺が高橋さんに聞いてみる。
「なんていうか、お姉さんと居る時は、元気? 子供っぽくなるというか」
「えっ!?」
「円樺ちゃんはねぇ、逆に落ち着くっていうか」
「えっ」
真尋ちゃんが口元に人差し指を当ててう~ん、と少し考えこんでからパッとひらめいたように顔をあげる。
「そう! お姉ちゃんっぽくなる!」
「それだ! 環樺も妹っぽくなってるんだ!」
「そ、そんなに......?」
「うん!」
確かに私は環樺のお姉ちゃんだという思いは強いけど。一緒に居る時と居ない時で周りから見てそんなに分かりやすいくらい態度が変わってしまっているのか......
指摘されて少し気恥ずかしくなってしまう。横の環樺を見ると、やっぱり同じように恥ずかしそうにしていた。
今まではそもそも学校とかでも一緒に居る時間がほとんどだったし、私達が別々に居る時に一緒に居る友達も昔からの仲の良い子達が多かったりでわざわざ言ってこなかったりだったんだろうか。
「まぁまぁ二人ともそんなに恥ずかしがらないでよ! 態度が違うのも全然嫌なわけじゃないし!」
「うんうん、姉妹の仲が良いのはすっごく良いことだしねぇ」
何も言えなくなってしまった私達に向けて、二人から優しい言葉が掛けられる。
コホンと咳ばらいを一つしてから顔を上げる。
「私も、きっと環樺も、何か意図があって態度を変えてるとかじゃないから、それだけは......」
「うん......完全に無意識......」
「大丈夫だって! 二人ってホントに仲良いんだねー。家の中を見るだけでもお揃いの物が多いからすごく伝わってくる」
高橋さんがこのテーブルに乗っているグラスや私達の持ち物、周りを見渡して色んなものを見ながらそう言う。
「うんうん! あ、今後もそのままでいいからね」
「ありがとう、二人とも」
高橋さんも真尋ちゃんもニコニコと楽しそうにしていて、悪気があるわけじゃないというのが伝わっているようで安心する。
それはそうとして、私と一緒に居ない時の環樺がどういう感じなのか気になりはする。
当たり前だけど、私が一緒に居るということは私が居ない状態の環樺を見ることはできないということで。
誰かにその環樺の動画を取ってもらうか、透明人間にでもなれたらいいのにな、なんて馬鹿らしいことを考えながら環樺の方をチラッと見ると、ポン、と両手で音を鳴らした。
「それじゃあ皆、そろそろ勉強しよっか?」
「そうだねぇ、いい気分転換もできたし」
「まぁ、しょうがない。やりますかぁ」
環樺の提案で皆が一斉に勉強する姿勢に切り替わっていく。
私も一回だけ深呼吸してから勉強道具を取り出し、テスト勉強へと思考を切り替えた。




