第23話
「では、明日からはテスト期間になりますので部活動は禁止になります。皆さん、しっかりと勉強するようにしてください。はい以上、さようなら」
ゴールデンウィークが明け、月曜日の帰りのホームルームが終わる。
次々とイベントや行事はやってくるもので、来週の火曜日から金曜日にかけた四日間、早くも私達の高校生活で初めてのテストがやってくる。
「円樺ちゃんバイバーイ!」
「うん、バイバイ真尋ちゃん」
真尋ちゃんはテスト前最後の部活だからとホームルームが終わった瞬間急いで帰り支度を終わらせて教室を出ていった。
他の挨拶をしてきてくれたクラスメイト達にも挨拶を返してからスマホを取り出し、環樺に連絡を入れて校門へと向かい、しばらくしてから合流して帰路につく。
そして夕方になりご飯を食べた後、いつものように私の部屋で過ごしていた。
「どうせ明日からいっぱい勉強するんだから今日はゆっくりしようよ~」
勉強しようかと環樺に言ったらすぐにそう返される。
「ゆっくりするのはいつものことでしょ」
「そうだけどさぁ、テスト期間は明日からだし」
環樺はそんな風に言い訳しながら床に寝そべり、今日はやる気はないという姿勢を表現する。
そういえば、ゴールデンウィークの時に勝負で私に勝ってホラー映画を一緒に見るという宣言をしていたけど、それはいいんだろうか。
いや、私としてはそんなことなくなってくれた方が助かるんだけど、今回はその絶好の機会ではあるので警戒してしまう。
「ん? どしたのお姉?」
そんなことを考えていると環樺と目が合い、不思議そうな顔をされる。無意識にじっと見つめてしまっていたらしい。
「なんでもない」
「えー、何でもないなんてことないでしょー。絶対何か考えてる顔してた」
環樺が身体を起こして四つん這いで近づいてきながら問い詰めてくる。
こういうところも双子らしいところなんだろうけど、お互いに一度勘づかれてしまったら誤魔化しはきかない。
何を考えているか分からないにしても嘘を吐いていたりするのは分かってしまうので観念して素直に言うことにする。
「環樺、この前夜更かしした時に言ってたでしょ。勝負で負かして一緒にホラー映画見るんだーって。テストっていう絶好の機会なのに言ってこないなって」
それを聞いて四つん這いの態勢から正座に変わり、何故か真剣な表情で見つめ返される。
「な、なに?」
「......お姉はいいの?」
しばらくしてから逆に問い返される。
「嫌だけど......」
そんなものを賭けてする勝負なら私としては回避できるに越したことはない。
「どうして?」
「どうしてって......」
何を聞かれているんだろう?
ホラーなんて怖い物を見るのが嫌だから。っていうあの時も言ったような答えを求めているわけじゃなさそうな感じだ。
となると——
「最近学校で一緒に居られる時間がほとんどなかったのに、家でも一緒に居れなくなるのはやだ」
真っ直ぐ目を見つめ返してそう答えると環樺はニコッと笑った。
環樺の求めていることを答えたけど、別に言わされたわけでもなく私も本心から思っていることだ。
「わたしもそう! だから今回はいいの!」
そう言うと、満足したように再びさっきと同じ位置に戻って寝ころんだ。
「そっか。じゃあ、明日から頑張ろうね」
私も気が抜けてしまって、勉強は環樺の言う通り明日からにして今日は英気を養うことにしようと環樺の隣に仰向けに寝ころんだ。
「ねぇ、お姉」
「ん? なに?」
呼ばれて環樺の方を見ると近い距離で目が合う。
「テストが終わったらすぐに誕生日だよ」
「そうだね」
来週の中間テストが終わったらその次の週にはもう私達の誕生日がやってくる。
「あ~、楽しみだなぁ」
目の前の、世界で一番愛おしい存在が運命的に一緒に誕生してくれた大切な日。
「ふふっ、そうだね」
優しく頭を撫でてあげると環樺は気持ちよさそうに目を閉じた。
「円樺ちゃーん! 勉強教えてぇー!」
次の日、帰りのホームルームが終わった瞬間、隣の席の真尋ちゃんから勉強を教えてほしいと頼み込まれる。
昨日環樺と約束したように、二人で一緒に勉強することになっているのでどうしようかと悩んでしまう。
「私、教えてあげられる立場か分かんないけど......」
「最近部活が楽しくて、授業中も部活のこと考えちゃって聞けてなかったのぉ......」
「そ、そうなんだ」
確か、真尋ちゃんは色んな文科系の部活に入部体験に行って、最終的に決めきれずに複数の部活を掛け持ちすることになったはずだ。
「えっと、ちょっと待ってもらえる?」
とりあえず、一人で決められる問題ではないので、真尋ちゃんも一緒でいいか環樺に聞いてみるためにスマホを取り出しメッセージを飛ばす。
すぐに既読がつくと、返ってきたのは——廊下に出てきて——といったものだった。
真尋ちゃんにそれを伝えて、帰る準備を整えてからバッグを持って一緒に教室を出る。するとちょうど同じタイミングで隣の教室から環樺とすぐ後ろに、前に真尋ちゃんの誤解を解いたときについてきた友達の高橋さんが一緒に出てきて、すぐにこちらに気づいて目が合う。
「あ、お姉! と真尋ちゃん」
「どーもお姉さん! それと真尋も!」
「こんにちは高橋さん」
「やっほー環樺ちゃん、明奈ちゃん!」
挨拶を交わして、他の通行人の邪魔にならないように皆で窓際の方に寄る。
「それで? 環樺」
「えっとね、こっちの方でもちょうど勉強教えてーってことになって、どうしようかなって思ってたところにお姉からも連絡きたから」
「なるほど」
説明を受けていると環樺の後ろで高橋さんが片手でごめんねっていうポーズをした。
でもこうなった以上はちょうどいいし、全然大丈夫だよという意味を込めてニコリと微笑み返す。
「それじゃあ四人で勉強しよっか」
「やった!」
「ありがとぉ円樺ちゃん、環樺ちゃん」
高橋さんと真尋ちゃんが安心して喜んでくれているのを見て、私と環樺も目を見合わせて笑う。
「てことで、どこで勉強しよっか。一旦図書室でも覗いてみる?」
「そーね! 行ってみてからもし人がいっぱいだったら考えよ!」
環樺の提案でひとまず図書室に向かってみることになり、全員で移動する。
が、図書室に向かうにつれて少しずつ人が増えていっていたのでそんな予感がしたけど、図書室に着いて中を覗くと案の定人がいっぱいで座るところはなさそうだった。
「うーん。ウチの中学はテスト期間中もスッカスカだったんだけどなぁ」
「あたしのところも~」
「まぁしょうがないよね。とりあえず外に出よっか」
ウチの高校ではテスト期間中の放課後は図書室以外での居残りは禁止になっているのでこれ以上は校内に居ることはできない。
「私の家は遠いからムリだとして、皆はどう?」
「あたしの部屋は散らかってて皆で勉強できるような環境じゃないかも~」
まず高橋さんが率先して自分の家はダメだと言ってから他の人にも聞いて、真尋ちゃんも厳しい様子を見せる。私としてもカフェやカラオケなどといったお金の掛かる場所を長時間利用する行為よりは誰かの家の方が良いと思う。
が......
「それじゃ、環樺とお姉さんの家は?」
二人がダメなようなら当然こちらに振られることになり、環樺と目を見合わせる。
目を見合わせたまま色々考えて、数秒の後、同時にうなずく。
「えっと、今日は親が夜まで帰ってこないからリビングでよければ......」
「うん、それほど遠くないし」
「マジ!? それじゃおねがいします!」
「ありがとぉ円樺ちゃん、環樺ちゃん!」
二人はすごく喜んでくれる。
昨日の時点から、我が家で環樺と二人で勉強する予定ではあったけど、今日になって想定外に二人の友達を連れて帰宅することになってしまった。
いや、決して嫌というわけではないんだけど。




