第22話
「よーし! じゃあいこっか! はい、コントローラー」
「ありがと」
二人で隣り合ってクッションに腰かけてベッドを背もたれのようにして座り、もう一つのコントローラーをお姉に手渡してゲームを始める。
今日一緒にやるのは協力型のアクションゲームで、キャラクターを操作して二人で謎解きのギミックを解いて行ったり、敵を倒してステージを進んでいくようなゲームだ。
少し前にとても話題になったゲームで、色んな配信者がやっていたのを見かけて面白そうだと思っていたが、いつかお姉と一緒にやろうと思って情報を入れないようにしていたものだ。
最初は綺麗なグラフィックのムービーから始まり、物語の中の二人のキャラクターが不思議な世界に飛ばされてしまったところで操作開始になった。
「わぁ! 始まったよお姉! すごーいひろーい!」
「あ、もう環樺! あんまり遠くに行かないで!」
動かしてみて操作を覚えながらとりあえず一緒に進んでみることにした。そしてしばらく障害物を乗り越えながら進んでいると。
「なんかあるよ」
「二人で別々の方に行くみたい」
「じゃあわたしこっち!」
二人で色んなものを動かしたりしながら道を作って進んで行ったり——
「わぁ! お姉、なんか来た!」
「えっと、環樺! そっちお願い!」
「オッケー!」
いきなり大量に出てきた敵を協力して倒したり——
「やられちゃった! お姉助けてー!」
「ちょっと待って! これ難しい!」
しばらく進んだ先の最初のボスらしき敵の攻撃を避けきれずにわたしのキャラクターの体力がなくなってしまってお姉の助けを待っていると、お姉も必死に避けながらわたしのキャラクターが倒れているところに助けに来ようとする。
「あとちょっと......!」
「あ、お姉危ない!」
「くっ......!」
お姉が体力があと少しの状態で頑張って敵の攻撃を避けようとすると、きっと無意識に身体ごと動いてしまってこちらにぐーっと傾いて肩がぶつかる。
「あはは、お姉痛いよぉ!」
「え? ......あ!」
集中していてわたしにぶつかっていることも気づいていなかった様子のお姉がわたしの言葉で注意を逸らされる。
「「ああ......!!」」
それまで頑張って生き延びていたお姉もこちらに気を取られた一瞬の隙に敵の攻撃に当たってしまってゲームオーバーになってしまう。
「ごめーん、環樺ぁ」
「あはは! お姉身体動いちゃってるってば!」
ゲームオーバーになったことよりもお姉の動きについ笑ってしまう。
「え、ほんと?」
「ほんとほんと。こっちにぐーって傾いてきちゃってたよ! んふふ......」
「ちょっと、笑いすぎ!」
「だってぇ......!」
「もう......ふふっ」
「あははっ!」
お姉もおかしくなってきてしまったのかわざと肩をぶつけてきて、ふたりで一緒に笑い合う。
「ふぅ。よし、じゃあ気を取り直してもう一回いこっか」
「よーし、今度こそ!」
ひとしきり笑い合ってから画面に向き直る。
もう一度最初からボス戦のやり直しにはなったが、一度行動は見ているのでさっきよりもダメージを抑えつつ、手際よく攻撃を当てていく。
「いいよぉお姉。もう少し」
「ん。環樺、そっちまかせたよ」
「おっけー」
じりじりとボスの体力を削っていき、ついに体力バーも四分の一ほどに差し掛かる。
「......あ! ごめんお姉!」
このままいけるかと思ったところでボスの最後の大技がわたしのところに飛んできてやられてしまう。
「大丈夫、今度こそ助けるから......!」
何もできることがない中画面を見守りながら祈っていると、お姉のキャラが敵の攻撃を避けつつわたしがやられてしまった位置に向かってきて、なんとか蘇生をしてくれる。
「お姉......!」
「環樺、最後このまま決めちゃうよ!」
「うん!」
二人であと少しの体力を削り切るために猛攻撃を仕掛け、そしてついに——
「「やったああ!!」」
ボスを倒した瞬間、隣のお姉を見ると同じタイミングでお姉もこちらを見てきたことで目が合う。
気持ちが高まってお姉に向かって右手を上げるとすぐにお姉の右手も私の手に向かってきてぱちんと気持ちのいい音を鳴らす。
画面の中ではすぐにムービーが始まったようなので視線をそちらに戻すと、わたし達が操作していたキャラクター達が弱ったボスをなんやかんやして遥か彼方にぶっ飛ばし、ステージクリアの文字が出てきた。
「ナイスお姉ー!」
「環樺もね。はぁ、白熱しちゃった」
一段落してストーリを見ている間、二人とも一旦コントローラーをテーブルに置いて一息ついて飲み物を飲んだり、お菓子をつまんだりする。
「わたしの方がゲームやること多いのにお姉の方が上手いかもね!」
「そんなことない。ちゃんと分かってるよ? 環樺、私の分も敵の攻撃引き付けてくれてるの。ありがとね」
「え、えへへ......ちょっとだけだけどね」
照れくさくなって目を逸らし、視線の先で何となく目についたテーブルの上のお菓子に手を伸ばしてまた口に運ぶ。
そしてストーリー進行のムービーが終わり、次のステージの攻略を開始した。
「環樺! あとちょっと!」
「いける、いけるよお姉!」
「......やった! やっと倒せたぁ~」
「ふぅ。お疲れお姉〜。だいぶ苦戦しちゃったねぇ」
あれから数時間が経過して、いくつかのステージをクリアしていき、何体目かのボスを倒して軽くハイタッチをする。
プレイ時間が長くなるにつれてわたし達も上手くなっていくけれど、当然敵も強くなっていってゲームの難易度が上がってきているので最初の頃よりもボスを倒すのに時間が掛かってしまった。
「そうだね、このボス強かったなぁ。......ふわぁ」
お姉があくびをひとつする。気が付くと外は少し明るくなり始めていたようでカーテンの隙間から少しの光が差し込んできていた。
「お姉もう眠くなっちゃった?」
「ううん。まだ大丈夫だけど、ボス倒せて気が抜けちゃって」
あくびで目の端に浮かんだ涙を拭いながらわたしの問いには否定をする。
「あんまり無理しないでね」
「うん。でも楽しいからもっとこの雰囲気を環樺と過ごしてたいな......」
「お、お姉~......!」
突然そんなことを言われて嬉しくなって胸がときめいたのも束の間、再びお姉が小さくあくびをした。
数時間の仮眠をしたとはいえ、いつもはこんな時間まで起きていることなんてないし眠気は確実に来ているんだろう。
「......よし! ねぇお姉、ゲームはキリがいいからここまでにして映画でも見よっか」
少し考えてそう提案する。
映画なら限界なら最悪いつの間にか寝てしまうこともできるし、その方がいいだろうと思って。
「でも、多分もう少しでクリアなのに......」
「元からいろんなことしようっていう話だったでしょ。ゲームはまた今度クリアしようよ。ね?」
お姉は画面を見つめてしばらく考えてから口を開いた。
「......うん、わかった。一緒に映画見るのも楽しみだったし、そうする」
「そうしよそうしよ!」
お姉も納得したところでゲームをセーブして電源を落とす。それから画面を切り替えて動画配信サイトを開く。
「さ、なに見る、お姉?」
「それじゃあ私、見たいものあるからそれでいい?」
「いいよ、お姉の見たいので」
「えっとね......」
検索欄にタイトルを入力していくお姉。
「あった。じゃあこれにするね」
「おっけー」
「あ、その前にちょっと休憩時間ね」
「ん?」
映画を見つけて再生ボタンを押そうとした手を止めてコントローラーをテーブルに置いて立ち上がった。
「あ、じゃあわたしもついでに」
お姉の意図を察して、途中で行きたくなってしまって映画を止めてしまうことがないように先に行っておこうと思い、お姉に続いて立ち上がって一緒に部屋を出て下の階へと下りる。
「お姉お先にどうぞー」
「環樺が先でいいよ」
「あ、うん」
先に譲ろうとしたら逆に譲られて、お姉はそのまま真っ直ぐ洗面所のドアを開けて入っていった。
それならわたしは先にトイレを済ませてから、洗面所に様子を見に行くとお姉がタオルで顔を拭いていた。
「お姉、顔洗いたかったんだ?」
「うん。もう少しだけちゃんと起きてたくて」
「んふっ、そっか。じゃあ先に部屋に戻ってるね」
「はーい」
タオルを洗濯機に入れてから一緒に洗面所を出て、お姉がトイレに入っていこうとしたので声を掛けてから先に部屋に戻る。少ししてからお姉も戻ってきて、また隣に座ると、今度こそ映画を再生した。
序盤は二人で色々話をしながら見ていたけれど、少しずつお姉の口数が少なくなっていって、たまにお姉の様子を窺うために横を見ると、ぬいぐるみを抱きしめながら瞼を重そうにしていた。
そのまま寝ちゃうかと思って声は掛けずに映画を見ていたけれど、顔を洗っていた効果もあってかお姉も最後まで寝ることなく見れたようだった。
「面白かったねー。お姉」
「うん、おもしろかった......」
「寝そうだったけど、ちゃんと見れてた?」
「だいじょうぶ、ちゃんとみてたよ......」
そう言いながら少し身体を起こしてテーブルの上のコントローラーを手に取り、再び検索欄に何かを入力し始めた。
「わかば、つぎこれもみていい......?」
「うん、いいよ?」
「ん......」
他にも見たい映画があったようで懸命に眠気と戦いながら再生を開始する。
さっき見た映画とは別のジャンルの映画のようで、これは結構昔の映画だった気がする。
どういうものかちゃんと理解するために導入部分をしっかり見る。
そしてそのまま映画に集中していると、始まって十分くらいでトンと肩に小さい衝撃と共に重量を感じる。
チラッとお姉の様子を確認してみると、流石にそれ以上は耐えられなかったらしく、いつの間にか目を瞑って眠りに落ちてしまっていた。
「ふふっ」
起こさないように、その愛おしい頭を優しく撫でる。
「ふわぁ......」
お姉を襲っていた眠気がお姉が眠ったことでわたしの方にやってきてしまったのか、いきなりとてつもない眠気を感じてあくびが出てしまう。
「お姉、今日は楽しかった? わたしはすっごく楽しくて幸せだったよ......」
届いていないことは分かっていながらお姉にそれだけ伝えて、心地の良い眠気に身を任せて目を閉じると、すぐに意識はそこで途切れた。




