第21話
「うぅん......」
眠りから徐々に意識を取り戻していき、目をうっすらと開けて窓の方を見ると、カーテン越しにも外は真っ暗なことが分かった。
「んっ......ふぅ」
身体を起こして伸びと深呼吸をひとつ、意識を取り戻していく手伝いをしてから枕元に置いてあるスマホを手に取り、時間を確認するために画面を付けると、お姉とわたしが入学式で撮ってお揃いで設定している写真の上に太い白字で21時07分と表示されている。
寝る前にお姉と話し合ってなんとなくこのくらいの時間に起きたいなと思っていた時間くらいに目を覚ますことができたみたいだ。
常夜灯の明かりを頼りに、ベッドの近くのテーブルの上に置いてある照明のリモコンを手に取り、部屋を明るくする。
買い物を終えて家に帰ってきてお昼ご飯にパンを食べてからは再びお姉とクロクロと一緒にリビングでまったり過ごしたり、お姉の部屋に移動して過ごしたり。
夕方に差し掛かる頃にお風呂に入って、お姉の髪を乾かしてあげたり、お姉に髪を乾かしてもらったり。
わたしは一応朝の運動終わりに一度シャワーを浴びたので、今日は先にお姉に入ってもらってから。
でも夜はやっぱりシャワーだけじゃなく湯船にゆっくり浸かることができるのでまた格別なものになる。
そして19時になるくらいで一旦解散して自室に戻り、一緒に長めの仮眠を取って夜通し遊ぶ態勢を整えたことで今に至る。
「よしっ」
ちゃんと時間を決めていたわけではないので、いい感じの時間に先に起きた方がもう一方を起こしに行くことになっている。
そしてお姉は意外と寝ることが好きなのでこういう時にわたしより先に起きることはほとんどないのできっとまだ寝ているだろう。
ということでお姉を起こしに行くべく、ベッドから立ち上がり移動を開始する。
でもその前に。部屋を見回す。
「クロエーちょっと行こうか」
お姉の部屋から来るときに一緒に連れてきて、いつの間にか私のベッドの上で一緒に寝ていたらしいクロエを一応連れていこうと抱きかかえるとゴロゴロとのどを鳴らした。
部屋を出ると夜なので当然のように廊下は真っ暗だけど、廊下の電気をつけるのがめんどくさいので窓から差し込んでいる少しの月明かりと記憶の中の家の構造を頼りに向かい側の斜め前にあるお姉の部屋のドアを手探りで開ける。
お姉は案の定まだ眠っているみたいで部屋の中は暗くしん、としていた。再び常夜灯の明かりを頼りにゆっくりと部屋を進んでいってベッドのそばまで行く。
わたしと同じく寝る時は枕元に置いてある照明のリモコンを手に取りボタンを押して部屋を明るくすると、さっきまでよく見えなかった仰向けに寝ているお姉のかわいい寝顔がはっきりと確認できる。
「お姉ー夜だよー」
言ってから普段は言うことのない自分でもよく分からないなと思う変な声を掛けて起こそうとする。
それでもお姉は微動だにせず、すぅすぅと寝息を立て続ける。
「おーい、お姉ー。お、ね、えー」
声を掛けてみてもなかなか起きないのでほっぺをツンツンとしてみる。
「んぅ......」
「うーん。よし、いくよクロエ」
「みゃ~」
お姉が全然起きないので最終手段に出るべく、腕の中に抱えているクロエに了承を得る。何のことか分かってないだろうけど。
そしてクロエをお姉の顔の前までもっていき、そのモフモフのかたまりをポンと顔に乗せる。
「すぅ......んむ”っ!?」
すぐにクロエをお姉の顔から離すと、お姉は顔をぶんぶんと振ったりしながら勢いよく起き上がった。
「ぷぁっ!?」
聞いたことのない鳴き声を発しながら何が起きたか分かっていない慌てた様子のお姉は顔をぺたぺたしたり鼻を手で押さえながらわたしを見つける。
「おはよ、お姉!」
「え、環樺!? なになに今の何!」
「いやぁお姉が全然起きないから」
と言い訳しながら顔の横にクロエを掲げてみる。
「そういうこと......はぁビックリした。毛吸い込んじゃったりしてないよね......」
「こんな日だからいつもとは違う起こし方してみようかなって。えへへ」
「心臓に悪いんだけど。もうバックバク」
お姉は胸のあたりを手で押さえ、肩を上下させて深呼吸しながらこちらを睨む。
「ごめんごめん。でも目はバッチリ覚めたでしょ?」
「そういう問題じゃないでしょ。はぁ......」
ため息をつきながら身体の上から布団をどけてベッドから降りて立ち上がった。
でもお姉は寝起きが良くなくて、頭が起きてくるまで結構時間が掛かるし、そこをカットできたのは大きいんじゃないかなーって思うけどこれ以上は何も言わない方が良さそうなので口は閉じておく。
まぁ、今日は時間もあるしぽわぽわしてるお姉を見るのもよかったけど、思いついてしまったら好奇心には勝てなかったわたしも悪い。
「とりあえずリビング行こっか」
「はーい」
お姉はそう言うと一つ伸びをしてからその辺で遊んでいたクロノを抱え上げて、ぞろぞろと皆で一緒に下の階へと下りる。
一旦皆でリビングに入り、お姉はクロノを下すと「顔洗ってくるね」と言って顔をクシクシとしながらリビングを出て洗面所へ向かった。やっぱりまだなんとなく毛の違和感がぬぐえないんだろうか。
お姉が戻ってきてから一緒にご飯を作って食べ、クロクロにもご飯をあげて、今日はその後まったりせずにわたしの部屋に皆で戻った。
「さぁて! お姉なにからしよっか」
お姉の部屋とわたしの部屋には明確なコンセプトの違いがあって、お姉の部屋は本や漫画などのアナログな物が多く、わたしの部屋はゲーム類や映画を見る為のモニターなどのデジタルなものが多く置いてあり、その日の目的によってどちらの部屋に行くかが別れる。
ほとんどは一緒にゆっくりするためにお姉の部屋に居ることが多いけど。
「映画見ちゃうとのんびりして眠くなっちゃうかもしれないから先にゲームしようよ」
「え、映画はホラー見ようと思ってたから逆に寝れなくなると思うけど」
「絶対見ないから!!」
夜更かしに誘った時とは全く違う、珍しいくらいの迫真の様子で拒否された。
お姉はわたしよりも怖いのが苦手なのでホラー系の物は全然一緒してくれない。
「ええ~。せっかくの夜更かしだからホラー見るの楽しみにしてたのに~」
「もしかしてその為に遅い時間にしたの!? 何もないのにホラーとか絶対見ないから!」
想像するだけで怯えているのか、いつの間にか持っていたわたしのお気に入りのクマのキャラクターのぬいぐるみを抱きしめて防御の構えをみせるお姉。
「ちぇー。じゃあいつかの勝負でお姉を負かしたときの楽しみに取っておこーっと」
「ぐっ......! 絶対負けない......!」
ニヤニヤと笑いながらお姉を見ると、悔しそうにこちらを睨見返している。
わたし達の勝負で勝ち取った権利だったらほぼ強制なので逃げることは出来ない。いつかやってくる勝負の時にわたしは勝つ理由が出来たし、お姉には負けられない理由が出来てしまったというわけだ。
「くふふっ、まぁまぁそんなに構えないでよ! 今日のところは楽しくいきましょ!」
「本当だよ。最初から身構えさせないでよね」
ということで、今日はあくまでも楽しく過ごすことにしてお姉の警戒も解かせたところでゲーム機を起動する。
「えっと、何か面白そうなゲームあるかなぁ」
今持っているゲームを一通り見てからオンラインショップを開いたりして一緒に楽しめそうなゲームを探していく。
人気順に見ていくと上位の方に二人で遊べてかなり安めのわたしも知っているゲームを見つけてそれを開いてみる。
「ねえねえ、これなんてどうかな? いつかお姉とやってみたかったんだよね!」
「うん、いいんじゃない? 面白そうだしこれにしよっか」
お姉の賛成も得て、前に入金して余っていた金額でそのゲームを購入してダウンロードし始める。
少し時間が出来てしまったので、ダウンロードしてる間にお菓子やジュースの用意をしたり、机やクッションをいい感じにくつろげるようにセットしたり長い時間動かず遊ぶための態勢を整えたりする。
「環樺、お菓子これから開けてもいい?」
「いいよー、お姉が食べたいのなんでもどうぞ」
「ふふ、ありがと。それじゃあ、これ。とこれも開けちゃおっと」
お姉は楽しそうにお菓子をいくつか選んで開けてテーブルの上に広げる。
「はい環樺、かんぱ~い」
「ちょ、ちょっと待って! はい乾杯!」
いつの間にかわたしの分の飲み物も用意していたお姉がグラスをこちらに向けていたので、慌ててわたしもグラスを持ってお姉のグラスと合わせるとカンッっと気持ちのいい音を鳴らす。
「いただきまーす」
お姉が少し飲んだグラスをテーブルに置いてお菓子も一つまみする。
わたしも準備が終わって少しするとピロン、とダウンロードの完了を知らせる効果音が鳴った。




