第20話
「環樺、そろそろいい時間じゃない?」
「ホントだ、もうそんなに時間経ったんだ」
昔からお姉と一緒にいると時間なんて一瞬で過ぎ去っていく。
最近はそれに加えて自由気ままなとっても可愛い家族が二人もやってきたことでわたしには家の中での退屈な時間なんて存在しなくなってしまった。
今もお姉と一緒にソファに座ってお話したりテレビを見ていたら膝の上に乗っかってくつろいでいたクロエをひと撫でして、ごめんねーと謝ってから抱きかかえて隣にあるクッションの上に乗っけてあげる。すると一度顔をあげてみゃあと鳴いてからそのままもう一度くつろぎ始めてくれた。
「じゃ行く準備しよっか。そういえばお母さんからついでにお使い頼まれてて、お菓子とかも共有のお財布からお金出してもいいって」
「本当? やったぁ」
嬉しそうに喜んだお姉と一緒にリビングから出て部屋の前に行き、それぞれの部屋に入ろうとしたところで「あ、環樺」とお姉に呼び止められ後ろを振り向く。
「ん? どしたのお姉」
「買い物しに行くだけだし、たまには休みの日にも一緒に制服着て行こうよ」
「え! いいね、賛成!」
お姉にそんな珍しい提案をされる。
たまに学校帰りに制服を着てご飯の買い物に行ったりはするけど、休日にわざわざ制服を着ていくっていうのもわくわくする。
それにきっとこの気持ちが味わえるのはこの制服を着始めてそんなに期間が経っていない今だけだろうし。
せっかくの可愛い制服なので休日にもお姉の制服姿を見れるのなんてとても嬉しい事で、洗濯物も減らせるし良いことずくめだ。
ウキウキで制服に着替えてから髪を整える。最後に髪飾りを付けてから部屋を出て、下に下りるとお姉が先に玄関で待っていた。
手には先にリビングからいつものお財布の入ったエコバッグを持ってきてくれていた。
「お待たせお姉ー。て、あれ? 今日ストッキング履いてないんだ」
いつもお姉は黒いストッキングを履いているのに今日は履いていなかった。つまり今日は初めて全部がお揃いになっているということになる。
「うん。買い物に行くだけだし、わざわざ履かなくてもいいかなって思って」
「へ~......」
お姉は中学の頃から制服を着る時はストッキングも履いているのが常で、中学の頃はこうして出掛ける時に制服を着ることもなかったので、見慣れない珍しい姿につい好奇心からいつもの制服から伸びるお姉の素脚をまじまじと観察してしまう。
ストッキングを履いているお姉も清楚っぽくてとても良いけど、これはこれで別の良さがあるなぁ......
しばらく見ているとお姉が脚を少しもじっとさせて手で軽く隠すそぶりを見せる。
「環樺、見すぎ......」
「うえっ!? ご、ごめん......」
ついつい魅入ってしまっていたことを指摘されてドキッとしてすぐに謝る。
するとーー
「環樺のえっち」
「!?!?」
いきなりのお姉の言葉に頭が理解をする前に身体がガチリと硬直する。
「ほら、行くよ」
さらにドキッとさせられて頭が真っ白になってしまった。
遅れて言葉を把握すると、突然あたりの温度が急激に高まったかのように身体の奥からぶわぁっと熱が沸き上がり、心臓が早鐘を打ち始めて、とにかくなんか変な感覚。
お姉の言葉がわたしの頭の中を反芻して反響する。
そしてそんな動けなくなったわたしを放って、お姉は普通に靴を履いて玄関を出ていってしまった。
「......はっ!?」
それから数秒してやっと意識が戻って動き出せたわたしは、急いで靴を履いて走ってお姉を追いかけるのであった。
「ちょっとー! 待ってよーお姉ー!」
「まったくもう」
しばらく走って追いつくとやれやれといった感じで見られる。
「いやぁ珍しくてつい」
「私の脚が? 家でいつも見てるでしょ。私服でスカート履くときもたまにストッキングないでしょ」
「制服は話が別! やっぱり人間はいつもとは違う貴重なものに目を惹かれちゃうんだな~」
「......まぁ、分からないでもないけど」
お姉も明後日の方向を見て何かを想像したのか、少しの間があってから肯定の言葉が発せられた。
......理解が得られたということで、バレないくらいにたまにお姉の脚をチラチラ見ちゃったりして。
そしてなんやかんやありながらもいつも行っているスーパーに到着する。
今日は買うものが大して多くはないので、いつもじっくり見るような野菜のコーナーなどはスルーして、入店してカゴを持ったら真っ直ぐ今日のメインのお菓子のコーナーへと向かった。
「さぁさぁお姉、今日はパーティーだと思って! どうするどうする?」
「そうだね。好きなのいっぱい買っちゃおっか」
お姉と一緒に買い過ぎないくらいにどれにしようかアレにしようか今日はこっちの気分かもなどと相談しながら、駄菓子やらチョコやらポテトチップスやらを買い物カゴにどんどんと入れていった。
「うん、このくらいでいいんじゃない?」
「そだね! じゃあ次はお母さんから頼まれてる物!」
お菓子を見終わってからお母さんに頼まれているボックスティッシュや洗剤などの切れていたり切れかかっていたりしていた日用品を調達していく。
「あとはーなんもないかなぁ」
他に必要なものがなかったか少しフラフラして、パンのコーナーに辿り着いて立ち止まる。
「そういえばお姉、この後帰ってから何食べる?」
「あー。どうしよっか。冷蔵庫に入ってるもので何か作ろうと思ってたけど、何か買っていく?」
「じゃあ何か作るのはせっかくだから夜起きてからにしてさ、この後はパン買って食べようよ!」
「そうしよっか」
パンを食べたくなったので提案してみるとすぐに同意を得られる。
この後食べるものをパンに決めて、選び始めようとしたところでお姉が止まる。
「どうせなら久しぶりに瀬野さんのお店に行かない?」
瀬野さんというのはお父さんが小中高と同級生だった幼馴染の人で、今はウチの両親と同じように夫婦でパン屋を営んでおり、家もご近所さんなので家族ぐるみで昔から交流があった。
お店のパンは知り合いだという贔屓目なしにしても絶品で、わたしもお姉も昔から大好きだった。
「ナイスアイディア! そうしよう!」
お姉の意見に賛成して、その場を離れて他のコーナーを少し見て回った後、セルフレジで会計を済ませてスーパーを出る。
この後の目的のパン屋さんはここから少し距離があるので一度家に帰って荷物を置いてから向かおうかとも思ったが、スーパーで買ったものはお菓子やティッシュなどのかさばりはするがそれほど重くはないものばかりなのでここから直接向かおうということにした。
「いらっしゃいませー」
お店に入ると見慣れた女性の方が売り場で作業しているのが目に入る。
「こんにちは」
「おばさん、こんにちはー!」
挨拶をするとこちらを振り向き、おばさんはすぐにわたし達に気づいて笑顔になる。
「あらー! 円樺ちゃんと環樺ちゃん! いらっしゃい。それ高校の制服よね? 良く似合ってるわぁ!」
「久しぶりにここのパンが食べたくなって。制服を着てたのはたまたまなんですけど」
「でも瀬野さん達にはお披露目しておきたかったしちょうどよかったねお姉!」
今は他にお客さんも見えなかったので、お店の隅の方に買い物の荷物を置かせてもらってわたし達の制服姿を見てもらう。
「子供の成長はホントに早いわぁ」
「半年くらい前に会ったばっかりですけどね」
「でもその半年で中学生から高校生になっちゃうんだものー。あ! ちょっと待っててね。あなたー! 円樺ちゃんと環樺ちゃんが来てるわよー!」
おばさんは思い出したように一度裏の工房の方に入っていき、しばらくしてからおじさんと一緒に出てくる。
「おー! 藤咲んとこの双子ちゃん! 久しぶりだなぁ!」
「すみませんお仕事中なのに」
「でも来た目的はパンを買いにだから」
「ははっ! 大丈夫大丈夫、ここは俺からのお祝いだ! 母さん、適当に見繕っといて!」
「はいよー」
おじさんがそう言うとおばさんはお店の裏に入っていってしまった。
「そんな、悪いですよ」
「いいのいいの、気にすんな!」
「そうよー、二人は半分ウチの子みたいなもんなんだから!」
裏に行ったおばさんはすぐに大きめの箱と袋を持って出てくると、そう言いながらお店のパンをその箱や袋に詰め始めてくれる。
「おじさん、おばさんありがとー!」
「ほんとにありがとうございます」
わたし達にも好きなパンを選ばせてくれたりして、お父さんとお母さんの分も合わせて結構沢山のパンを詰め込んでもらって、まとめてレジ袋に入れて受け渡してくれる。
「二人とも、高校入学おめでとう! いやぁ美希にも見せてやりたいなぁ」
「ありがとうございます。美希ちゃんは元気ですか?」
美希ちゃんは瀬野さんのところの娘でわたし達の四つ年上のお姉ちゃんって感じの人だった。
四つ上なので一緒に通ったのは小学校だけだったけど、昔から一緒に遊んでくれたり、学校以外でもわたし達のことを気にかけてくれた優しいお姉ちゃんだった。
高校を卒業してから県外の大学に行っちゃったのでしばらく会えてないけど。
「きっと元気にやってるさ。帰ってきたら制服姿見せてやってよ」
「はい」
「わたしも美希ちゃんに会いたいし!」
「それじゃ、お父さんとお母さんにもよろしくね~」
そうして最後にもう一度ちゃんとお礼をしてからお店を出る。
「こんなつもりじゃなかったけど、あんなに喜んでもらえてこっちまで嬉しかったね」
「うん! お父さんとお母さんにも報告しなきゃ!」
そこから予想以上に多くなった荷物を二人で両手に抱えながら家に帰って、両親に連絡を入れた後にお祝いにといただいたパンを噛みしめながら美味しく食べさせてもらった。




