第28話
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「四人でお願いします!」
「四名様ですね。席へご案内いたします」
スイーツが美味しくて人気のカフェにやってきて席に案内される。
移動しながら軽く周りを見回すと、席数がそんなに多いわけではないのでギリギリ入ることが出来たみたいだった。
もう少し遅く来ていたらきっと席は埋まってしまっていたかもしれない。
案内してもらった席に着いて案内していただいた店員さんに「注文がお決まりになりましたらお呼びください」と言われ、お礼を言うと店員さんは戻っていった。
「席どうするー?」
「ん?」
明奈がわたしとお姉を見ながら尋ねてくる。
「全然どこでも大丈夫だよ」
とお姉が答えると「そっか、じゃあ真尋こっちね!」と言って奥側にするっと座って隣をポンポンと叩くと真尋ちゃんがそこに座る。
そしてその対面にわたしとお姉が並んで座った。
「明奈と真尋ちゃん先に選んじゃっていいよ」
「ありがとぉ」
テーブルの上に置かれていたメニュー表をわたしの向かいに座っている真尋ちゃんに手渡すと明奈が身体を寄せて横から覗き込む。
「さてさて、何にしようかなー」
「あたしフワフワのパンケーキがいいなぁ!」
メニューを見始めて真尋ちゃんが真っ先に決める。
まさにふわふわな真尋ちゃんが好きそうで食べてる姿が想像できるなと思って笑ってしまう。
「パンケーキ美味しそうだよねー。うわーどうしようかなー」
真尋ちゃんとは対照に明奈は何にするか決めあぐねて目線を動かし続けていた。
「明奈ちゃん、わたしのパンケーキとシェアしようよ」
「え、いいの!? うーんじゃあ......これにしよ! お待たせー」
「ありがと」
真尋ちゃんからの申し出もあって何とか決断できたらしい明奈がわたし達にメニュー表を渡してくる。
お姉がそれを受け取って反転させると、わたしにも見やすいように少しこっちに寄せてくれる。
「どれどれ~」
わたしもお姉に少し身体を近づけてメニューを覗き込む。
ここに来るまでにもどんなものが食べたいか考えてきてはいたけど、実際にメニューを見ると色んな物が美味しそうに見えてやっぱり悩んでしまう。
「うぅん......お姉は決まりそう?」
「えっと、ちょっと待ってね。これも良いし、これも良いなぁ......」
お姉もイメージ写真つきのメニューのチョコレートパフェやモンブランを指さして悩んでいる。
「じゃあわたしは~......」
しばらく悩み抜いた末に、今一番食べたいものを決めて、それを指さす。
「「これにしよっかな」」
わたしが指さしたのは横に書かれている商品説明も相まって一番輝いて見えた、ベイクドチーズタルト。
そして同時にお姉も同じものを指さしていた。
「「おお~~~~」」
そのわたし達を見て、正面の二人がいつかのように一緒にぱちぱちと拍手をしながら何かに感動していた。
「やってくれないかなーとは思ってたけど、ホントにやってくれるとは......」
「やっぱり仲良しさんだぁ」
「えっと。じゃあ私このベリーベリータルトも気になってたからこっちにして、環樺の一口もらおうかな」
お姉が指を少しスライドさせて、近くにあったわたしも二番目に食べたいと思って悩んでいたやつを指さした。
「おっけー、ありがとお姉」
好みが同じであるが故に同じものを選んでしまうのはよくあることではあるので、いつも通り一口ずつ交換っこすることにする。
そしてようやく全員分の注文を決め終えたので、店員さんを呼んで各々注文を済ませた。
注文してから待つこと数分、注文したスイーツ達が続々と運ばれてきてテーブルの上が彩られる。
「それでは皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただき......」
お店の中ということもあり、抑え目な声で明奈が打ち上げのような音頭を取り始める。
「はいはい、そんな大げさなものじゃないから」
「えぇ~」
「いただきま~す!」
「真尋まで!?」
真尋ちゃんが隣の明奈のことなんて気にも留めずにパンケーキにナイフを入れ始めたので、わたしとお姉もそれに続いていただきますをする。
「はいお姉、どうぞ」
「ありがと。環樺も、はい」
自分のを食べ始める前に、お姉にベイクドチーズタルトが乗ったお皿を手渡し、お姉からベリーベリータルトが乗ったお皿を受け取る。
「ありがと。うわーこっちも美味しそー!」
そのタルトにフォークを入れて一口分切り取り、距離があっても香ってくる匂いをじっくりと堪能してからゆっくり口に運ぶ。
「......ん~~! 甘酸っぱくておいひぃ~」
「......ん~~、こっちも濃厚でおいしい」
よく味わった後、「お姉これ美味しいから早く食べてみて!」「これも凄く美味しいよ」と改めて絶賛し合いながらお皿を交換しなおして、今度はチーズタルトにフォークを入れる。
「おいし~、しあわせ~......」
「ふふっ、もう環樺ってば、だらしない顔になってるよ」
そういうお姉も美味しい二つのタルトを味わって幸せそうにしていた。
チーズタルトも一口味わって落ち着いたところで、もぐもぐと口を動かしながらこっちを見ていた明奈と目が合う。
「ん? 明奈、どうかした?」
明奈はごくんと飲み込んでから、わたしとお姉を交互に一瞥してから口を開いた。
「ん~。二人ってこういう時あ~んしたりしないんだね」
「え!? し、しないしない! ね、お姉......?」
「え? う、うん......」
「意外~。そんなに仲良いから隙あらばそういうことするのかと」
いきなり突拍子もないことを言われてびっくりして慌てて否定してしまったけど。
お姉とあ~んし合うなんて、そんな、そんな......
お姉とか、間接キス......とか、しちゃうのも、なんか恥ずかしいし......
いきなりでびっくりしてしまったからか少し顔に熱を帯びていくのを感じて、タルトを食べるのを言い訳のように周りから顔が見えないようにうつむいて、タルトをフォークで切り取って口に運ぶ。
チラッと横目でお姉のことも確認してみると、お姉も少しうつむきがちになりつつ髪をかき上げて耳に掛けた。
その瞬間に少し耳が赤くなっているのが見えてしまい、なぜかわたしの顔の熱がさらに増したのが分かって、つい慌てて反対方向に顔を逸らす。
「皆、写真も撮らずにすぐ食べ始めちゃうし、もしかしてSNSとかやってないの?」
明奈はこっちの状況を知ってか知らずか、なにも気にしてない様子でわたしの都合よく別の話題を切り出してくれる。
そういえば真尋ちゃんに続いてわたし達も食べ始めた頃、明奈だけは食べ始めずにスマホを構えてフラッシュを焚いていたような気がする。
「わたしもお姉もSNSとかは何もやってないなぁ」
「そっかー」
顔は相変わらずうつむいたまま平静を装って明奈の質問に答える。
見る専用でアカウントを持っていたりはするけど、特に他の人に見てもらいたいとかの欲求もないし、SNS上に自分のことを発信する意味もないかなと思う。
連絡を取るのも普通のメッセージアプリでいいかなと思うし。
「それと真尋! 黙々と食べ進めてるけど、シェアするんでしょ! 一旦ストップ!」
「あ、ごめんねぇ! おいしくてつい、えへへ」
「アタシも食べたい! 真尋はほら、アタシの」
明奈が肩を叩くとひたすら美味しそうに食べていた真尋ちゃんがようやく手を止め、正面の二人が注文する前に言っていたようにお互いのスイーツをシェアし始める。
「はい明奈ちゃん、あ~ん」
「ん。ん~! おいしい!」
多分食べるのに夢中でさっきのやり取りを聞いていなかったであろう真尋ちゃんは当然のようにあ~んをして明奈に食べさせ、明奈もお返しに自分のを真尋ちゃんにあ〜んして食べさせる。
「おいひい~~! ありがと明奈ちゃん」
「どういたしまして。てか、勉強会ではあんまり雑談もできなかったからやっといろんな話出来るって思ってたの!」
明奈と真尋ちゃんが食べさせ合っている間に、落ち着いて顔の熱も引いたので顔を上げる。
「そうだね、ちゃんと勉強会らしく真面目にやってたからね。でも何かしたい話とかあったの?」
「うん! 環樺とお姉さんに聞きたいことあったんだよ!」
「私達に?」
なんだろうとお姉と二人で首を傾げる。
「そう、こんなに仲良くて一緒に居るのが好きそうなのに、学校では全然一緒に居ないのとか」
「あたしもそれは思ったなぁ。あたし達が知る前も知ってからも学校で会ってるの見ないよねぇ」
一旦夢中で食べるフェーズを終えたらしい真尋ちゃんも会話に参加し始める。
「あー、それはね」
「私が入学式の日に提案したの。まずはお互いのクラスでの関係を優先しようねって」
お姉がどうしてわたし達がそうしたのかを簡単に二人に説明する。
「なるほど~そうだったんだぁ」
「へ~。でも確かに、環樺がお姉さんに会うためにいつも教室抜け出してたりしてたら、アタシ達の関係も違うものになってたかもしれないしね」
「わたし達の決断が実を結んでてよかったよかった! ありがとね、お姉」
あの時、お姉が悩みながらもあの提案をしてくれたことを改めて感謝する。
「ポコン」
その時、ふいにその空間にスマホの通知音が鳴る。
音のした方向を見ると、テーブルの上に置かれていたお姉のスマホの画面が点灯しているのが見えた。
「お? お姉さん、今の! スマホの画面見せてくれない?」
「え、あ」
そのお姉のスマホをつい見てしまったらしい明奈が興味津々でお姉に画面を見せて欲しいとせがむ。
お姉はスマホの通知をスワイプしてどかし、明奈が見たいであろうものを見やすいようにしてからおずおずと明奈の方に差し出す。
そして明奈が興味を示した対象はもちろん——
「おお〜。入学式のツーショットを壁紙にしてるんだ」
「恥ずかしいものじゃないけど、そんな風に興味を持たれると、なんか照れちゃうな......」
わたしもお姉の気持ちが分かって何とも言えない気持ちになる。
通常、他の人に見せるのを想定してはいないものだし。
「環樺は?」
「え!?」
「環樺のスマホは? やっぱりお揃いなの?」
「う......そ、そうだけど」
明奈が手を伸ばしてくる。どうせ逃げられないし仕方なくスマホの画面を付けて渡すことにする。
「ほら、真尋、見てこれ。こんなところまでお揃いだって」
「おお~。やっぱり仲良しさんだねぇ」
画面を二つ並べて真尋ちゃんにも見せられると、それを見てニコッと笑った。
「もういいでしょ。ほら」
「あはは、ごめんごめん。ホントに馬鹿にしてるとかじゃないからね」
「うんうん。二人とも仲良くしてくれてありがとねぇ。これからもよろしくね」
「ううん、こっちこそ。これからも仲良くしてくれたら嬉しいな。明奈も環樺のことこれからもよろしくね」
「もうお姉! そんな保護者みたいに!」
「「あははは!」」
それからスイーツを楽しんで、食べ終わって店を出てからもしばらく駅周辺をフラフラと歩いたりしながら雑談に花を咲かせた。
なんやかんやでわたしもお姉もお互いに良い友達を持ったなと改めて感じられたテスト期間だったな。




