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レストランを出た後、影継に男性専用カフェへと連れてこられた。正直男性専用カフェには抵抗があったが、話している内にテンションが上がり女性に聞かせられる内容では無くなってしまったので結果オーライ。
話を聴いてくれていた影継だったが、途中から死んだ魚のような目をしていたのは気の所為にしておこう。
まだまだ話足りない俺だったが「また機会があれば聴かせてくれ」と影継が言うので俺達はカフェを出て今は駅周辺を歩いている。
しかし男友達とはいいものだ。こんな話をしたのは一体いつ振りだろうか。こいつとなら今迄踏み出せなかった一歩を……
「何か俺の顔についてるか?」
無意識に影継に視線を向けていたのか俺はその問いに「別に何でもない」とだけ答えて前を向く。
「結局俺達は何処へ向かってるんだ?」
別に話を逸らすつもりはなかったが単純に気になったので隣を歩く友人へと尋ねることに。
「着いたらわかるさ。時間も……まあいい頃合いになるだろう」
それだけ言うと付いて来いと言わんばかりに少し歩く速度を上げた。俺はそれについて行くと街から少しずつ離れて行き、日が沈もうとする頃には人通りの少ない川沿いの土手を歩いていた。
もうこの辺りまでくると女性とすれ違うことも少なくなる。俺は多少の不安もあり
「この辺に何かあるのか?出来れば日が沈む前には帰りたいんだが」
別に影継に何かされるとかは考えていなく、純粋に気になった質問をしただけだったのだが
「ん? まさか太郎、お前ここに来てもまだわからないと?」
「いや、わからんが」
そんなこと言われても俺はここに来たのは初めてだし、聞いたこともない川だし本当さっぱりだ。
「な、ならこれならどうだ」
焦った影継は土手から川沿いに降りると近くの大きな橋の下に俺を連れていく。沈みゆく夕日の明かりもここには届かないのか暗い。不安気な俺を余所に”どうだ”と言わんばかりにキラキラした目を向けてくる。
「いや、すまんがマジでわからん。こんな場所に連れて来られた当初はカツアゲでもされるのかと思ったが……」
「ちかい」
ちかいのかよカツアゲが。まあこの様子を見る限り俺に対して敵意みたいなものが無いのは明白だ。影継は恐らくこの時間、この場所で俺と何かをしたかったと考えるのが妥当か。
沈む夕日、人通りの無い橋の下、無駄に異世界の知識がある男とその世界の住人だった男……いやまさかな。
俺は一瞬過ぎった考えに頭を振る。だって理由が無いのだ。まあこんなアホらしい事を思い就く俺も大概か。
「まさか”決闘”なんて言わないよな?」
「その通りだ太郎。決闘だ!」
まじか。いやいやそんなバカな。いや馬鹿なんだろうコイツは。何を思えば決闘なんて言葉がでてくるの? ちょっと待って、格好良く上着を”バサァ”と投げるのやめてよ……まさかコイツこれがしたいが為に今日着てきたの?
言いたい事は沢山あるけど取り敢えず聞きたいのは
「理由は?」
まさにこの一言に尽きるだろう。
そんな俺の言葉が意外だったのか鳩豆状態の影継を連れ、その辺の石に並んで座り経緯を聞くことに。
要約するとこうだ。
”男の友情を深めるなら決闘が一番”だそうだ。薄々と言うか確信に近いものがあったがやはり”鈴木源次郎”なる人物が書いた”異世界男子の対処法~昨日の敵は今日の強敵~”のタイトルが出てきた。
困惑する影継に俺は決闘の流れを説明をすると本気で落ち込んだ。
「まさか同じ女を好きになった友人同士がする行事だったとは。しかも友人と付き合った女がそいつのせいで泣いているのを見てしまったが故の行動だと」
別に行事って訳じゃないからな。それに理由は人によって違うと思うし、そんなのドラマやアニメの中だけの話だ。それも説明しようとしたのだが
「なんて……なんて素晴らしい友情なんだ。男だ。まさにソイツが男の中の男だ。自分の好いた女の幸せを願うが為、自分の幸せを放り投げるその素晴らしさと言ったらもう凄いとしか言えん! 女が傷ついている内に自分を売り込むことも出来ただろうに、”俺ならアイツみたいにお前を傷つけない”とかなんとか丸め込めれた筈だ」
どうやら影継君はコテコテの熱血物語がお好きらしい。
「もし俺が四十九院さんと付き合ってたとしたらお前はどうする?」
考えなしに冗談を言った瞬間
「お前に沙羅は渡さん!」
俺の胸倉を乱暴に掴み、聞いた事の無い声色で俺を睨みつける影継。仮面が無かったら目を反らしていたこと間違いない。慌てて冗談だと説明すると影継も落ち着いたのか手を離してくれた。
「俺は男の中の男には成れそうには無いな。お前の冗談にすらこうも自分を見失うとは」
「俺はお前の方がカッコイイと思うけどな」
ふと出た言葉に影継が驚いた顔をしているが、俺からすると自己犠牲で相手の幸せを願う傍観者より、影継みたいに自分で相手を幸せにしようとする人間の方が好きだ。
「だからお前は漢だよ。俺よりもずっと」
自然と拳を握った右手を隣の影継へと伸ばす。
それに気付いた影継も左手でコツンと拳を合わせてきた。前の世界でもした事ないけどなんかいいな。
暗くなってきたしお互いの警護の人も心配しているだろう。なのでそろそろ帰ろうか腰を上げた時
「太郎は鈴木と佐藤のどっちが好きなんだ? まあ細田先生は鉄板だと思っているが」
「…………いないよ。好きな人」
「そうか……」
まだ知り合ってからの時間は短いが、俺の声に含むものを感じたのかそれ以上この話題に触れてはこない。マジで良い奴だよコイツは。
「へー、そっちの仮面さんは好きなヤツいないのかそりゃ残念。そいつの目の前でメチャクチャにしてやろうと思ってたのによ」
いつの間にか俺達の前に本能で勝てないと思える女性が立っていた。例えるなら……冗談言ってる場合じゃねえ。
後ろを振り返ると数人の女性が行く手を阻んでいる。挟まれた。
この状況に頭が回らないでいると、暗くて顔が見えなかった女性の中から一人が俺達の方へと歩いてきた。そいつの顔が見えるくらい近づいて来た時、隣で同じく固まっていた影継の驚いた気配がする。
「お久しぶりです影継様。そして異世界人と言うだけしか取り柄の無いクソ野郎さん」
なんだか前にも同じ事を何処かで言われた気がするが、影継の一言で思い出した。
「不知火唯……」
名前を呼ばれたのが嬉しいのか夕闇の中、不気味に笑っているそいつはいつかの昼休みに影継のグループから追い出された女子生徒だ。
作者の小話
「私のこと嫌いなの?」
一時間に一本しかない電車を待っていると不意に横からそんな声が聴こえてきた。
「ええ、嫌いですよ」
多分無意識で返事したと思う。
しかし漸く隣人から開放された瞬間だった!
それから少しして隣人が引っ越すとの噂が流れてきたのを内心ブレイクダンスをしながら「へーそうなんですね」くらいで聞き流していた。
そして運命の日! 珍しく週末の休みを満喫しようとドアを開けると一気にテンションが下がった。廊下には段ボール箱が積まれていてその横には隣人の姿が。何か言われる前に立ち去ろうとするも構造上前を通るしかない。目を合わせずに通り過ぎようと瞬間
「嬉しい? 私が出ていって嬉しい?」
「嬉しいですね」
またもや反射で出てきた言葉にビックリする隣人。「あんたのその素直なとこは嫌いじゃなかった」
それを最後に隣人は隣人では無くなった……べ、別に寂しいわけじゃないんだからね!
隣人からご近所になっただけだし。
解せぬ。




