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 教室でのひと悶着も後日直接鈴木さんに謝ることで何とか収まった。謝った直後の彼女の慌てようはそれはもう激しいものだったが、何故か隣にいた佐藤さんがドヤ顔だったのは納得がいかない。


「それじゃ約束通りご飯奢ってもらうわよ。勿論哀ちゃんも一緒にね」


 さてどんな高級店に連れていってくれるのかしらと、まるで俺を試すかの様な目で見てくる。隣では「えっ、田中君の奢り?」と状況が上手く理解出来てない鈴木さんがオロオロしている。


「昨日鈴木さんには迷惑かけたからねそのお詫び。佐藤さんはそのついで」


 俺の説明で一人は納得してくれたが、もう一人は納得していないのか


「ちょっと、誰がついでよ。私のフォローがあったからこその仲直りでしょ」


「別に俺は鈴木さんと喧嘩をしたつもりはないし、更に言うなら奢るという約束もしていないのだが」


 その後も何かと口を挟んでくるので二人に今日の晩御飯を奢ることで話はついた。そうと決まるとコロッと態度を変えて「楽しみにしてるわ」と鈴木さんを連れて教室へと帰って行ってしまった。


「さて決まったものは仕方がないが、こっちのお店なんて全然知らんぞ」


 困った事に殆ど外食をしない俺には何処に美味しいお店があるかなんてさっぱりだ。細田さんの手作り料理でとても満足している現状わざわざ外食する理由が無いからな。



「という訳なんですがどこかいい店知りませんか?」


 知らなければ知ってるから人に聞けばいいのだ。俺は学校で初めて細田さんと一緒にお昼を食べながら、先程の経緯を説明する。因みに細田さんのお昼は自分で作ったお弁当だった。特に毎日というわけではないが、夜のおかずが余った時はよく作っている。


「今度手間じゃなきゃ僕のお弁当もお願いしてもいいですか。見てたら食べたくなっちゃって」


 偶にでいいので。と付け足すとまずは驚いた顔の細田さん。次に何か思案しているのか顎に手を当てながら真剣な表情だ。暫くすると表情はそこまで変化しないが、口元がムニムニと動いてて可愛いい。


「こほんっ。仕方が無いですね。太郎さんがどうしてもと言うなら作りましょう」


「ええ、手の込んだものじゃなくて今日のお弁当みたいなので」


 そう言って俺は彼女のお弁当からヒョイと唐揚げを口に入れた。うん、冷めてても美味しいと感想を言うと「お行儀悪いですよ」と最後の一つも勧めてくる。

 これは俗に言う「あーん」というやつだろう。よく見ると恥ずかしさからなのか掴んだ箸がプルプルと震えている。折角の唐揚げが落ちるのも勿体ないので俺は勧められるがままそれを食べる。やはり美味しいな。昨日は唐揚げカレーだったので、今日の一晩寝かせたカレーはさぞ美味だろうな。


「お粗末様です」


 心の声が漏れていたのか細田さんは満足げだ。笑顔が可愛いなこんちくしょう。

 そして今晩のお店は細田さんの知っているお店から俺が選んで終わり。そのまま少し話をして午後の授業を受ける事に。


 眠い。外の天気とお昼ごはんの相乗効果は抜群だ。今日の最後の授業だけど、田中先生ごめんなさい。これは……抗えない。


「ちょっといつまで寝てんのよ。授業終わったわよ」


 この声は前の席の佐藤さんか。ムクリと起き上がり軽く体をほぐす為に両手を伸ばしながら教室をふと見渡すと


「折角男子が寝てるのを凝視出来る時間だったのに」「許すまじ佐藤さん」「しかし逆に考えるんだ。私達も今起きた風を装えば」「「「……添い寝か!!!」」」


 一斉にクラスの女子達が「今起きました」みたいにそれぞれが動き出す。こういった理解不能な行動は初めてではないが未だに馴れないな。


「あっ、これはちがくて」


 鈴木さんは少し恥ずかしかったのか俺と視線が合うと両手を直ぐ降ろすと顔を真っ赤にしながら前を向いてしまった。これ以上はなんか申し訳なくなって視線を前に戻すと


「なによ?」


「別に」


 頬杖をつきながら体を半分こっちに向けているのは佐藤さん。

唯一まともな対応の人がいて助かったと思う反面、いつもみたいに冗談が言える気がしないのは気の所為だろうか。初めて見る冷めきった佐藤さんの視線が少し気になったが、そもそも出会ってまだ日も浅いのだ。そりゃ初めて見る表情もあるだろうくらいに考えて今晩の予定を伝える事に。


「ということだから。七時に駅西口のホテル六階のステーキ屋さんで」


 教室でこの話をすると戦争が起きると真剣な顔で鈴木さんが言うので人目の無い裏庭で時間を伝えると「了解。あんたは遅れるんじゃないわよ」と、これはいつも通りの佐藤さん。


「えっ、俺は行かないよ。でもお金はもう十分払ってるから楽しんできてね」


 あまりにも俺のこの返答が意外だったのか一瞬フリーズする二人。先に解凍されたのはやはり佐藤さんだった。


「ちょっと待って。今日は奢ってくれるのよね? 私と哀ちゃんの分も」


 その問いにおれは肯定すると


「そうそれは安心したわ。で、あんたは来ない。けどお金は払ってるから好きに飲み食いして来い。これでオーケー?」


 なんだわかってるじゃないか。なのでこの問にも肯定を返す。何やら右の拳を力いっぱい握っている気がするけど気の所為だということにしておこう。


「ふう、とりあえず来ない理由を聞いてもいいかしら。わ、私が男子が苦手だからってのは今回に関しては理由にならないからね」


 後半は早口にまくし立てていたがそれが理由ではないので正直に答えることに。


「今日は一晩寝かせたカレーを野菜たっぷり焼きカレーで食べる予定なんだ。だから俺はカレーを食べる」


 嘘偽りの無い返答をしたのだが何やら様子がおかしい。主に佐藤さんの。「歯ー食いしばりなさい」とか呟いているのが聞こえるが幻聴だろう。その引絞った右手をどうするおつもりで?


「あたいも焼きカレー食べたいし」


 俺の窮地を救ったのは先程までフリーズしていた鈴木さんだった。マジで助かった。

 話はトントン拍子で進み今晩は俺の家で野菜たっぷり焼きカレーを食べることに決定。因みに俺に拒否権は無いらしい。



 俺と細田さんは先に帰り夕食の準備をすることに。帰り道で二人増える事を伝えると「残りの量で足りるかしら」と不安げだ。もともと二人分で作っていたので足りないな。おかわりしちゃったし。

 細田さんはスーパーへ追加材料を買いに行き、俺は家に残っている材料でカレーの準備を始めた。


「なんだか静かだな」


 いつもは細田さんが居るリビングを振り返る。ひょんなことからこんな世界へ飛ばされたけど何だかんだこうやって生活出来てるのは細田さんや他の人達のお陰なんだと実感していると細田さんが帰ってきた。「おかえりなさい」と出迎えて袋を預かるとその重さに一瞬腕が下がるが落とすわけにはいかない。

細田さんが普通に持っていたから気にしなかったけど、やっぱりこっちの女性の力って……


 一瞬背後から感じた寒気に気が付かないふりをして中身を確認すると、追加の材料以外にも色々と買い足されていることに気が付いた。


「カレーだけじゃ味気ないと思いましてプリンの材料買っちゃいました。結構直ぐ出来ちゃうので太郎さん作ってみてくださいね」


 へー、それでプリン容器あるのか。

 へー、俺が作るのかプリンを……マジで? 俺のそんな視線に満面の笑みで答える細田さん。そんな顔されては断ることも出来ない。



 追加のカレーやサラダ、付け合せを作りながら俺のプリン作りの指示も怠らない細田さんのお陰で何とか時間までには料理が完成した。勿論田中作のプリンは冷蔵庫に入っている。

 

 丁度そのタイミングでチャイムが鳴る。

二人共私服に着替えての登場だ。見慣れた制服とは違うからか、いつもよりお化粧に力が入ってるとか自分の家にクラスメイトが居るとか、ともかくそんな要素が混ざり合ったせいで少し見惚れてしまったのだろう。

 それを佐藤さんにからかわれたり、なんでここに細田先生が? となって「私は護衛ですから」の一言で少し空気が重たくなったり。なんで部屋でも仮面付けてんのよという声は聞こえなかったことにしよう。

 

 さて、夕食に関してはどうやら好評らしく「悔しいけど美味しいわね」と佐藤さん。君は一体何と戦っているんだ?

もう一人のクラスメイトは「た、田中君の手作り料理……食べるのが勿体ないし」とスプーンをなかなか動かそうとしないので「野菜切ったりしただけだから気にせず食べてね」と伝えると漸く食べ始めてくれた。こちらも美味しいと感想をこぼしながら食べてくれた。自分が作った料理を人に食べてもらうのも悪くはないか。切っただけだけど。


 気がつけば時間もいい頃合い。明日も学校なのでそろそろお開きにしようか。俺の意図を察してくれた細田さんが「タクシー呼んでおきますね」と席を立つ。

その間俺たちはカレーの感想や好きな食べ物の事だったり他愛のない話で盛り上がる。


「タクシーが到着しましたよ」


 どうやら今日はここまでのようだ。帰る二人を見送ろうと席を立つと先に冷蔵庫の中身を確認しに行く。まあ容器に入ってるから形は悪くないし、見た目も……普通だよな。ええいままよ! 用意されていた紙袋へそれを二つ入れると玄関で靴を履いている二人へと差し出す。

 別に俺が作ったとかは言わなかったのに「へー、あんたの手作りなんだ。まっありがとね」と早速バレてしまった。別に恥ずかしい訳じゃないけどあまり居心地がいいものでもなかったので


「はいはい、いいから帰った帰った」


 なんとか二人を外まで押し出す事に成功させ「また学校で」とだけ言って下を向いたまま扉を閉めた。その際本日二度目のフリーズ状態の鈴木さんと、小さく手を振り「プリンありがと」と言う佐藤さんの笑顔が普段より自然なことに気が付かないままに。



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