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本日二話目です。
それから小学校を卒業して近くの中学に通うことに。それまでの間俺達は一度も会話をすることがなかった。
……いや、一度だけあったな。
「あなた達がなんで喧嘩したかはわかりませんが、クラスの雰囲気が悪くなっているのはわかるでしょ? ちゃんとここで仲直りしなさい」
担任の先生に呼び出された先に居たのは元友人達。まるで示し合わせたかのように俺達は理由を口にはしなかった。勿論自分自身で「俺がピエロになった話」を語れる訳もないし、あいつらも俺に真実を語ろうとはしないだろう。
それこそが俺の想像が正解だという証拠になる。だってそうだろ? もしも、もしもだけどこの話が善意で出来た話であれば俺に理由の一つくらい話してくれてもいいだろ? それがないってことは少なくてもそこに後ろめたい事実があるってことなのだから。
一度でもあいつらから「話を聞いてくれ」と言われることは無かった……
結局この話し合いは理由もわからないまま強制的な仲直りの握手という形で幕を下ろした。
二人と握りたくもない手を握っていると「ごめんね、ごめんね」と泣く女子。
それを見ても何にも感じない。ただ「なんでお前が泣いているんだ?」くらいしか思わなかった。
そうして俺は俺の中の事実だけを押し殺しながら新しい学校生活を送る事となる。
中学は今までの同級生の他に違う小学校からも多数の生徒が来ているので少し新鮮な気持ちで生活が出来た。他校の男子と友達にもなった。女子とも話をしたり冗談を言い合ったりするようになった。
その頃の俺はあいつらだけを信用していなかったんだ。
「また、隣の席だね」
これはこの新しい生活にも慣れた頃の何度目かの席替えの後、隣の席の女子から言われたセリフ。
この時の席替えは普通に番号が書かれた紙を引いてその場所に行くだけのもの。自分の机を指定の場所に持って行くと、隣の席は席替えをする前も隣にいた女子だった。
「偶然だな」
自然を装いながら返事をしたつもりだけど、もしかしたらちょっとぐらい噛んでいたかもしれない。
まさかまた隣になるなんて思ってもなかった気になる子がいるのだ。そう、一年前の事なんてすっかり忘れたかのように俺は新しい恋をしていた。
その子は綺麗な黒髪を腰まで伸ばし……いや下手な説明はやめて、ただ右目の泣き黒子が俺には凄くセクシーに感じられたとだけ言っておこう。
授業中は隣が気になって集中出来ないし、給食時間は机を合わせて食べるので更に緊張した。
それでもまたこの時間を過ごせることは正直嬉しい。
そうやってただその子が隣に居るということだけで幸せだったんだ。勿論この気持ちは誰にも言っていない……
「しまった、今日は朝練無い日だったか」
サッカー部に所属していた俺はつい朝練が休みの日に朝早く学校に来てしまい手持無沙汰になってしまった。家が近いとはいえ帰るのも面倒だったので誰も居ない教室へと足を向ける。
そう言えば一番に登校した人間が鍵を教室まで取りにいかないといけなかったことを思い出すも遅く、教室は目の前に。
そっとドアに力を入れると思っていた抵抗もなくガラガラと動く。ラッキー、誰か来てたと教室へ入ると、俺の隣の席だけが埋まっていた。
綺麗だと思った。
朝の誰もいない教室で一人静かに本を読んでいる姿にそれだけしか考えられなかったんだ。
「おはよう。早いね?」
隣の席まで来た俺に本から目を離して挨拶をしてくれる彼女。
「おはよう。朝練ないの忘れててはやく来てしまったんだ」
「ふうん」
それで会話は終わってしまったけど別に不満はない。
校舎にまだ誰もいないのか生徒の声は聞こえない。狭くはない教室の窓際に二人で静かに座っている。ただそれがなんでか嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
心の中で「このまま時間が止まればいいのに」なんてセリフが出てくるくらい舞い上がっていたんだ。
それでもそんな時間もちらほらと登校してくる生徒によって崩れ去っていくことに。
次の週もサッカー部の朝練はないけど、前と同じ時間くらいに俺は教室へと向かっていた。
もしかして……そんな思いがあったから。そう思いドアへ手をかけると、前回とは違い重く扉は開いてはくれなかった。
「まっ、そうだわな」
肩でため息をついて俺は職員室へと鍵を取に行き、もう一度扉を開く。
そうして自分の机に身を投げて寝ていると、教室のドアが開く音で目が覚めるも顔は外の方を向いたままで動かせない。
足音がドンドン近づいてくるのだ。
その音は俺の横で止まり、椅子が床をひこずる音へと変わる。
「おはよう。今日も早いね。朝練は?」
声を掛けられては仕方がない。正に今起きましたよみたいに、むくりと体を起こして
「おはよう。今日の宿題学校に忘れたからさっきまでそれやってた」
そんな大嘘をついたっけ。今思うと凄い阿保らしいけど、当時の俺にとってはそれが精一杯の強がりだったんだから仕方がない。
そうして俺は彼女とは反対を向きながらまた嘘寝のポーズをとり、ほんの短い幸せを感じる。
「また隣だね」
次の席替えの時も彼女はそこに居た。これで三回連続隣同士。
「凄い偶然もあるもんだな」
彼女の話にあわせながら俺も椅子へと座る。何も知らなければ俺はまた心の中でガッツポーズをとっていただろう。よくわからないけどシャドーボクシングをしていただろう。神様仏様ありがとうと祈ったかもしれない……
だけど、俺は見てしまったのだ。
男子で番号を言い合いっこしていたら、後ろのほうでその子と友達同士でくじを交換しているのを! 違う意味で俺はガッツポーズをしていた。あいつの隣が嫌だから交換してよ、みたいな内容ではなくその逆だ。
もうこの時点で「この子、俺に気があるな」と思った俺を誰が責めれるだろうか? 神様仏様でも無理だろうに。
そうして俺は……
気が付けば三年生になっていた。
別に何かあったわけじゃない。あれからも「誕生日一緒なんだね。凄い偶然!!」といった話をしたり「家も近かったんだね。小学校の時は殆ど話したことなかったから知らなかった」とか、色々話して笑いあったりしてた。
だけど”好き”という言葉がどうしても出てこなかった。
好きなんだ。君の笑った顔がどうしようもなく好きなんだ。ちょっとミステリアスなとこが好きなんだ。授業中、偶に前髪を耳にかける仕草にいつもドキドキさせられるんだ。
君が好きなんだ。
それが言えればどれだけよかったか。
何度も言おうとした……だけど決まって心にブレーキがかかる。本当に彼女は俺に気があって俺の隣の席に来たのか?そうやって俺をおちょくって告白してきたところを友達と一緒に笑うんじゃないか?
あの子に限ってそんなことは無いと言い聞かすも、ここにきて小学生の時の記憶が蘇る。
だけどそれも今日までだ。
そんなトラウマにも近い出来事を俺は今日捨てる。そう決意するまでにかかった時間は短くない。
今は中学三年の終わりも終わりで、受験も終了して合否も出ているのだから。
その日は朝早く学校へ行き、その子の靴箱にラブレターを入れて一度家に帰った。ラブレターには俺の名前は書かずに「一年の頃から好きでした。放課後南棟の非常階段三階で待ってます」みたいな内容だけを書いたと思う。そんな前のことじゃないけどうろ覚えだ。何度も何度も書き直したからなあ。
「太郎」
俺の名前を呼び、グッと親指を立てる中学で出来た友人。
この合図はあの子がちゃんと俺の手紙を取ったという合図だ。こいつには昨日この話を打ち明けて手伝ってもらうことになったのだ。俺もまだ成功すらしてないのにグッと親指を立てた。
「付き合えるといいな」
そう言いながら肩を組んでくるそいつに感謝する。既に緊張している俺をリラックスする為なのかそのまま体をくすぐってくる。
また一つ授業の終わりを告げる鐘がなった……あと一回。
あと一回鐘が鳴れば後はもう放課後だ。教壇では先生が高校生になったらなんちゃらかんちゃらと説明しているが、今の俺にそんなことを聞いてる余裕はない。
どうしよう。凄く鼓動が早いのがわかる。
未だあの子に会ってすらいないというのに、俺の心臓は全力で走った後みたいに煩く鼓動する。
そうしているうちに最後の鐘が鳴る。
まだ心の準備が出来てないのになんてヤツだ。しかし既に手紙を出してしまっているのだ。クソ、俺はなんてことをしてしまったんだと嘆くも勿論行かない訳にはいかない。
椅子に座ったまま動かない俺の背中を
「頑張れ」
バシッと強く叩きながら応援してくれた友人に
「ありがと、行ってくる」
叩かれた背中を擦りながらも自分が指定した場所へと向かう前に、当の彼女の教室を覗く。
その子のクラスはまだ先生の話が長引いているのか全員席についている。
それを確認して今度こそ目的の場所へと勇気を出して向かう。
「緊張する」
到着してからまだ数分しか経ってないのにもう俺の心臓は限界を迎えていた。
この場所を指定したのは授業がある時でさえ人が通ることは余りなく、さらに言えばもう三年生も終わるこの時期にここを通る生徒なんていないからだ。もし下級生が通ったとしても別になんとも思わないだろうしな。
その後イメージトレーニングをしていた俺の耳にとうとう階段を昇ってくる足音が聞こえた。
……来る
……あともう少し
……
「脅かすなよ」
そいつが俺の横を通り過ぎて上の階へと向かった後、壁にもたれながらズルズルと床にへたりこみながら呟いてしまう。
今さっき通ったのは下級生の男子で、多分二年生。どこかで見た気もするけど特に話したこともないので会話をする訳もなく通り過ぎて行った。横を通る時チラチラとこちらを見てきたのは「なんで三年がこんな所に?」と思っていたからだろう。すまんな後輩。この場所は今日だけ俺の貸し切りなんだ。
それに一度誰か通ってくれたことにより、少し心に余裕が生まれたのを感じた。既に居ない後輩に感謝しつつ再び立ち上がり彼女を待つことに。
……遅いな?
まだ終わってないのかな? ここから見える時計で時間を確認すると、ここに来て既に十五分程経過しているのだ。
まあ、終わった後友達と少し話してから来るかもしれないしな。
……遅いな
遅いな……
……遅いな
わかってる。
もう彼女が来ないことなんてもうわかってるのに
俺はそこから一歩も動けずに膝を抱えていることしか出来なかった。
思い出したんだ。さっきの二年生が誰かを。
あの子の弟だ。
小学生の時と一緒で俺は俺の真実しか知らない。けどこれはどう考えてもこういうことだろう。
ラブレターを見たあの子は自分の弟に「放課後そこに誰が居るか見てこい」と言い、弟はそれを実行しただけ。どうりで俺の横を通り過ぎる時名札の辺りをチラチラと見てると思ったんだ。
そうして「田中って人がいた」と姉に報告する。それを聞いた姉はこちらに来ることもなく家に帰った……
別に弟が悪いわけじゃないけど、俺はそいつに緊張を解してくれてありがとうと感謝までしていたのだ。とんだピエロだな俺は……でも
あの席替えが嘘だったとは思わない。
あの朝の時間が嘘だったなんて思えない。
ただ俺が勇気を出すのが遅かっただけなんだ。
ただそれだけの話。
俺がそこから動けたのは既に日も沈んでぽつぽつと街灯が夜道を照らし始めている頃だった。
前回と同じく不思議と涙は流れない。
つづく




