↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/56

28

雨が降ると外に出る気が一気に失せるのはなせなのだろう?


 ~佐藤 花子~


 哀ちゃんのカミングアウトから数日が経ち、こっちの生活にも少し慣れてきた。


 その間で変わったことといえば、あいつがお昼を食堂で食べるようになったことと、クラスの女子も少しずつだけどあいつに話しかける様になったこと。未だに趣味の悪い仮面をとる気配は無いが、素顔を知っているのは学生では私だけというちょっとした優越感があるのでそのままでいい。

哀ちゃんもどこかであいつと会ったことがあるみたいな口ぶりだったけど、素顔は知らないみたい。


 ……なんで全部あいつの事なのよ!


 思わず力を入れてしまい握っていたシャーペンが半分の長さになってしまった。

後ろの席から「ひっ」と悲鳴が聞こえた気がしたが気のせいだろう。それにしてもちょっと力を入れただけで折れるなんて、この世界のシャーペンってちょっと貧弱じゃないかしら?まるで男みたいに。


 少し調べたけどこの世界の男性は基本極端に痩せているか太っているかのどちらかだった。モデルのような仕事についてる人は普通だけど、前の世界で言うイケメンとはお世辞にも言えない。それならあいつの方が何倍もイケメ……だからなんでここであいつが出てくるのよ!


 確かにあいつには一瞬だけど命を助けられた。自分の身の危険なんて顧みずに。

だけどそれはちゃんとお礼を言って終わったことなのよ私。いつまでもひきずってたら、なんか私があいつとの接点を消したくないみたいじゃない。

 ないないない。それはない。

だって()なのよ!この世界の男も女性をアクセサリーか何かと勘違いしているかのように振る舞っているのが嫌。それになんの疑問を抱かずにほいほいついて行く女性を見て嫌な気持ちにもなる。


 もしあなた達が向こうの世界に行ったら立場は逆転してその美貌を使って好きに出来るのに。

男なんてとっかえひっかえして、ぱしりに使ったり機嫌ひとつで捨てたり出来るの……ダメだ、自分が男と同じ思考になっているのがわかる。


 それでも向こうの世界よりかは大分過ごしやすいこの世界に私は満足している。

向こうじゃ美人と言われていた私だけど、こっちじゃ良くて平均よりちょっと上くらいに落ち着くから別に男子から声を掛けられることもないし、女子からの嫉妬みたいな視線もない。


「花っち、お昼行こ」


 それにこうやって新しい友達も出来たことだし、あの神様には感謝しないとね。


「田中君も一緒に行く?」


 えっ?ちょっとなんでそこでそいつも誘うのよ哀ちゃん。別にそいつと一緒に食べなくてもいいじゃない。と、言おうとするも彼女の真剣な表情の前にそれが口から出ることは無かった。

 そうだ、この世界では男をご飯に誘うのも凄い勇気がいることなんだ。それを私の私情で止めるのもなんか申し訳ないな。


「……なんでこっち見るのよ」


 誘われた当の本人は哀ちゃんではなく私を見てくる。勇気を出してあんたを誘った哀ちゃんに失礼だと思わないのかしらこの男は。「いや、別に」と視線を外して


「折角だけど遠慮させてもらうよ。女子(・・)だけで食べるといい」


 そう言って席を立って一人食堂へ行ってしまった。

よかった、これで一緒にご飯を食べなくて済む。さてあいつなんてほっといてご飯に行こ哀ちゃん。と視線をずらすと目に見えて落ち込む哀ちゃんが目に映った。

 こんないい子の誘いを断るなんて最低な男ね。心の中の矛盾なんて気にせずに二人で食堂へ向かう。今日は二人共学食でご飯を食べる約束をしていたのだ。


 それにしてもあいつ、ことあるごとに哀ちゃんの誘いを断るわね。その度に私の方を見てくるし……なに?本当は私に誘って欲しいとか?

 まあ……もし本人からそう言われたら誘ってやらないこともないけど。もっ、もし言われたらよ言われたら。


「花っちの表情コロコロかわるね?なに考えてるの?」


 そんな事を考えていると隣から哀ちゃんに「見てて面白い」と言われてしまった。あいつのこと考えてたなんて言える訳もなく慌てていると


「それにしても田中君って優しいよね」


 と、私の耳がおかしくなったのかと思ってしまうセリフが聞こえてきた。念のため聞き直してもやはり変わらず、あいつが優しいという私を笑い殺す内容だった。ブルマに興奮するような男が優しい?ただの変態じゃん。哀ちゃん眼科に行った方がいいよと言おうとしたら


「だっていつも花っちに気を使って女子だけで行動させてくれてるじゃん」


 その言葉に足が止まってしまう。嘘……

そう言えば部活の見学の時も同じように私に視線を向けてきたような……


 もしかして私が”男なんて嫌い”って言ったのを気にしてくれてたのだろうか。だから視線でだけど私に許可をとろうとしてた?

 思い返すと学校であいつから話しかけられたことなんて一度もない。私から話しかけるか、哀ちゃんとの会話に偶に混ざるくらいだ。


「花っち?」


 急に止まった私を不思議に思ったのか哀ちゃんが心配そうな顔でこちらを覗き込んでくる。ああ本当にいい子だなこの子は。多分私みたいにすれてなくて純粋なんだろう。

「なんでもない」と言って食堂へ急ぐ。

 それもこれもあいつが食堂を利用し始めてから急激に食堂を利用する生徒が増えたのだ。理由は言わなくてもわかる。

私も哀ちゃんに「明日は学食で食べよう」と言われなければわざわざ人が多いここになんて来なかったのだ。


「多いね」


 予想通りというかそれ以上というか、食堂は大混雑していた。

奥の方では少し高い位置で食事をしている男子生徒とその取り巻き達が優雅に昼食をとっているのが見えた。どうせあいつもあそこで食べているんだろうと探すも見当たらない。おかしいな?と思っていると


「花っち。あそこあそこ」


 私の制服の袖をくいくいっと引っ張ってとある方向を見ている哀ちゃんの視線を辿ると、そこには一人でお昼ご飯を食べているあいつがいた。仮面の下の辺りが外れていて口許が見える。


「なんで」


 なんで他の男子みたいにふんぞり返ってあっちの席で食べてないの!なんで女子を侍らせてデレデレしてないの!なんで男子専用じゃなくて普通のご飯を食べてるの!


 言いたい事は沢山あったけど、この人ごみの中そんなことを言える筈もなく食券を買うため列に並ぶ。

食堂のおばちゃん達が優秀なのか、時間が掛かると思われた長蛇の列もスイスイと進んでいき私達も無事お昼ご飯をゲット出来た。


 空いてる席を探すも、とある場所を除いて全て埋まっている。「どうしようか」と悩む哀ちゃんに「行きましょ」と言って私はその場所に迷わず足を進める。後ろから哀ちゃんの慌てた声がするけど関係ない。


「ここ、失礼するわね」


 そう言ってぽっかりと空いていた空間に座ると、今までご飯を食べていた手を止めて「あ、ああ」と驚いている男が目の前に。遅れてやってきた哀ちゃんも「結局一緒だし」と言いながら隣に座る。


 すると何故か周りをキョロキョロと見渡して「ああ成程」と一人勝手に納得して、食べるスピードを上げ始めた。


「……ちょっとあんた」


 この距離だと小声でも届いたのか食べるのを止めて「なんだ」と聞き返してくる男に言いたい事を言う。


「わた……から、べ……ゆっくり……いいわ」


「えっ?今なんて?」


 なんなのかしらこの男。絶対聞こえてた筈なのに、あたかも聞こえて無い振りをして私にもう一度言わそうとするの!鬼畜。鬼畜だわこの男。助けて哀ちゃん。

 隣を見ると「あたいも聞こえなかったし」……私に味方はいないのか。


 一度大きく深呼吸して


「私は気にしないから、別にゆっくり食べていいわって言ったの。これでも聞こえないなんて言わないでしょうね?それに勘違いしないでほしいけど、ここ以外空いてなかったから仕方がなく座っただけなんだから」


 自分で言っといてなんだけど、思いの外恥ずかしかったのか視線は哀ちゃんとは逆の方を向いている。

今回は相手にもちゃんと聞こえたのか聞き返してはこない。そして返事も返ってこない。気になって視線を戻すと……笑いを堪えているそいつがいた。


 今のセリフのどこに笑う要素があるのよ!?


「なに笑ってるのよ」


 ちょっと怒った口調になってしまったけど私は悪くない。いきなり笑うこいつが悪いのだ。

漸く笑いも収まったが少し苦しそうに息をしながら



「ツンデレか」 


 そう言ってまたくすくすと笑い始めるそいつを見て、私の顔が熱を帯びるのが感じられて思わず大きな声を出してしまった。



「ばっ、バッカじゃないのー」


 それを聞いたそいつは一瞬笑いを止めたと思ったら人目を気にせずお腹を抱えて笑い出してしまった。





「田中太郎……」


 あの後食堂中の視線を浴びることとなり急いでご飯を食べて逃げる様に教室へと帰った。午後の授業で自分の席があいつの前でよかったと今日ほど感じたことはない。自分でも変な顔をしているのがわかるのだ。

 

 家に帰ったら鞄を置いて直ぐにお風呂へ入り、浴槽にザブンと頭まで潜って膝を抱える。

確かにあいつはこの世界の男とは違う。それは間違いないけどこれからどうなるかなんてわからないし、そもそも世界が違うんだからそれも当然だ。


 もとの世界の男なんて碌なやつがいなかった。

高校に通い始めて仲良くなったクラスの女の子。大抵その子と遊ぶことも多く、冬休み終わりに「今日私の家に泊まりにこない?両親いないし」と言われ私はそれに賛成してその子の家にお泊りセットを準備してから行くと


「あれ?どちらさん?」


 と、見たことない男性が玄関から出てきた。

まさか友人以外に人が居るとは思ってもいなく焦っていると、「その子私の友達」と二階から降りてきた友人と一緒に彼女の部屋へと行く。そして「ごめんね。兄貴が急に帰ってきたんだ」と説明された。

お兄さんは東京の有名大学へ通っているらしいが、今日は休みをつかって急に帰ってきたそうだ。

 お兄さんの視線がいやらしかったなんて言える筈もなく「ちょっとビックリしたけど大丈夫」その時はそんなことを言ったと思う。


 そうして何事もなく時間は過ぎていき、時計の針が十二時を回ったのでそろそろ寝て、明日は一緒に買い物へ行こうと話をして二人共眠りについた。


 ふとトイレに行きたくなり目が覚めてしまい、友人を起こさない様に静かに廊下に出ると偶然彼女のお兄さんと鉢合わせてしまった。「失礼します」と言いながら彼の横を通り抜けてトイレまで行き戻ってくると、何故かまだ廊下には彼がいて道を塞いでいる。


「すいません、部屋へ戻りたいのですが」


 そう言っても彼は退いてくれない。相手を押しのける訳にもいかず立ち往生していると


「今晩俺の相手してくんね?」


 ……今なんて言ったのこの人?

私の聞き間違いじゃなければ今晩一緒に寝ようと、初めて会った妹の友達に聞いてきたの?「ふざけるな!」と大声を出したかったけど、そういう訳にもいかず「すいません、部屋に戻りますので退いてください」と無理矢理横を通ろうとするとガシッと肩を掴まれた。


「別にいいだろ?そんだけ可愛んだ。学校の男子ともよろしくやってるんだろ?」


 もう彼が何を言っているのかわからずに、とうとう大声を出してしまい言い合いをしていると友人が「どうしたの?こんな時間に」と、起きて来てくれた。

助かった。そう思い彼女に助けを求めようとした瞬間


「おまえの友達に一晩相手をしてほしいって頼まれてね。断ったんだけどしつこくて。まさか妹の友達に手を出すわけにもいかないだろう?起きて来てくれて助かったよ」


 それを聞いた瞬間友人の私を見る顔がとても冷めたものへと変わるのを見た。


「違う!あなたのお兄さんが誘ってきて、断ったけど部屋に戻してくれなかったの!」


 彼女なら私の言い分を信じてくれると思っていた返ってきたのは「最低、もう帰って」という冷たい言葉。

 結局最後まで私の話を聞いてくれず、部屋の外に放り出された荷物を抱える様にしてどうにか家に帰った。多分彼女も混乱していたのだろう。数日経てばきっと私の話を聞いてくれる。そんな根拠のない思いで週明けの学校へ行くと……凄い見られているし、陰で笑われているのがわかる。

まさかという思いがあった。彼女が言いふらすなんて思ってもみなかった私は教室に入った瞬間、それがどうしても甘い考えだったことを悟る。


 「佐藤〇子はビッチ」そうデカデカと黒板に書かれていたのだ。

それを見て頭が真っ白になった。今はこれを消さないと……それだけを考えて必死に消した。その間誰も手伝ってはくれず、漸く消し終わると一人の男子が


「佐藤。今晩俺ん家親いねーから来るか?」


 下卑た笑みを浮かべながら近づいてくるそいつに私は持っていた鞄で殴りつけていた。

正直その後のことはあまり覚えてない。母親が仕事から駆けつけてきてくれてその日は一緒に帰ったことくらいしか覚えてない。


 次の日、両親に全て話すと「相手側と学校へ抗議する」と言って父親が出て行った。母親は「大丈夫よ」と言いながら私を抱きしめてくれた。この二人に信じて貰えた。それが私の心をどうにか保つ唯一の拠り所だった。


 それから数日学校を休んだが、私はもう一度学校へと向かう決心をした。両親は「もうちょっと休んでもいいんだぞ」と言ってくれたけど、これ以上休んでると負けた気がするから嫌だと言って私は学校へと向かう。

 教室に入ると皆一斉に私を見た後顔を背ける。誰か話しかけてくることもなく、あの日の騒動が嘘のように静かだ。それから学年が変わっても私に話しかけてくるもの好きは居らず、その日も誰とも会話をすることなく下校していると、横断歩道で背中に強い衝撃を覚えた……


 そうしてこっちの世界へと来てしまったが、神様には本当に感謝してもしきれない。

あと、ほんのちょっとだけどあいつにも感謝してる。もしあいつが助けてくれなかったら私はここにはいなかったかもしれないのだから。そして哀ちゃんにも出会うことはなかった。直感だけど彼女は向こうの世界の友人と思ってた人達とは違うと感じることができる。こればっかりは女の勘とでもいうしかない。

 

 そんな勘だけど多分彼女はあいつのことが気になっている……と思う。

私はべ、別になんとも思ってないけど、友人の手伝いくらいは出来る筈だ。そうだ!それがいい。あいつもあんないい子が彼女になったら、嬉しさのあまり私に感謝するに違いない。

そんな未来を思い浮かべながらお風呂から上がり夕飯の準備をしているも、先程の未来が頭から離れない。


 二人楽しそうにご飯を食べる姿や、手を繋いで下校する姿。誰もいない放課後の教室で唇を重ねる姿……


「ダメッ」


 そんな未来を頭から追い出す様に叫んでいた。

ずきりと痛む胸を押さえながらこれは違う。そんな(・・・)感情じゃないと自分に言い聞かすも痛みは治まらずキュっと締めつけてくる。




「……違うんだから」




作者の小話⑫


引越し先の生活にも慣れ始めた頃の休日に「一緒にご飯食べに行こう」と昼頃に隣人がやってきた。

その時は外に出るのが面倒だったので「外に出るの面倒なんでパスで」と正直に伝えると「奢ってあげるから」と食い下がってきた。だけど面倒なものは面倒なので「行きません」の一点張りで漸く引き下がってくれた。

部屋でゴロゴロしてると時間は夕方に。ご飯でも作るかと思い冷蔵庫を開けるも殆ど食材が無く、今から買いに行って作るのも面倒とその日は外食に決定。

ふらふらと外を歩いていると仕事終わりの隣人の友人とばったり。今からご飯を食べに行くと言うと「一緒にいい?」と聞いてくるので「いいですよ」と返事をしてそのままレストランへ。

食べた後はその場で解散して自分の部屋へと戻り、パソコンで動画を見ているとチャイムが鳴った。

時間は既に22時を指している。まさかとは思い扉を開けると、やはりというか隣人が立っていた。そして

「私とはご飯行かなかったくせに友人とは行くんだ?あの子のこと好きなの?」

と、わけのわからないことを言ってきた。

理由を説明しても「へーそうなんだ」しか言わない隣人に腹が立って「もう遅いんで寝ます」と扉をしめて就寝。

この時はちょっと面倒な人だなくらいに思った俺にジャーマンスープレックスをかましたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。