落ちるのは地の底空の獄
「落とすだけなら先輩だってできるはずですよ、私を呼ぶ必要やっぱりなかったんじゃないですかね?」
「馬鹿言うな、俺が適当にそんなことしてみろ、土地破壊した挙句に失敗すらあ。本当のギリギリまでやりたかねえんだよ」
「さいですか……取り敢えず仕上げます」
ビーが懐からペンと紙を取り出した。
「大きさ、重さ、高さは目算で把握しきれないので採寸してください」
「俺をそんな風に使うのは初めてだが、まあやってやろう、そういうことができるから俺は勇者なんだ」
騎士団長が操る水が【地災】の表面を這っていく。
「よーし分かった、口じゃめんどくせえから直接送るぞ」
一滴の水がビーの鼻へと入り込んだ。
「え?凄い情報が流れ込んで来る!?」
「そうだろうそうだろう、情報を液体に溶かし込むのなんざちょちょいのちょいよ」
「これがあれば報連相が瞬時にできる、先輩ウチに来ませんか、No2の席を用意します」
「いやいや、そんなこと言ってる場合か」
「冗談です、書きあがりました」
紙には【地災】を一切地面に触れさせないように落とすために必要な条件と資材そして労働力が書き出されていた。
ーーーーーー条件その1ーーーーーー
【地災】の体躯が360°回転しても地面に接触しない深さと広さ
ーーーーー条件その2ーーーーーーー
【地災】が穴の中心にいること
ーーーーーーー条件その3ーーーーーー
【地災】が飛行できないこと
ーーーーーー条件その4ーーーーーー
瞬間的に土が全て消え去ること
ーーーーーー条件その5ーーーーーーー
空中で【地災】を拘束すること
資材
先輩
労働力
先輩
ーーーーーーーーーー以上ーーーーーーーー
「……こんなクソみたいな計画書を書いたのは初めてだ……」
「うるせえ、それでいけるんだな?」
「できるかどうかは先輩次第ですよ」
「俺を誰だと思ってんだよ?」
「「そういう事ができるから勇者なんだよ」」
騎士団長は笑う。
「分かってきたじゃねえか?」
「もう馴れましたから。私の【我が計画は無謬にして神速】は計画書が実行可能な労働力と資材を用意すれば瞬時に計画を終わらせますが……準備はいいですか?」
「言うまでもねえよ」
「では早速、計画遂行!!」
一瞬。
「ーーーーーーーーーーーーー!!」
【地災】と大地のつながりが断たれた。
突然空中になったことを【地災】は理解できない。
重い背中を下にして【地災】は落ち行く。
「うおらあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
落ちいく先には満身創痍の騎士団長が張る水の網。
「こうはいいいいいいいいい!!ここまでしんどいなんざきいてねえええええぞおおおおおおおおお!!!!」
「いや、因果捻じ曲げて平気なわけないでしょう?」
「うるせえええええええ!!!」
渾身の力で張られた水でも【地災】の圧倒的体躯の質量に負けて沈み込んでいく。
「くそがああああああああああああ!!」
体の端でも地面に着けばそれで失敗となる。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
それでも、勇者は成し遂げる。
これこそが勇者。
これでこそ勇者。
勇者だからできるのではない、できるから勇者なのだ。
【地災】の体は空中で静止した。
「見たか……これが勇者だ」
息も絶え絶えに騎士団長が吐き出した。
「あとは勝手に刻まれろ……デカブツ」
勇者はまだいる。
忘我の鬼が。
剣の聖が。
【地災】の腹に降り立った。
「あ……ああああ……ああえお……ああいおああえおおんえ……あ……ああ……おああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
鬼は納刀し何かを口に含む。
かすかに見えたそれは丸薬の類だろうか。
「私は……わたしはぁ……名前を……名前を呼んでよ……だれかぁ……おねがい……だんなさまぁ……」
僅かな記憶と理性を取り戻し、澄んだ涙が溢れる。
「だれ……私から奪ったのは……お前か……?」
涙は血涙と変じ、鬼はただ一振りの剣となる。
奪ったものへの怒りも失われた哀しみも、全ては不純と切り捨てて。
ただ純粋に剣を振る存在へと昇華する。
「もういい……要らない……私もあなたも……ぜんぶ斬っておしまいよ」
世界から音が消えた。
そう錯覚するほどに美しい所作だった。
抜刀。
一文字。
返して十文字。
血振り。
納刀。
流れるように、踊るように。
継ぎ目なき一連の動作。
「重十文字・散華」
【地災】の体は崩れゆく。
その様はまるで舞い散る桜のごとく。




