高貴なる獣狩り
貴国アズール。
あらゆる種族、あらゆる生命にごく稀に誕生する碧き血を持った突然変異体。【貴き碧】と呼ばれるそれらが作った国が貴国アズールである。
碧き血を持つものはみな共通の力を持つ。高度な精神と高い身体能力もそのうちであるが最たるものは【碧き血脈】と名付けられた固有能力であろう。
その力は単純にして明快。
自らの血脈に連なる者の力を使えるというものだ。
もっと具体的に言うならば、直接の祖先と今いる同じ【碧き血】の保持者全ての能力値と技能が足されているということである。
個体能力値で言えば間違いなく最強国家であるが、幸いかな彼らは平和主義で少数しかいない。
【碧き血】の存続と洗練にしか興味のない彼らにとって【碧き血】を生み出すかもしれない他の種や人を殺すことはタブーなのだ。
だが。
今の貴国アズールはかつてないほどの怒りに包まれていた。
その血を滾らせて殺意を向ける相手は【獣災】
かの災害は砂漠の旅の帰路についていた者を喰らった。
いかに【碧き血】といえど長旅の帰路には気が緩む。
そこを【獣災】は喰らったのだ。
残ったのは碧い血痕のみ、それだけで十分だった。
共有はしてないまでも全員が繋がっている【碧き血】だ。誰に何が起きたかなど察することはできる。
【碧き血】が失われ、家族が失われ、その亡骸すらも失われた。
しかもそれに理由はない、納得できるはずもない。
貴国アズールは歴史上始めて生物の殺害を国の目的とした。その使命を受けたのは貴国アズールの中でも最精鋭の五人だった。
貴国アズールには個人の名前がない、そもそも個体それぞれを把握しているのに名前という記号などはいらない。故に彼らはただ【五碧】と呼ばれた。
ある者は剣の扱いに優れ。
ある者は槍を体の一部のように扱い。
ある者は術を駆使し。
ある者は拳を鍛え上げ。
ある者は10人引きの弓をいとも簡単に放った。
彼らの手にかかればいかに【獣災】と言えども足取りを読まれて先回りをされた。
「Syaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
【獣災】猫科の猛獣に似た姿の炎を纏った巨獣である。
「我らの同胞の仇は必ずとってくれよう」
碧い大剣を抜き去る。
【碧き血】によって切れ味を増す貴国アズールの宝剣【碧剣】である。
「簡単だ。尾の先まで貫けば死ぬ」
碧い槍を構える。
【碧剣】と対を成す宝槍【碧槍】である。
「呪いで腐らせた方が苦しむわ」
碧い本を開く。
貴国の秘蔵の呪書【碧書】である。
「足を砕いて頭を潰す。それが良い」
拳を握る。
拳は血の武装【碧拳】に覆われている。
「一矢で半身を消しとばしてやろう」
碧い弓に碧い矢をつがえた。
10人引きの大弓【碧弓】である。
一瞬の溜めの後、全員がアイコンタクトすらなく同時に動いた。
「Syaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
まず拳が【獣災】の前足にめり込んだ。
「Sya!?」
態勢が崩れた【獣災】のもう片方の足が大剣によって断たれる。
「ーーー!」
【獣災】の身体が突然変色した。腐敗した肉の匂いが辺りに立ち込める。
「gaaaaaaa!?」
とっさに身を捻った【獣災】の身体の後ろ半分が消し飛ぶ。
「Syaaa……」
頭から胴体までを槍が貫き【獣災】に大きな穴があけられた。
【獣災】は倒れ伏しピクリともしない。
「おかしいな……いくらなんでも弱すぎる。同胞がこんな程度の敵に遅れをとるはずがない……まさか……」
後ろを振り向く。
そこには地平線を埋め尽くすような【獣災】の大群がこちらに向かっている光景が広がっていた。
「なるほど……そういうことか……」
瞬時に諦めを切り離し、剣を向ける。
他の仲間も同様だった。あの数を殺し尽くすなど到底不可能。
しかしそれは仇を諦める理由にはならない。
【碧き血】にかけて全て賭す。
覚悟は決まっていた。
しかし突然声が響く。
『何やってる!?ああなった【獣災】は手がつけられない。逃がしてやるからしゃがめ!!』
声は砂が振動することで生み出されていた。その砂は他と違って砂鉄のごとき黒さである。
「アレェナか……すまない」
黒き砂の術は黒砂王国アレェナの秘術だ。
『少し砂まみれになるが死ぬより良いだろう。いくぞ』
しゃがみこんだ【五碧】を黒い砂が包み込む。
「「「Syaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」」
数多の【獣災】がたどり着いた時にはそこには何者もいなかった。
【獣災】の亡骸があるのみである。
【獣災】はそれを食い尽くすと砂漠に消えていった。




