教えてクリア先生
「けふっ」
食い切りやがった。
「機会があればまた食べたいわね」
「次の機会はねえよ」
次からはあのリンゴは俺のもんだ。
「あら残念」
『ジャミングの解消を確認。負の聖による侵食によって取り込むことを提案』
もう終わったよ。
『状況を確認……把握。負覚醒体【聖災】の消滅と負精霊クリアの確立を確認』
「結局負の聖ってなんなんだよ。効果がさっぱり分からねえ」
「そりゃあ自分じゃ分からないわよ。負の聖性も正の聖性は自分の意思なんて関係なく作用するのは一緒よ」
「前のはなんとなく分かってたんだよ。何というかこう自分に都合いい流れがきてる感じだ」
『訂正。正確には因果律への干渉力の強化によって偶然を高確率で引き起こす状態になっていた』
良く分からんな。
「今のあなたはそっくり全部が負で反転してるのよ。あなたの言ういい流れっていうのが聖性の引き起こす恩寵だとしたら【聖災】の羽があなたを守ったのは負の聖性の呪いよ」
「呪いって言ってもなあ……俺には戦う力はないぞ。呪術なんて使った試しもない」
「当たり前でしょ。負の聖性つまりは穢れによって聖になったものは呪いの塊よ。本来ならいるだけで世界規模の討伐令が出るくらいの災害だわ。たしか【呪災】って言ったかしら」
俺はおっこと○し様になってたのか。
……【原罪】って赦されてるから無罪なんじゃないの?
祟り神レベル超えてんじゃん。
『赦されたからと言って罪が消えるわけではない。【原罪】は空席ではあるが依然として最大にして最悪の烙印である』
なるほどな……詐欺かよ。
「でもあなたはそうじゃない。生き物を一匹たりとも殺していない。その呪いは死の呪いじゃなくて従属の呪いに近いわ」
「従属の呪いって、俺はあの羽自分で動かせなかったけど」
「んー、言い方を変えましょう。従属は従属でも家族契約ね」
「家族契約も分からん」
「そうねえ、なんて言えばいいかしら。あれよ、ヒノモトの任侠がやる兄弟盃よ」
「なんでそんなもんがこっちにあるんですかねえ……」
「それは分かるのね、あなたの呪いは侵食によってあなたを親とする家族契約を結ぶのよ。親は子を育て、子は親を守るの。でも子が自主的に動くのに任せるからあなたの意思で子を動かすことはできない。ここまでは分かる?」
「まあ……なんとか」
配下にするけど命令はできない、勝手に動いて勝手に守る自立型装備になる……?
あれ?強くない?
「でもこれには欠点があるわ。一つ目は呪いが効く範囲。二つ目は容量。三つ目は時間よ」
「多いな!?」
「当たり前でしょ。ただ殺すだけならまだしも。家族契約なんていうめんどくさい呪いなんだから」
「ぐぬぬ……!」
「まず範囲ね。これは分かりやすいわ、体内よ。あなたの呪いは体内で血液みたいに循環しているわ。だから体に刺さった【聖災】の羽が汚染されたのね」
「そんなんでどうやって呪えってんだよ」
「体内に取り込むしかないわ。あなたの体は他のものを受け入れることができるはずよ」
「何すんだうわっ!?」
クリアの腕が腹を貫通してやがる。
しかし痛みはない。
「ほらね?でも私はもう負に汚染されてるから痛くないけど正のものが入ると痛むと思うわ」
結局痛むんかい。絶対やらない。
「汚染ってお前な……」
「呪いなんだから汚染に決まってるでしょ。次は容量。これは受ける側の話よ、呪いでも聖性に代わりはないから契約成立にはある程度の聖性の受け皿が必要になるわ。具体的には聖者二歩手前くらいが下限かしら」
「それってどれくらいなんだ?」
「そうねえ、聖職者でも上位クラスよ」
「ほぼいねえじゃん……」
「私が最初で良かったわねって言ったはずよ、聖性関係ない相手とやりあったらあなたにできることはほとんどないわ」
「……最後は?」
「時間ね、今回の羽は容量が多かったから問題なかったみたいだけど普通なら保って数分が限度よ」
「兄弟盃は永遠じゃねえのか」
「了承なしで情も絆もなしの強制盃に永遠を求めるのは無理があるわ」
「ぐうの音も出ねえ」
「仕方ないわ」
「じゃああれはどうなんだ。詠唱の変わった【死は永久の安らぎなり】に影響はないのか。なんかめっちゃ禍々しくなってたんだが。【聖災】が死んだら消えちゃったけどあれおかしくなってないか?」
「あれは……ちょっと異常よ。あの空間内を体内と定義して汚染が起こっていたわ。急激な侵食の加速はそのせいね。加えて元の暴力否定能力の名残として攻撃意思があるものに致死性じゃない呪いが無作為にかかる状態の場になっていたの」
えぐいけど前の方が強いなあ。
「まあ……呪いをはじくのは難しくないからそんなにひどいことにはならないでしょうけど」
本当に前の方が強いなあ!!
「使う意味ないか……」
「そんなことはないわ。あの中なら呪いの条件が少し緩むみたいなの。たぶん血液にしろ手のひらにしろあなたの一部が相手に接触すれば契約が結ばれるわ」
「で、欠点は?」
「言う前に聞くなんて冴えてるわね。呪いは基本的に一個体を目標にするもの。あれは無差別すぎて薄いわ、契約の効果だって数秒もしくは一瞬が限度でしょうね。周囲への影響なんて収束しなければせいぜい色が黒くなる程度よ、それだって効果が切れたら元どおりよ」
「収束したらどうなるんだ?」
「できるかどうかは別として拳くらいまで収束させたら相手を完全に負覚醒まで持っていくわね」
「敵を負覚醒させても意味ないだろ。むしろ超強化じゃねえの?」
「違うわ、私たちみたいに【災】になるのはあなたが手綱を握っていなかった時だけよ。負覚醒状態に強制的になった後に解除したらどうなると思う?」
「ただ戻って終わりだろどうせ」
「違うわ、戻るときに反動があるのよ。短時間で反転して元に戻るなんて乱暴なことしたら体も魂もついてこない。まず戦闘は不可能よ無理したらそのまま死ぬわ」
「まさか……俺にもついに戦う手段が……!」
「現状じゃ収束することもできなければ、それを当てるための能力もないから無理よ」
「……知ってた……」
「リンゴを植えれば倒せない相手はほぼいないから大丈夫よ」
「やっぱりそうなるのか……」




