止める者
「ガ……グ……!?」
鬼の突進は止まった、詳しく言うなら足が床ごと凍り付いていた。
「止めたぞソロ」
「あいあい、さっすが冬堂くん。止めることに関して君の右に出る人は見たことがないねえ」
「それしかできねえんだ」
「それもそうだけどね、じゃあ見ててよ」
ソロは背後に出現した【結晶記憶】からいくつかの記憶をつなぎ合わせていく。
「そうだな、【崩壊】【融壊】【瓦壊】【決壊】にしよう」
記憶は連結し新たな一つを生み出した。
「名付けて四壊紋」
破壊の概念四つの集合である術式は動けぬ鬼に直撃する。
効果は瞬く間に現れた。
見る見るうちに鬼の身体が崩れていくそれは内側から腐るようであり、内側から何者かに食い破られるようでもあった。
崩れるたびに身体から血の代わりに瘴気が溢れている。
「えっぐいことすんなお前」
「何言ってんの?あんなの人類の機能を一つ使ってるだけだよ。自壊プログラムを活性化させてるだけ」
「それをえぐいって言うのよ」
「冬堂君だけじゃなくて君まで……そんなにえぐいかな……?」
軽く落ち込むソロ。
「まてっ!?あいつどこ行った!?」
「え?そこで壊れてるでしょ?」
鬼がいた場所には足首から下しか残っていなかった。
「あれ?おかしいな。あの勇者の回復能力を殺し続けることで相殺できるはずなのに」
ソロには一つだけ誤算があった、確かにソロの四壊紋は鬼の回復を相殺できるほどの殺傷継続力をもっていた。
しかしソロには見えなかった、鬼の刀の動きが見えなかった。四壊紋のうちの実に半分が当たる前に切り裂かれていたことを知るよしもなかった。
だから。
この結果は当然である。
「ああ……なるほどね……。その刀は……九郎さんの……お手製か……おまけにその動きは静さんかな……」
ソロの首は。
見事に。
胴体との別れを告げていた。
「ソロっ!!?」
コタロウとヅヴァロが辺りを見渡すがその姿はない、ただ瘴気が漂っているのみである。
「ちくしょう!!やりやがったな!」
「うるさい」
「へぶっ!?」
ヅヴァロのビンタがコタロウを黙らせた。
「なんでそんなに冷静なんだよ!!ソロがやられたんだぞ!!」
「こんなので死んだら魔王なんてやってらんないのよ」
「は?でも首が……」
「首がどうしたの?」
そこにはさっきまで床に転がった首を元の位置にもどすソロがいた。
「ええええええええええええ!?なんだお前!?」
「あれ?言ってなかったっけ?僕は死なないよ?」
「めっちゃ長生きらしいことは知ってたが……どうなってんだよ」
「僕が魔王になるときに獲得したのはそういう力ってことだよ。もともとの力と被るところもあるからあんまり有用じゃないけどね」
第一魔王ソロの持つ外法。一法【明日が我の証明】は明日の時間にいる自分を観測し確定させる。
明日の自分がいることが確定しているということは明日が存在している限り今日の自分が死ぬことはないということである。
加えて地球の欠片としての能力【美しき命よ永遠なれ】によって状態を固定しているため時間経過による劣化は発生しない。
ソロを殺すためには明日の世界が存在しないほどの大破壊を起こさなければならないのだ。
「でも困ったな……居場所が分からなくなったうえに。あの九郎さんと静さんのハイブリッドだものなあ」
「私はその二人を知らないんだけど?」
「そりゃあそうだろう、あの人達は色々と特別なんだよ。僕だってそんなに親しかった訳じゃないし。ただその強さは半端じゃなかったね」
「そんなに……?」
「もちろんだよ。確か……刀造りの能力【妖刀工】と武術系の【武】だったけど。元が達人だからちょっと訳が分からないくらい動きに無駄がないんだよ。刀に至っては斬るものの取捨選択が意思で出来るくらいでかふっ!」
話すソロの胸から刀が生える。
「ほら……見てよ、これって心臓だけを貫いてるんだ。骨と筋肉を無視して血管と臓器だけを貫いてるんだよ?」
刀は溶けるように瘴気のなかに消えていく。
「これで二回か……そろそろ動かないとまずいかも……」
「にしたってどうしようもないぞ、俺は見えない相手を凍らせることなんて出来ないしな」
「私はアレを捉えられるか分からないけどやってみる?」
「やめて、あの刀は不定形とかそんなものを一切合切無視して斬るから。たぶんこの瘴気は元第五魔王の自己拡大とほとんど一緒で身体の一部みたいなものだからね。体内じゃ好き放題されるのも当然だね」
「どうすればいいのよ……」
「幸いさっきまでここに【白愛】がいたみたいだから協力してもらいたいんだけど……無理かな?」
「私たち魔王よ。拝氷教が味方になるの?」
「じゃあ俺がなんとか出来るかもな。何てったって俺が始祖だし」
「「あ」」
「忘れてんじゃねえ……それで【白愛】ってのはどんな奴だ。確か聖女だろ?」
「真っ白な女の子だよ【白愛】はいつもそうなるんだ」
「分かった、場所を確認してくる」
コタロウが勢いよく両手を会わせた。
音が響くことはない。振動が生まれることはない。熱さえも生まれていない。
止まっている。何もかも。
時が止まった訳ではない、ただ極低温、極低速の世界になっただけである、しかし全く運動が無くなった世界はもう時が止まったことと同じではないか。
もはやある種の異空間、結界と言い換えてもいい。
コタロウの【この手が届くまで】は止める力であった。しかし止める力は思わぬ副産物を生んだ、温度の低下である。
故に彼は【氷層大帝】となった。
時を止めることはかなわなかったが、それに限りなく近い現象の中で彼は活動する事ができた。
その状態で彼がほかのものに干渉することは出来ずまた使いすぎると自身の身体が朽ちていくがそれでも絶大な力だろう。
「さて、白い女を探すとするか」




