太陽は月を輝かす
ソロはヅヴァロと聖者を連れて地下へと転移していた。
「とりあえず……ここに連れてきたけれど……今にも死にそうだね」
もちろんスモモと同じように聖者もまた存在矛盾による肉体の崩壊が始まっていた。裁定者の心臓五つと精霊の憑依をもってしても半時も保たないであろう。
「あちゃー……これはやっかいだけど……どうしよっかな……?」
ソロの背後におびただしい数の紋章が浮かび上がった。
「この術式は……ちょっと違うか……じゃあこっちかな?」
膨大な時間をもてあました結果完成してしまったソロの書庫、文字ではなく映像ではなく情報そのものを固定化して保存する記憶媒体【結晶記憶】
「これでいっか、僕自身を契約の主体だと誤認させてしまえば問題ないね」
ソロが連結に介入しようとした時、聖者の崩壊は止まった。
「あれ?消えてる。あっちが自分で契約を切ったのか……思い切ったことをするね」
「そんなことはどうでもいい……どうするのこれ……助ける気なんてないでしょ?」
ヅヴァロは不機嫌そうに言った、身体の色も心なしかくすんでいる。
「期せずして手に入ったけど……良いコマになるよきっと……」
「じゃあ洗脳ってことでいいの?」
「そうだね。特に強い力を持ってきた訳じゃないにしては地球の欠片が大きい気がするけど……不確定要素がある方が楽しいよね」
「じゃあ……鼻はなんか嫌だから耳からいきましょう」
ヅヴァロの指が溶け出して聖者の耳へと向かって行く。ヅヴァロの身体はたとえ一片であろうとも自在に動き意のままに動く、身体の中に侵入しようものならば肉体の支配権を奪うことなどたやすい。
「え……ちょっと待って……こんなの……人間の体温じゃない……!?」
聖者の身体は常に燃えさかっている、本人は聖性と痛覚が壊れきっているという思い込み、そして慣れによって何でもないように過ごしているが今の聖者の内部温度は太陽に等しきものとなっている。
「やめとく?あんまり無理して欲しくないんだけどね」
「……この程度で私が引き下がるとわけないでしょう」
ヅヴァロは肉体の性質を変化させ気化しない液体になる、それはもはや液体と呼んで良いのかは分からないが理外の力に理内の法則など無い。
「よし……つながった……けど……なにこれ……先に誰かいる!?」
『好都合である』
聖者の身体が光を放つ、それは暖かく柔らかい命の光。
すなわち太陽の光。
『この者の意識が深く沈んだのであれば仕方がない、我がこの身体を動かしてやろうではないか』
聖者の身体は瞬く間に変貌し、筋骨隆々の偉丈夫と化していた。
『この身体はすごいな……まるで器になるためだけに存在するような馴染み様だ。まさか我の姿が再現されようとは』
聖者の身体を奪った太陽神は手を握るのと開くのを繰り返し何かを確かめている。
「随分な先客もいたものだね……これは大変だ」
「まさか太陽神がいるなんて……」
『ふむ……貴様らは確か……異世界人だな……ちゃんと門も開いておるようだし。肩慣らしにはちょうど良い。出でよ我が矛、我が具足』
スカラベの手に黄金の槍が握られ、その身は神々しい鎧に包まれた。
『我が名はスカラベ、太陽を司る神にして外界から至りし来訪神なり。貴様らにも矜持があらば名乗りをあげる事を許す』
「第一魔王……ソロ・エターナー」
「第二魔王……ヅヴァロ・サァクル」
『魔王か……その称号に恥じぬ勇姿を見せてみろ』
スカラベの身体から光があふれ出す。
「ふー……やるしかないね」
「なんでいつもソロと一緒にいるだけのことができないのよ。嫌になる」
魔王と神の正面衝突は地下で密やかに始まった。
※※※
ニブル・ゴラド王城ではリュウジとリンカの二人が太陽の気配を感じ取った。
「来たかっ!!」
「この反応……間違いない……見てよ龍二……溶けてる」
「ああ……欠片だけだが確かに溶けてる」
二人が見つめるのは氷の欠片、今まで一片たりとも溶けなかった氷の欠片。
それが今わずかに溶け出し始めていた。
「これで取り戻せる……」
「本当にあと少し……」
「「これでお兄ちゃんを取り戻せる!!」」
二人の目には涙が浮かぶ。
しかしそれは一瞬で険しい顔へと変わる。
「おいおいおい……どういうことだ拝氷教。そいつは飾りだろう?担ぎ上げてもどうにもならないぞ?」
「苦肉の策にしたってもう少しやりようがあるんじゃないの?」
二人の目の前には粗末な武装をした人々と自分たちを正面から見つめるお飾りの氷皇ガルシュだった。
「私は変わりました……私はもう無力ではないのです!!」
「無害だから生きていられたというのに……死ね」
蝋で固められた翼から一枚の羽がガルシュへと飛んでいく。それは空気を切り裂きガルシュの喉を貫いた。
「かひゅっ……!?」
「じゃあな……長生きしようと思えばできたものを……俺はこれから忙しいんだよ。行くぞ凛華」
「ちょっとまってくださいよう……殺すなんてひどいじゃないですか……!」
ガルシュは涙目でリュウジをにらんでいた。喉に傷はない。
「……確かに喉を突き破ったはず……」
「外したんでしょ?全く……」
リンカの灰のドレスがざわめくとガルシュが燃え上がった。
「あつっ……あついいいいいいいいいいいい!!!!?」
「さっさと灰になってちょうだい。私たちはやることが「燃やすなんてひどいですよう」え?」
火は消え、ガルシュは依然として健在である。
「いったい何をしたの……」
「言ったはずですよう、私はもう無力ではないと」
ガルシュの微笑みが二人にはひどく不気味に見えた




