山登り 1合目
先代と精霊どもがドンパチやらかしてからは比較的平和に時間はすぎた。小競り合いは多数あったが言い合いになるくらいで殴り合いの大惨事にはならなかった。
あと先代に斬られた腕をくっつける儀式とやらを箱にやらされた。
「さあ私と同じ動きをするのだ、祈りを込めて踊ることで効果が現れる」
多分巫女舞とかの一種なんだろうがこれは完全に盆踊りの振り付けだ、腕を置いた台の前で大まじめな顔して二人で盆踊だよ。罰ゲームじゃねえか。
「どうした、腕の滑らかさがたりないぞ」
しかも厳しいし。
「もっとだ、もっと熱く……もっと優雅に!!」
お前そんなんじゃなかっただろう……ダンサーかよ。
「あ、もういい。これで腕はつく」
唐突だなおい。
「まあ、はじめから空間連結すれば踊る必要もなかったけど」
「それは……はじめに言って欲しかったですね」
俺の時間をかえせ。
あと一つ大きな変化があった。
「旦那様、ワシの前でくらい砕けた言葉遣いをしてもいいのじゃよ?」
「いえ、あの時は特殊な事情が重なっていただけです」
「そんなこと言わずに。張り詰めてばかりだと切れてしまうぞ」
「そういうことではないのですが」
先代が絡んでくるようになった。とても高頻度で。
前のメイリアと同じくらい絡んでくる、非常にめんどくさい。
それ以上にこいつが寄ってくると自動的に俺の周りに殺気が漂い始めるのが居心地が悪い。
隙あらば攻撃が飛んでいくし、先代はそれをヒョイヒョイかわして何事もなかったかのように話し続けるし。それをとがめたら女の事情に関わらないで欲しいとマジな顔で言われたし。
めんどくせーよ。
まあ、それくらいでもう二ブル・ゴラドに行くことになった。
持ち物なんて現地の拝氷教への土産くらいなものだ。
食べなくても死なないのはそうだが、防寒具を着ようとしたら猫と火のやつが恨めしそうな目でこっちをにらんでいたから防寒具すら持っていない。
「それでは出発じゃ」
ちゃんとした防寒具とか食料とかを持った先代の格好が正しいんだろうなあ。
しかし、来るときはヌルッと転移したから分からなかったがこの街すげえ広いな。
「こんなに広かったんですね」
「む?そりゃあそうじゃ。ここは聖地の中でも最も楽園に近い場所カナンじゃからな」
カナンか……絶対これ命名者地球人だろ。
「ここは人類のあらゆる教えの始まりと言われておる。概ねどんな宗派でもここは聖地のはずじゃ」
なーんて便利な場所っていうかそれエルサレムじゃない?宗教戦争勃発地帯じゃない?
「はるか昔はここでも血で血を洗うような戦乱があったそうじゃが……初代勇者が一切も合切もねじ伏せて和平を結ばせたそうじゃ」
無茶苦茶やるなそいつ。
「そこから大きな争いを収める存在を勇者と呼ぶようになったとかなんとか」
「剣聖s「スモモと呼ぶのじゃ」……スモモ様もなにか大きな争いを止められたのですか?」
「まあ……大きな戦いというか……内輪もめみたいなものじゃったがな……。本当の意味での勇者はまた別の資格が必要になるんじゃが」
「その資格とは……?」
どうせ強さとかそんなんだろ?
「これはおいそれと言うものではないんじゃが……まあ旦那様なら良いじゃろう。勇者の資格とは二つある。一つは天命、もう一つは理を外れることじゃよ」
よく分からん、もっと詳しく
「ピンと来ていないという顔じゃな。天命とはまあ指名依頼みたいなものでなぜか自分がやらなければならない状況が次々と訪れるんじゃよ。理を外れるというのは旦那様の体を治した時みたいな特異な力を持つというものじゃ。理を外れるという点だけで言えば魔王と変わらんな」
「魔王と勇者は同じ力を使っているということですか?」
「力自体は同じ原理でも魔王になるかどうかはワシも良く分からなくてな。なぜか魔王の出現は聖堂に察知できるらしくそれで今は第六魔王までいるらしいの」
「何が違うんですかね」
「さてなー、先代は地球人がどうのと言っていたが……ワシにはさっぱり分からん」
「私も魔王には会ったことがありますが……特に共通点があるようには……」
「よく生きておるな……比較的安全な魔王というと三か六かというとこか」
「実は第五とも会ったことがあるんです」
「魔王の半分と会っておるとか……旦那様も難儀な人生じゃな」
「いえいえ、縁で助けられています」
「今回はワシがおるから魔王と正面戦闘になっても時間を作るくらいは楽にできるぞ」
得意げな顔で言うなら楽に倒せるくらいは言って欲しいものだが……なんにせよ俺が逃げる時間を稼いでくれるのかご苦労。
「そろそろ正門が見えてくるぞ」
でっけー、凱旋門みてー。僧兵みたいなのがずらっといるがこれ通れんの。
「まあ、ワシは顔パスじゃから楽でいい。ワシの仲間ということで旦那様もそのまま素通りできるじゃろう」
これが権力か……おれにはなかった力だ。金の力はあっても権力とは無縁だったからな。
「ワシと一緒で良かったじゃろ?本来なら申請を出してから最長一週間ほど待たされることもあるんじゃぞ」
イラッとした。
「私は今は紅蓮の聖者ではありませんから……仕方ないですね」
「いやっ……そういう意味じゃな……その……すまぬ……」
ざまあ、不用意なことを言うからだ。
「あっ!勇者様!!お通りですか?」
うわっ、僧兵の目がきらっきらしてる。勇者って憧れの存在なのか……。
「今からニブル・ゴラドへ行くのじゃ。後ろの方はワシの仲間じゃから一緒に通るぞ。問題はないな?」
「わ、分かりました。それではどうぞ」
「勤めご苦労、これからも励むように」
「はいっ!!ありがとうございます!!」
本当に顔パスなんだな……。
「さあ、北へ向かうのじゃ」
どうでもいいけど勇者一行のメンバーになる気はないからな。
あくまで俺が主体だから。




