鬼の恩返し(戦)
先代勇者スモモの戦闘には大きく分けて三つのスタイルがある。
一つ目は影の物量で相手を押しつぶす。これは格下を大量に相手をするときに使用。
二つ目は自らが刀を振るい斬り捨てるこれは相手が少数であるときに使用。
三つ目は影で作った乱戦状態の中をスモモが動き回り必殺の一撃を見舞う。これがスモモが本気で戦うときに使用する。
影自体の戦闘力は決して低くないが僕である三匹の獣以外はあくまで影であるために強敵相手には目くらまし程度にしかならないためだ、それでも復活し続ける大軍は悪夢というほかない。
そして今スモモは三つ目の戦い方を選択している。
精霊と裁定者達を四方から影で攻撃しつつ一撃で仕留める機会をうかがっていた。
「流石に裁定者全部と精霊二柱とはやり合うのは初めてじゃが……凄まじいな……」
スモモの前に立ちふさがったのは災害と等しき超存在である。
騎士団長に圧倒されたり普段の言動によって薄まっているが彼女らもすさまじい力を有している。
「こんな影なんて……!!」
ポウの焔は影を瞬く間に焼き尽くしていきその間に身を潜めるスモモをあぶり出す。
「そこか!!」
焔が槍を象りスモモへと放たれた。
「厄介な……火じゃな……!!」
スモモの刀は槍を切り捨てたがその姿をさらしてしまう。
「……とらえた」
ジーボの干渉によって地面が瞬間的に沼となりスモモの足を絡め取ろうと動き出す。
「この足場はご免じゃ」
「……その先は……地獄行き……」
跳躍によって逃れた先には既に岩の牙がむき出しになっていた。
「なんと……見た目にそぐわず狡猾じゃのう……じゃが……」
肥大化した腕を振る猿の影によって岩の牙は砕かれる。そのまま猿の影はジーボへと襲いかかった。
「……きらい……このサル……」
牙を避けたスモモは嫌な予感を信じて瞬時に身をかがめた。すると先ほどまで顔が合った場所に水の玉が出現していた。そのままでいたならば今は窒息していただろう。
「あら避けたのね?」
「次から次へと……」
「これならどうかしら」
三つ現れた水球が無数に枝分かれしながらスモモへと迫る。
「触れただけでおしまいよ」
「この水……ただの水ではないな!?」
水を切り裂くことで当たるのを巧みに避けていくがわずかに触れた服の端は消失した。明らかに尋常の水ではない。
「まともに相手なぞしてられんのじゃ」
強烈な踏み込みによって大量の粉塵が巻き上がりワツミの視界を塞ぐ。
「小癪な……!」
「さらばじゃ」
スモモが再度影の中に身を沈めようとしたとき刃のごとき風がスモモの髪を数本断ち切った。
「逃がさないぞ!!」
「良い切れ味じゃ……ワシの村正には負けるがな」
スモモは風の刃を両腕に纏わせたレンの攻撃を一刀のみで捌いていく。
「むー!!なんか上手くあたらない!!」
「そう簡単に当たっては師匠に合わせる顔がないじゃろう?そうらっ!!」
スモモの刀がレンの両腕を跳ね上げる
「うわっ!?」
「まずは一人……近づいてきてくれて助かった……」
ガラ空きの胴を橫薙ぎにするスモモの刀
「うわー!やられたー!!……ってあれ?」
「これはっ!?」
その刀身は鍔から先が消失していた。刀身は少し離れたところにぽつんと浮かんでいる。
「全く……危ないわね」
「空間操作とは……相性が悪い……!!」
パンドラの空間操作によりレンへの攻撃は無効化された。
「その刀……普通の刀じゃないわね、こんなに干渉しにくいのは初めてよ」
「ワシの親の手製じゃ。何でも斬れるぞ?」
軽口を言いつつスモモの意識は周囲の空間歪みと風の収束に向けられていた。
「隙あり!!」
「ここよ!!」
歪められた空間のドームに閉じ込められその中を暴風の刃が吹き荒れる。
「隙じゃと思ったか?違うわ……罠じゃ」
スモモの一閃が空間を切り裂く、風と歪みのバランスが崩れ爆発に似たエネルギーの放出が引き起こされた
「うわっ!?」
「空間を……刃物で!?」
二人の意識が一瞬離れた隙にスモモは身を翻し影の中に身を紛れ込ませる。
「身を隠すのも一苦労か……勝てるのか……いや……勝つしかないのじゃ……」
ようやく一息ついたスモモの顔には冷や汗が伝う、今までの行動を一つでも間違えば即死に直結する状況である。体力も精神力もすり減っていた。
それも一瞬の合間があれば回復するのだが。それを許されないほどの密度と威力をもつのが今の相手である。
「せめて……数が半分なら……いやもしもを語っても仕方ないか……」
スモモと裁定者そして精霊というカードはスモモが圧倒的に不利である。遠距離、中距離が主戦場の相手に近接戦闘特化のスモモではあまりにも相性がよくない。
それでも影の間を縫って接近することが可能だが同時に攻撃できるのが一人である以上横やりによって無効化されてしまう。
「これは厳しい……このままじゃこっちが削られて終わりじゃ……どうしたものか……」
それでも彼女は勇者である。
勇者になんとかできない状況など存在しない。
そういうものなのだ勇者とは。
「あ……アレがあったか……使ったことがないからすっかり忘れておった」
スモモは懐から何かを取り出した。




