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絶欲モンスター  作者: ジラフ
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鬼の恩返し(裏)


先代勇者スモモは鬼である。


鬼であり人であり勇者である。


鬼の子として命を授かり人として育てられそして鬼を滅ぼした。


鬼を滅ぼした後に降りかかった災難もまた斬り伏せた。


そんな女だ。


彼女がどのような経緯でもって鬼を滅ぼしたかは問題ではないが彼女が理外の法に目覚めたのは確実にそれに起因するだろう。


彼女が身につけた外法は【哭きつづける鬼の涙】


時間回帰にも等しい回復の力を有するこの力は彼女の体液を対象の負傷に応じて体外に出す必要がある。極論で言えば本当の意味でなんでも良い。彼女はもっぱら血液を用いることにしているがその気になれば唾液だろうと汗だろうとその能力は発動できる。


それだけならばこの力はただの高位回復魔法と大差ない、だがこの力の真価はそこではない。真に恐るべきなのはその効率である。致命傷を受けたとしても呼気に含まれる自らの水分で十二分に足りる。


これを彼女が自分以外に使うことは滅多にない、これは彼女がこの能力を良いものだとは思っていないことが理由である。大切なものを捨てていった先に手に入れた力を忌避するのもあるが自然のままにあるべきものを自らの都合でねじ曲げるのを嫌っている為である。


聖者に対して使用する際にも少し深めに息を吐くくらいで足りたのだが慣れていない為に手首を切って過回復させてしまうという結果を生み出している。血液を使ったのは初めてのため血液による生命連結が起こったことはスモモが知るよしもない、


しかし、考えてほしい。この力は望む望まぬは置いておいて鬼を滅ぼしたことで手に入れたものである。


つまり鬼を滅ぼすまでの彼女は特別な力を使わずに戦ってきたのだろうか?


彼女が戦ったのは外法を身につけていないが故に魔王とは呼ばれなかったが代わりに覇王と呼ばれた存在であった。


鬼という種族は極東にある島国に住む亜人の一種であるが角を除いてほぼ人間と変わらぬ容姿であり強靱な体を持つがそれだけである。天狗のように空を飛んだり妖狐や化け狸のように特異な力を有するわけではない。


先代の勇者である騎士団長は勇者となることで初めて魔王と戦う資格を得て、幾多の仲間の犠牲と神々のバックアップをもって今に至る。


では彼女は?


彼女の仲間と言えるのは道行きで僕となった獣三匹だけであった。


一匹は大神とも呼ばれた巨大な犬


一匹は大岩から生まれたとされる猿


一匹は緑の羽根を持つ鳳であった


その他は彼女の持つ武器は育ての親からもらった刀と瞬間的に能力を引き上げる秘薬のみ。


それで覇王と呼ばれた強大な敵を打倒しうるのか。


できる。


できるのだ。


彼女の育ての親である二人の名はクロウとシズカという名前であった。


彼らは隠遁生活をするにはあまりにも不釣り合いな力を持っていた。


クロウの持った鎚で創られたものは農具であれなんであれ恐るべき力を持っていた。


シズカの持ったものは棒きれだろうと何だろうと凶器と化した。不可解なほどに高い技術を持っていた。


クロウの作りあげた刀は村正と銘打たれスモモの手に渡り、シズカの技術は余すことなくスモモに刻まれた。


それらを自在に操るスモモは覇王を打倒した。


そして……勇者となり……親を失い……つながりを失い……仲間を失い……名を失い……一人になった。


スモモは剣聖となり先代の勇者となった。


そして今もういちど、勇者はスモモになった。


「良かった……間に合った……せいじゃどの……いや……だんなさま」


鬼のしきたりになぞ縛られる必要はスモモは全くないのだが都合の良い制度を思い出したためスモモは聖者を旦那様と呼ぶことにした。意外とちゃっかりしているのだ。


だがスモモは精霊と裁定者が聖者に憑いている理由を知らない。


故に、この瞬間まで押さえつけられていた彼女らが聖者を傷つけただけでも激怒していたところに旦那様発言で一週回って無表情になっていることに気づかない。


その戒めが解き放たれた瞬間にスモモに向かって一人に向けるものでは決してない大破壊が訪れることが決定していた。


「っ!?」


だがスモモが何かを感じ取り聖者を担ぎ上げて修練場に向かって走り出す、辛くも聖堂内部が大破壊に巻き込まれることは避けられた。


修練場に聖者が入った瞬間に聖者の周囲に壁のようなものが展開されまもなくあらゆるものを破壊せしめる暴力が解き放たれた。


スモモは突然のことに吹き飛ばされる。


「なんじゃっ!?」


スモモの視界をふさいでいた攻撃の嵐を切り裂くとそこには五人の裁定者、二柱の精霊が顕現していた。


「これはこれは……なんとも壮観な景色じゃな」


「多くは語らない……死ね」


ポウの焔がスモモに向かって放たれた。焔の顎はスモモを飲み込むべくその口を大きく開けて飛んでいく。


「ふふふふ……負けられない戦い……これがそういうものか……出でよ我が友」


焔を砕く三つの影がある。


それはかつての仲間たち、三匹の獣の影。死してなおスモモに寄り添う魂の姿。


「無駄……全部焼き尽くしておしまい」


「ん?まだまだいるぞ?」


「何を……?」


スモモの影から出る影は様々な形をしている。鬼のようであったり人のようであったり。


「あ……思い出した。先代勇者は技の勇者だけどもう一つ名前があったわ」


「大精霊……もう一つは?」


「不死身軍隊の勇者よ……」


「「「「「「え?」」」」」」


「さあ、死合おうぞ」


【哭きつづける鬼の涙】は回復能力であるがそれは能力の一面である、涙を流した対象……もしくは何かがあったときに涙を流してしまうような相手を涙の影として内包するのもまたあふれ出る涙の業なのだ。もちろん回復能力はそれらの影にも作用するばかりか本体であるスモモが回復すれば影までも回復するという文字通り鬼仕様である。






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