勇者
おれぁ勇者なんてガラじゃなかった。港の田舎町で大工として生きていければそれで幸せだったんだ。だが、そのささやかな望みはあっけなく崩れ去った。
海を支配領域とする第4魔王が侵略を開始した。その最初の被害にあったのが俺の街だった。
ああ、今でも鮮明に思い出す。
海から上がってきた化け物どもは一様に水の衣をまとい陸場へ上がるというハンデなんてないかのように動き始めた。
「なんだあれは!?あんなの見たこっ」
漁師のおっさんの額に穴が開く。圧縮された水が貫いたんだろう。
当時は何が何だか分からなかったが今なら分かる。
『すまないね、私はうるさいのが大嫌いなんだ』
水の膜が空中に何かを映し出した
『どうも人間諸君。私は君たちに第四魔王と呼ばれる者だ。誠に勝手ながら君達に宣戦布告させてもらう』
そいつは魚を十倍凶悪にしたような面をしていた
『私は君達の領土を侵略する。滅ぶのが嫌ならば私を討てばいい。待っているよ』
地獄はそこから始まった。
水棲生物の形を中途半端に人に近付けたような一軍が殺戮を始めやがった。街の人間は散りじりに逃げたが圧倒的な身体能力の差によって捕らえられる。
パン屋の親父は頭からサメの餌食に
酒屋の娘はカニによって断頭
金物屋のジジイは孫を庇いながらもろともタコの足に貫かれた
農家の夫婦は貝の毒針で即死
隣に住んでいたガキは妹を守るためにエビに挑み撲殺された
俺だって例外じゃない、なんとかして逃げようとしたがすぐに捕まる。なぜかすぐには殺されずに拘束された。少しして声が聞こえた。
『ふむ……君が最後の一人らしい。ならば我々の脅威を伝える役目を与えよう。町々へと渡って伝えるといい。第四魔王が来るということを』
「殺したほうがいい。さもなければ俺はお前を殺しに行く」
『ふっ……君がそうなることを願っているよ』
俺は自分を恥じた。侮られたことではないそれを聞いて命が助かるということを安堵したことをだ
『ただ放逐するのも面白くないな。それに君の証言だけじゃ弱いだろう。腕に刻印を入れようじゃないか』
「がああああああああああああああ!!?」
俺の両腕に見たこともない模様が刻まれていく
深く深く刻み込まれたそれはひどく痛み、ドス黒い血をにじませた
『さあ、我々がいかに悪辣で無慈悲で残酷なのかを伝えに行きたまえ』
腕に引っ張られるように体が動く
「絶対に……絶対にお前を殺してやる……首を洗って待ってろ魚……!」
『その意気だよ。せいぜい頑張ると良い。次にまみえる時は君が勇者と呼ばれていることを願っているよ』
そして俺の足は隣町へと向かって行った。
それからどれだけの月日がたっただろうか俺はいつしか勇者と呼ばれるようになる。
その後第四魔王を殺すまでの話はまた次の機会に思い出すとしよう。それと比べたら第五魔王の方は因縁というものは直接的にはない。
その魔王を殺さなければならない理由はあったがそれは今語ることではない。
奴は巨大な木だった。樹齢数万という木が変化したものらしい。第四魔王は液体の絶対支配権を持っていたが、第五魔王はスケールが違った。
奴がいた広大な森の空間すべてが奴だった。
魔王と呼ばれる為の理外の力、五法自己拡大。
周囲と自分の境界を侵食して自分という存在の範囲を広げる力。指先を動かすがごとく土地を変形させ、目線を動かすように重力を操作する。
まともにやったら勝ち目などない、方法などとてつもなく広い森を一息に消し飛ばせるような圧倒的破壊が必要だろう。
俺には当時そんなことはできなかった。つまり第五魔王のやったことは自殺だった。。
自己拡大を応用しその逆をやったんだ、言うなれば自己縮小とでも言うものだろう。自分のすべてを圧縮した結晶を俺に差し出した。そこで話されたことはとうてい信じられるものではなかったが、第四魔王が死ぬ前に言っていたことと同じような内容だった。今はよく分かるが……。
内容はこうだ「侵略者を皆殺しにしろ。さもなければこの世界は我らのものではなくなる。その為の力を集めろ」
やがて俺は二体の魔王を殺した勇者として聖性を得た。血に染まった俺が聖者などとのたまう天使が降臨したもんだから救えない。速攻で聖性とやらをぶん投げてやった。少しだけ見えたガキが驚愕の表情をしていたことだけなぜかやたらと印象に残っている。
そして、世界を回りながら色々なものを見て奴らの言っていたことを理解した。幸い時間は腐るほど在った。
結論としてこの世界は危機に瀕している……神にも手が出せない。違うな神だからこそ手が出せない。高次元の神に対してこの世界の神は何もできない。
この世界に生きる人間がなんとかしなければならない。侵略者を……いや地球人を皆殺しにする。
世界を救わなければならない、おれは皆に託されたこの世界を奴らの手に渡したりはしない。
第四魔王の後釜も既に埋まっています




