16.霊界へと…お還りなさいっ!
『亮太っ!亮太っ!聞こえる!?』
『き、聞こえるって。声は小さくなってるけどな…』
霊たちの声の影響ではない。明らかに小さく、そして遠くなった亮太の声。
『霊界に近づくと、声は届きにくくなるわ。完全に聞こえなくなった時が、アンタの最期よ。』
『マ、マジかよ…。』
かなり聞こえなくなってる気がするぜ…。焦りの声が届く。
『まだ呼びかけてみるわ。もう少しの辛抱よ。』
もう一度、深呼吸をする秋絵。
『此処にいる霊たちよ!その命は貴方達が持って行ってはいけない命です!すぐに離れなさい!』
『アツイ…アツイ…』
『イタイイタイイタイ…』
『ネエドコ…ドコナノ…』
『ウゴケナイ…ウゴケナイ…』
『貴方達の行いは、尊い命を無駄にしようとしています!それは如何なる神も許したりはしないでしょう!』
『アツイ…アツイ…』
『イタイイタイイタイ…』
『ネエドコ…ドコナノ…』
『ウゴケナイ…ウゴケナイ…』
相変わらず明確な返事はなかった。
『秋絵。』
『なに!?』
『…俺はもう、諦めるよ。』
優しい声で、亮太はそう告げた。
『何言ってんのよ!私が信じられないの!?』
『違うさ。ここまで霊を何とかしてきたのは、他の誰でもない秋絵だろ?目の前で見てきた俺が、信じられないわけないじゃないか。』
『じゃあ何でよ!何で諦めるなんて言い出すのよ!』
『…お前が一生懸命やってるの見ると、何もできない自分が悲しくなってくるんだ。』
『仕方ないじゃない、私だって仮にそうなったら、おとなしく助けを待つしかないんだから…』
そうは言いつつも、自分の無力さを噛みしめる秋絵。
『俺のことは諦めろ。今度は準備を整えて、この霊を鎮めてくれよ。』
『イヤッ!ここまできて、今さら諦められるわけないじゃない!』
うっうっ…と涙がこぼれてきた。
『私だって…必死にやってるんだからぁ…!信じなさいよぉ…!』
『信じてないわけじゃないよ。ただ、今回は相手が無謀すぎた。』
亮太の声は、かなり小さくなっていた。
『そんな泣くなよ。俺がいなくなったところで、生きていけないわけじゃないだろ。』
『生きていけるわけないじゃない!誰が…私のこと見てくれるのよ…』
『それはお前が気づいてないだけだろ?周りはお前のことを、ちゃんと見てるよ。明日も元気に登校すれば、誰かがおはようって言ってくれるよ。』
まあ俺は言ってもらえないけどな。つくづく一人ぼっちってのは辛いよな。
『さあ行けって。お前に覚えていてもらえれば、それだけでも幸せもんだよ俺は。』
『ヤダッ!絶対に行かない!』
『行かないって、俺が死ぬのを見物するのか?』
『違うっ!何で…そうやって簡単に諦めたりするのよ!』
必死な声で訴える秋絵。
『お前ならわかるだろ?出来ることと出来ないことの違い。これは出来ないことなんだから。』
『わかるわけないじゃない!勝手な屁理屈並べないで!』
『いいから、俺のために頑張るなよ。』
『何でよ!何でそんなに死にたいの!?』
『死にたくなんかないさ。…でも、もう覚悟は出来た。』
首なし男に襲われたとき、覚悟は決めたからな。もう怖くなんかない。
『短い間だったけど、一緒にいれてよかったよ。』
『イヤッ!』
『早く本物の彼氏つくれよ。自分を理解してくれる、本当のパートナーをな。』
『…。』
俯く秋絵。
(これでいいんだ。これで…)
身体が引っ張られる感じがした。いよいよ、連れていかれるんだな…
『亮太…』
『なんだ。』
何を伝える気だろうと、秋絵の声に耳を傾けた。
『私に、諦めるって言葉はないからね!』
スッと立ち上がった秋絵。いつものような、鋭い目つきの秋絵。
『!!おい、それは…』
『何も言わないで!』
背中に手を伸ばす秋絵。長い弓が、姿を現した。
『やめろ!それを使ったら、案内人になれないんだろ!?』
『うるさいわね!ちょっと黙ってなさい!』
御魂骨の弓に添え、ゆっくりと引き始める。
『アンタが死ぬくらいなら…』
御魂骨は光り輝きながら、一本の矢へと変化していく。
『私の力なんか、もう要らないんだから!』
細く、光輝く矢の姿がそこにあった。
『最後の警告です!今すぐに、その命を返しなさい!でなければ、貴方達を此の世から追放します!』
力強く放った言葉。
『アツイ…アツイ…』
『イタイイタイイタイ…』
『ネエドコ…ドコナノ…』
『ウゴケナイ…ウゴケナイ…』
『返答はなかったものと判断します!』
グッと弓を引き絞り、狙いを定めた。
『霊界へと…お還りなさいっ!』
ピンと張り詰めた弦を一気に解放した。
“バシュウ!”
真っ直ぐな矢が、光をほとばしらせながら突き進んでゆく。矢は浮き始めた亮太を貫いた。
“ドン!”
『アツイ…アツイ…』
『イタイイタイイタイ…』
『ネエドコ…ドコナノ…』
『ウゴケナイ…ウゴケナイ…』
霊の声。その声は、だんだんと小さくなってゆく。
“シャンシャンシャンシャン…”
光が降り注いだ。暗闇を、どこまでも照らす眩い光。
“パアア…!”
“ドサッ”
「ぐうっ…」
光の爆発と共に、空中から放り出されるように解放された亮太。
「痛てて…無茶しやがって…」
頭を擦りながら、周りを見渡す亮太。
「秋絵っ!」
目の前に秋絵が倒れていた。
「おいっ、大丈夫か!」
「う…うう…」
目を開けたのがわかり、ホッとする亮太。
「何やってんだよ…俺なんか助けてさ。」
「アンタこそ、なんで諦めるなんて言い出すのよ…」
立てそうにない秋絵を背負い、階段を下りる亮太。
「ゴメンね…迷惑かけちゃって…」
「そんな台詞が出るなんて、お前らしくもない。」
「うるさいわね…迷惑かけても謝らないほど…私は子供じゃないわよ…」
弱々しい返事。
「アンタが…死ななかったんだから…いいじゃない…」
「…そうだな。」
首を回して秋絵の方を向き、
「ありがとう。」
お礼ってのを、久しぶりに言った気がするな。
空は明るくなりかけていた。




