15.霊界へと導かれ
連れていかれたのは、四階にある図書室だった。
「いい、よく聞くのよ。」
図書室に置いてある学校の見取り図。机に下ろすと、秋絵は説明を始めた。
「私はね、この学校に来てから全部で七つの霊と出会ったわ。」
「七つか。俺が知らない間に…」
「一人でやったんだからね。…そうじゃなくて、続きよ。」
カウンターから太いマーカーを探すと、校舎の屋上へ丸を描いた。
「“飛び降り自殺の男子生徒”。私が最初に出会った霊よ。見つけたのは屋上だったわ。」
「“飛び降り自殺の男子生徒”?」
「詳しい説明は省くわ。だいたい予想はつくでしょ。」
再び、見取り図へ目を落とす亮太。秋絵はさらに丸を描いていった。
「次は“体育館の生首”。出会ったのは、もちろん体育館。」
「…。」
体育館に丸を描いた後、旧校舎の三階に丸を描いた。
「“旧校舎の合わせ鏡”。」
理科室へとマーカーが走る。
「“理科室の探し声”。」
「…。」
亮太は、これを黙って見ていた。
「次は“音楽室のピアノ奏者”。ここからはアンタもいたわね。」
「ああ、よく覚えてるよ。」
音楽室に丸を描いた。
「そして、“図書室の少女”。」
「最後は“.職員室前廊下の首なし男”ってわけか。」
見取り図に七つの丸がついた。
「霊と出会う場所ってね、その霊が最も因縁を持つ場所なの。この霊たちは、それぞれの場所で影響力を持っていたことになるわ。」
「ふーん…。」
まるで学校すべてを占めるかのように分散配置された霊…んっ?
「ちょっと待て、一番広い運動場に霊はいないのか?」
「そこよ、一番気になったのは…。」
三国中学校敷地、その三分の一を占める運動場に何もない?
「いかにも怪しいでしょ?でも、何も見つけられなかったの。」
「偶然か?それとも何か…」
窓際から運動場を見る亮太。真昼であれば、運動場を一望できる場所だ。
「!?」
運動場の真ん中に…光?
「秋絵、あれは…?」
「えっ…!?」
秋絵が息を呑む。
運動場の真ん中に、オレンジ色の光。徐々に人の形へと変化していく。
「うわっ!」
真ん中だけではなかった。体育館の前、倉庫の裏、ネット際…。オレンジ色の人影が、まるで地中から生えてきたかのように増え始めた。
「な、なによこれ…」
「おい…あいつら全員、校舎へと入ってくる気だぞ…」
ワラワラと人影は校舎へと向かっていた。その後から後から、次々と人影は増えてくる。
「逃げるわよ!手に負える相手じゃない!」
「お、おう!」
図書室を出る二人。目の前の階段を下りようと…
「うわあっ!」
すでにオレンジ色の人影は来ていた。一人、二人、三人…、ドンドン増えてくる。
「向こうの階段を使うわよっ!」
反対側の階段を使うべく、廊下を走り抜ける秋絵。
「な、なによ…!」
反対側の階段にも、すでに霊は姿を見せていた。
「体育館の階段から脱出するわ!ついてき…」
振り向き、ハッとした。
(うそでしょ…!?)
いつの間にか、そこに亮太の姿はなかった。
(いつから?階段まではいたのに?)
必死に記憶をまさぐるが、目の前から迫る霊から逃れるしかなかった。
(くうっ!)
キッと来た廊下を睨む。その廊下まで霊は来ていた。
(亮太、待ってなさい…)
秋絵は上りの階段を駆け上がった。
“バァン!”
「ハァ…ハァ…」
息を弾ませながら、屋上の扉を開け放した。
「っ!」
オレンジ色の人、人、人。しかし一番気になったのは、
「亮太っ!」
真ん中に亮太が立っていた。が、
(立っているにしては、ふらついてるわね…)
嫌な予感がした。まさか…
神霊石を握り締め、霊へと訴えかけた。
『此の世に居座る数多の霊たちよ、此処は貴方達がいるべき場所ではない。すぐに霊界へと還りなさい。』
返事はなかった。
『此処は貴方達にふさわしい場所ではない。…すぐに霊界へと還りなさい!』
もう一度、語尾を強めて言った。
(…。)
やはり返事はなかった。
(やっぱり、亮太は…)
『亮太、聞こえる?』
神霊石を強く握り締め、目の前にいるはずの亮太へと問いかけた。
『何だこれは?身体が言うことをきかないぞ!?』
焦る亮太の声。
『落ち着きなさい亮太。何があったのか教えて。』
『突然、秋絵と別れて…。たくさんの霊に襲われたんだ。』
霊が秋絵を取り囲み始める。構わず秋絵は続けた。
『おそらくアンタは、霊にとり憑かれたのよ。それで体の自由がきかないの。』
『どうなるんだ、俺は?』
『時間が経つと、そのまま霊界へと連れて行かれるわ。』
『霊界へ!?ってことは、俺は…』
それ以上は言いたくなかった。
『…死ぬわ。』
絞りだすような声だった。亮太が息を呑んだのが伝わってくる。
『どうすればいいんだ?もう死ぬのは確定してるのか?』
『私が霊と交渉するわ。…全力でね。』
スゥーっと息を吸い、呼吸を整える。目の前の亮太に、霊に向き合った。
『我が前にいる霊たちよ、貴方達は此処にいても望むものを手に入れることは出来ない。』
返事がないのを承知で続けた。
『貴方達の苦しみは理解している。しかし、今此の世に生きる命の存在を脅かしてよいことはない。』
返事は返ってこない。
『その命から離れなさい。…離れなさいっ!』
『アツイ…アツイ…』
『イタイイタイイタイ…』
『ネエドコ…ドコナノ…』
『ウゴケナイ…ウゴケナイ…』
突然、多くの声が入ってきた。どの霊が何を言っているのか、さっぱりわからない。
『霊達よ!今すぐに、その命から離れなさい!』
『アツイ…アツイ…』
『イタイイタイイタイ…』
『ネエドコ…ドコナノ…』
『ウゴケナイ…ウゴケナイ…』
反応らしい反応はなかった。
『おい、大丈夫なのか?』
『っ!亮太っ!』
亮太の声は遠くなっていた。




