↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/17

14.潔く…退きなさいっ

“カツン…カツン…”

 足音が近づいてくる。あの時、信じられない恐怖に怯えたあの日と同じ足音…。

(くっ…)

亮太は階段を駆け下りた。

“ドッドッド…”

心臓が早鐘のように打っている。

「ハッ、ハッ…」

一階職員室の前の廊下、夜の学校の姿がそこにあった。

(…秋絵を探そう。)

弾んだ息を落ち着かせるかのように歩き始めた。

(二階にいないとすれば三階か?いや、二階の奥にいる可能性も…)

秋絵の場所をアレコレ考えつつ、反対側の階段へと向かう。

 …その時だった。

“バターン!”

大きく重い音。突然、廊下の向こう側にあった古時計が倒れた。

“パリン!パリン!パリン!”

間髪入れずガラスの割れる音。

(っ!?)

フッと見た横の壁を見て、思わず後ずさりした。真っ赤な血が一面に広がっていたからだ。

“カツン…カツン…”

再び聞こえた足音。思わず振り向いたが、

(なっ!?)

誰もいない。どこからともなく聞こえてくる足音。

“カツン…カツン…カツン…カツン…”

頭の中は足音で一杯になった。何も考えられない。めまいがした。吐き気を催す。

“バタッ”

その場にへたり込んだ。身体に力が入らなくなっていた。

(…。)

すぐ後に人の気配を察した。いや、

(…人間なんかじゃない。)

ガクガクと手足が震える。振り向かずとも、後にいるのが何なのかわかる。

“ソワッ”

(ひいっ!)

首に何かが触れた。

(手だ…冷たい手…)

手はゆっくりと亮太の首を締め付けにかかった。振りほどこうにも、力が抜けていく。

「うっ…」

段々と息が苦しくなってくる。

(そうか…俺、死ぬんだ…)

まさかこんな形で最期を迎えるとは思わなかったな。明日には俺の死体で、学校がニュースにでも出るだろう。

 涙が溢れてきた。誰にも気づかれずに死ぬのは嫌だ。でも…もうどうしようもない。

(せめて、秋絵だけには見ていてもらいたかったな…)

『何バカなこと考えてるのよ、アンタ男でしょ?』

薄れていく意識の中、秋絵の声が頭に響く。

(うるさいな、一人ぼっちの俺が働いたんだ。許してくれよ。)

でも最期に秋絵の声を聞けてよかったよ。


 …ん?

(何で秋絵の声が聞こえるんだ?)

ハッと気づいた。意識がハッキリしてくる。手に力も入ってきた。首にまとわりつく、冷たい手も感じない。

「秋絵…!」

廊下の向こう側、緑色の光を放って秋絵は立っていた。

「それで働いたつもり?それじゃあ社会のゴミクズね。」

「言ってろ。まだ働いたほうだ。」

フン、と鼻で笑った。身体に力が戻ってくる。

『此処は貴方のいるべき場所ではありません。還るべき場所へ還りなさい。』

秋絵の声が響いた。亮太はゆっくりと立ち上がる。

『首ヲ…ヨコセ…!』

後には首なしの霊。だが亮太は、しっかりと見つめることができた。

『貴方が欲しいのは首ですか。ですが、何人の首も渡すわけにはまいりません。』

強く太く、秋絵は言い放つ。

『貴方の存在は、此の世の人間の存在を脅かしています。貴方はそれでいいのですか?』

『首ヲヨコセ…首ヲヨコセェ…』

細く、しかしはっきりと聞こえる霊の声。

『貴方は大日本帝国の臣民、それは無礼をわきまえぬほど愚かな存在なのですか。』

『…。』

何か言ったようだったが、聞き取れなかった。

 秋絵が間髪入れず、さらに攻める。

『陛下は臣民が落ちぶれるのを望んではおりません。』

『我々ハ…大日本帝国ハ…』

『覚悟を決めなさい!貴方も帝国陸軍軍人なら、潔く身を退きなさいっ!』

秋絵が神霊石を差し出した。緑色の光が周囲を覆った。

『さあ!霊界へとお還りなさいっ!』

緑色の光が激しくなっていった。

(いつ見ても、眩しいな。)

光は全てを覆い尽くした。


 光が消えると、そこにはいつもの廊下があった。

「あれ…?」

古時計、窓ガラス、壁…。

「元に戻ってる?」

「ああ、これね。」

ポケットへ神霊石をしまう秋絵。

「霊はね、この世の人間と会うと独立した空間を作るのよ。」

「独立した空間?」

「そう。」

脱靴場へと向かう二人。

「今、私たちがいるのは“この世”。対して、霊が成仏する先は“あの世”。」

「じゃあ俺らは一時的に“あの世”に連れていかれたのか?」

「違うわよ。霊はね、“この世”と“あの世”の間に独自の空間を作るの。異次元空間だと思ってくれて構わないわ。」

校舎を出る二人。時間は2時をまわっていた。

「その異次元空間に、この世と全く同じものを作り上げ私たちを招いてるってわけ。」

「ああ、なるほど!だからケータイの電波が途切れるわけか!」

じゃあ死んでも死体は発見されないのか。今更ながらゾッとする。

「でも、」

「ん?」

「アンタも、以外にセンチメンタルなのね。」

「いやっ、あれは…」

言い訳ができなくて、困り果てる亮太。

「し、仕方ないだろ!本当に死んじまうかと思ったんだからな!」

「それは、アンタが勝手に歩き回ったからでしょ?」

「お前だって、糸垂らしてくれなかったじゃないか。それで心配してだな…」

「私はちゃんと垂らしたわよ。受け取らなかったアンタが悪いんじゃない。」

「ないものは受け取れないだろ…」

言ってみた言い訳を反論され、完全にKOした。

「ま、霊の仕業だから許してあげるわ。」

ふふっと微笑んだ秋絵。不意の笑顔にドキッとする亮太。

「さて、帰りましょ。」

「ああ、明日の授業に遅刻しちまう。」

結局、弓は使わなかったねー。門に手をかける秋絵。

(ようやく、終わったな。)

もう夜の学校を見ることはあるまい。亮太は校舎を見上げた。

(…?)

何かを感じ取った。

(いつもの…校舎じゃない…?)

白い外壁の四階建て。見渡してみたが、おかしなところはどこにもない。

(いや…何かがおかしい。)

「亮太…」

秋絵の声にハッと振り向く亮太。

「ああゴメン、すぐにかえ…」

「何か、怪しい雰囲気だわ。」

先ほどのまでの笑顔はなかった。鋭い視線で、真っ直ぐ校舎を見上げる秋絵。

 暗闇の中の校舎は、何かを発しているようにも見えた。

「まさか…霊が残ってる…?」

秋絵の言葉に、息を呑む亮太。

「ちょっと来て!」

グイッと亮太の腕を引っつかみ、校舎へと戻る秋絵。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。