13.これが最後
“…バタン”
「ふぅ。」
11月の冷え込んだ風に耐えかね、教室の窓を閉める亮太。
(昼休みなんてなくして、早く帰らせてくれればいいのに…)
自分の席へと座り、パカッとケータイを開いた。
「ん?」
未読のメールが入っている。母さんかな?
『今日の昼休み、職員室前集合。遅れたら、ただじゃ済まないからねっ!』
「いつの間に!?」
はっと教室を見渡す。秋絵の姿はコツゼンと消えていた。
(しまった…これはマズいぞ…)
慌てて教室を後にする亮太。
“タッタッタッタ…”
「ハァハァ…」
息を荒げつつ、一階の職員室へと向かった。
「遅いじゃない!10分の遅刻よ!」
「ごめん…」
職員室前には、少々怒った顔の秋絵がいた。
「ケータイを開いてなかったんだ。本当にごめん。」
「な、なによ?今日はやけに素直じゃない…」
口調を和らげ、視線を外す秋絵。
「でも、なんで職員室前なんだ?」
「ここなら男女で話していても委員会あたりの仕事に思われるだろうし、ここにくるクラスメートはまずいないでしょ?」
結局バレるじゃないかな…、という台詞は飲み込んでおいた。
「次の説明をするわ。何の説明かは言わずともわかるわよね?」
「ああ、今日の夜だろ。」
頷く秋絵。
「時間は午前0時。今回のターゲットは、首なし男よ。」
首なし男、まさか?
「そう、アンタが最初に出会った霊。あの時は仕留め損ねたの。」
「なるほどな。で、作戦はあるのか?」
「私がいると、あの霊は姿を消してしまうわ。だから、」
秋絵が指差した。職員用の女子更衣室だ。
「あそこの隠れていて。私は二階で待機してるから、霊が近くまできたら知らせるの。」
「どうやって知らせるんだ?」
「二階から、外壁伝いに糸を通しましょ。それを引っ張るの。」
「了解。俺は部屋の中にいればいいんだな。」
秋絵のムチャ振りを知った亮太に、反対するという考えはなかった。
「それじゃあ午前0時、学校前だからねっ。」
夜はすぐやってきた。
“ヒュウウウ…”
「うー、寒いな…」
タンスから上着を引っ張り出してきたが、それでも今日は一段と冷えこんでいた。
(あれ?)
街灯の下に浮かび上がる秋絵の姿。しかし、
「し…じゃなかった、秋絵。それなんだ?」
「ああ、これ?これはね、」
背負っていた筒状の入れ物から、中身を取り出す秋絵。
「送弓って言うのよ。」
長い、そして細い弓が姿を現していた。
「この弓はね、自分の力を全部使って霊を強制的に霊界へ送りつけるのよ。」
「なんだよ、それじゃあワザワザ霊と喋る必要なんてないじゃないか。」
「ただ送りつけるだけならね。その代わり、使った人は二度と案内人に戻れないそうよ。」
何しろ自分の力を使いきっちゃうんだから。そう言いながら、校内へと侵入する秋絵。
「大きな代償があるってことか…」
亮太も校内へと侵入した。校舎を目指す。
「でも、何で今日に限って持ってきたんだ?それ。」
校内に入り、脱靴場へと辿りついた。
「…今日が最後なのよ。」
「最後?」
「ええ。三国中学の七不思議、そのラストが“職員室前の首なし男”なの。」
「最後だけに、強力ってわけか。」
「そうとは限らないわ。でも、保険はあったほうがいいでしょう?」
ケータイを取り出す秋絵。
「午前0時10分…。まだ霊の反応はないわね。」
「どうするんだ?」
「準備して待機するわ。私は二階へ行って糸を垂らすから、下から受け取って。」
「ああ、わかった。」
階段を上っていく秋絵。
「さて…。」
俺は女子更衣室か。冷静に見れば変態だな。
“カチャ”
“キィー…”
真っ暗な更衣室内を、手探りで進んでいく。
(…ここか。)
冷たい壁に突き当たった。さらに腕を伸ばすと、今度は窓に手が届く。
“カチャッ”
鍵を開け、窓を開ける。これで糸を受け取る準備は完了だ。
「ふー…」
そういえば、一番最初はこんなに落ち着いてられなかったな。暗い校内に入るだけでも恐怖感が凄かったっけ。
(あの時が始まりだったんだよな…)
ノート写そうなんて欲張って、暗い校内で霊に会って、そうしたら柴原が助けに来てくれて。
(柴原…じゃなかった、秋絵か。)
声に出してもいないのに、なんだか怒られそうで思いなおした
(…これが最後か。)
秋絵が俺に構うのは、案内人の手伝いという理由だけ。だから、今日が終われば秋絵ともさよならだ。明日からはもう、会うことも話すこともなくなる。
(…。)
最後、その言葉で急に寂しくなった。
(昼休みに呼び出されて、いきなり手伝えって言われて、今度は女子トイレに連れ込まれて…)
彼氏役になれって言われて…
(…彼氏役、か。)
思えば何一つ出来なかったな。
(俺は…秋絵が好きなのかな?)
明日で終わりだと思うと、寂しさで胸が押しつぶされそうになる。
でも友達がいない亮太には、それが友達としての好意なのか、それとも恋人としての好意なのかわからなかった。
「…やめておこう。」
自分に言い聞かせるように、小さく、しかしハッキリと口に出した。
(俺はそんなロマンチックな人間じゃない。それに、)
俺に好かれるのは、秋絵にとっては嫌なことだろう。対してカッコよくもなく、頭脳明晰でもなく、まして優しさ溢れる人間でもなく。
(…何考えてるんだ、俺は。)
クスッと自嘲の笑みを浮かべ、窓の外を覗いた。
(あれ?)
だいぶ時間が経ったから、糸は下りてきているはずだ。
(糸、糸…)
それがどこにも見当たらない。手で探ってみたが手ごたえもなかった。
(何かあったのか…?)
嫌な想像をしつつ、女子更衣室を出た。階段を駆け上がり、二階へと上る。
「秋絵、どこだ?」
すぐ上は倉庫になっていた。今は使っていないらしく扉は開いていたが、
「…?」
秋絵の姿はなかった。
(一体、どういうことだ?)
“カツン…カツン…”
靴の音に、サッと振り向く亮太。
(おい…まさか…)
恐怖が全身を襲う。向きを変え、階段へと戻る亮太。
(ウソだろ…ウソだろ…)
ケータイを取り出した。秋絵に知らせるためだったが、
(…うっ!)
“圏外”の表示。




