表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七五三田優奈の観察録  作者: 有馬 茶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/22

【閉ざされた楽屋】 幕引き

【閉ざされた楽屋】

第六章:後編

 関係者を集めたのは、劇場の小さな会議室だった。

 舞台袖ではなく、わざわざそこでやるのは、逃げ場をなくすためだ。


 霧島透子、鳴海颯介、朝比奈未来、篠原大悟、そして真柴梓。

 全員が向かい合う空気は、昨夜とはまるで違っていた。


 砧は扉の脇に立ち、優奈が話し始めるのを待った。

 彼女はいつものように、まったく慌てていない。


「霧島銀次さんの死は、事故ではありません」


 室内の空気が止まる。


「舞台袖の導線は、事故に見えるように整えられていた。ケーブルの位置、滑り止めのめくれ、進行表の修正。全部、少しずつ人為的です」


 透子が息を呑む。

 鳴海は顔をしかめた。

 篠原は手元を見ている。

 朝比奈は唇を噛んだまま動かない。


 優奈は真柴を見た。


「真柴梓さん。あなたがやったのね」


「……何をですか」


「事故に見せた殺人よ」


 部屋の空気がさらに重くなる。

 真柴は顔を上げない。

 だが、その指先が、ほんの少しだけ揃った。


「証拠はあるんですか」


「あるわ。進行表の修正、滑り止めシートの端の処理、舞台袖の通路、あなたの手書きの確認印。全部、つながってる」


 砧が資料を前に置いた。


「それに、霧島銀次がお前に金のことで強く当たってたのは、みんな知ってる。お前だけにやらせてた仕事も多かった」


 砧の声は低かった。

 怒っている。

 かなりはっきり怒っている。


「自分の都合で人を使い潰して、何もなかったみたいにしてたんだろ。そういうやり方は、俺は嫌いだ」


「砧」


 優奈が一言だけ言う。

 それで十分だった。

 砧も黙る。

 だが、目は真柴から外さない。


 真柴はしばらく沈黙していた。

 そして、ようやく小さく息を吐いた。


「……あの人は、私に全部押しつけていました」


 誰も動かない。


「仕事だけじゃない。お金も、責任も、失敗も。全部です」


「だから、殺したの?」


 透子が震える声で言う。


「最初は、そんなつもりじゃありませんでした」


「じゃあ、どうしたんだ」


 砧が聞く。


「……あの人を、困らせたかっただけです」


 その言葉は、言い訳にしてはあまりに弱かった。

 だが、そこに本音も混じっている。


「進行表を変えて、急がせて、足元の状態を少しだけ……あの人なら、気づくと思ったんです」


「気づくと思った?」


「ええ。いつもみたいに、自分だけは大丈夫だと思うはずだった」


 優奈は静かに言った。


「でも、結果として死んだ」


「……はい」


「それは、殺意の有無に関係なく、罪は重いわ」


 真柴は目を閉じた。

 それから、しばらくして、ゆっくりと肩を落とす。


「……もう、戻れませんね」


「戻れないわ」


 優奈は淡々と言った。


「あなたは自分を守りたかった。でも、そのやり方を間違えた」


 真柴の目に、初めて感情が出た。

 怒りでも、涙でもない。

 もっと乾いた、諦めに近いものだった。


「私は……あの人に、何度も壊されそうになっていたんです」


「だからと言って、人を殺していい理由にはならない」


 砧が言った。


 その声は武骨で、容赦がない。

 だが、責めるためではなく、区切りをつけるための言い方だった。


「お前がやったことは、ちゃんと重い。そこは逃げるな」


 真柴は何も言えなかった。

 やがて、こくりと小さくうなずく。


「はい……私がやりました」


 その一言で、すべてが終わった。


 警察が入る。

 真柴は抵抗しない。

 透子はその場に座り込み、鳴海は顔を伏せた。

 朝比奈はどこか遠くを見ている。

 篠原は、手を握ったまま動かない。


 部屋を出たあと、砧は廊下の壁に軽く手をついた。


「……腹が立つな」


「そうね」


「人を追い詰めて、壊して、最後に自分も壊されて可哀そうな被害者として消える」


「よくある話よ」


「だから腹が立つんだ」


 優奈は何も言わなかった。

 だが、砧の言葉を止めはしない。

 彼の熱は、事件を追う上ではむしろ必要だと認めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ