私、ダメなんです。ただの虫なんです。
帰り道の馬車の中。私、しょげてます。
ノエルさんを泣かせてしまった。
泣き終わった後ノエルさんは「また来て」って言ったけど。
私は知ってるよ。人間は、思ってないことを口に出すことがある。
気遣いとかそんな理由で。つまり社交辞令って奴だ。本気にしたらダメだよ。
「どうか、したのかい?」
お父さまが話しかけてくれた。顔に出てたのかな。
「実は、ノエルさんを泣かせてしまって」
お父さまはんっぐと空気を飲み込むような音を立てた。
「いや、大丈夫だろう。うん。大丈夫だ。ガーネットは人を傷つける子じゃない。分かってるよ」
ああ、過大評価ですお父さま。
私は結局、ただの蚊です。ボウフラです。虫なんです。
まだ出会ってから二回目なのに、怒らせて、壊して、許されて、泣かせて。
人間の間で生きるなんてこと、最初から無理だったんです。
「君がどういうことを言ってノエル嬢を泣かせたのかは、分からない。リンウッド公から色々と聞いたし、想像はつくけどね。ガーネットのことだから、多分大丈夫だと思う」
お父さまの声、いつもより力強い気がする。
「君はまだ10歳だ。これから学んでいけばいい。人の感情も、世界の様子も、それからノエル嬢のことも。そうすればいつか、ノエル嬢の涙の意味も分かる、さ」
よく学びなさい。女神さまにも言われた事。
……10年。この、私にとっての途方もない時間は。
人間にとっては"まだ"なんですね。
「分かりました。お父さま。私、これからも学びます。ノエルさんの涙の意味も知ります。人を悲しませる事だけはないようにします」
お父さまは頷いた。
やっぱり、ノエルさんとはまた会いたい。そして、よく学びたい。
ノエルさんのこと。そして、仲良くなります。だって私、ノエルさんのことが大好きなんだから。
「ああ、それから。君の進学先、決まりそうだよ」
え? 進学先ですか。




