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蚊です。転生したら人間でした  作者:


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公爵令嬢ノエル・リンウッド

 ボクには生まれながらにして幸せになれない呪いがかかっていた。

 "獣憑き"。ボクはこの自分の耳について、知識で知るより周りの反応で理解していた。

 冷たい目と、緊張。

 そして、陰口。


 ――よりにもよって公爵家の娘が。

 ――婆ちゃんが言ってた。あれはきょーじのまえぶれだって!

 ――あの耳で、貰い手が付くのだろうか。


 人と会った後には必ず、聞こえすぎる耳が、それをボクに聞かせてきた。


 ボクは、異物だ。リンウッドというワインに混じった泥。

 ボクが産まれてきた瞬間、両親は第二子は絶対に作らないことを決めたという。

 全ての愛と幸せをボクに注ぐため。

 そのことを知った時、確かに嬉しかった。ボクは他の誰でもない、父さまと母さまに愛されているんだって。


 すぐに気付いた。それはつまり、他に普通の子がいれば愛情が揺らいでしまうということ。

 きっと父さまと母さまにはそんなつもりは無かったんだろう。

 それに気付いたからといって、父さまと母さまへの気持ちは変わらない。

 だけど、ボクはそれ以降、諦めてしまった。


 最大限の愛を注いでくれる人たちでさえ、その愛情に但し書きが付くんだ。

 幸せになんかなれっこない。誰とも通じ合える訳がない。


 ただ一つ、ボクを救ってくれるものがあった。

 物語。父さまがくれた、一冊の本。

 夢中になった。ボクじゃない人の、人生。生きざま。考え方。

 本を読んでいる間はボクはボクであることを忘れられたんだ。


 本当ならずっと本だけ読んで過ごしたかった。

 竜狩りの英雄や、貴族の恋物語の世界に居たかった。

 だけど、そうもいかなかった。

 父さまが"獣憑き"の治療を受けさせてくれるから。


 国中、色々な医者の所を回った。

 父さまは確かにボクに裏表のない愛情を与えてくれた。

 だからボクには、それに応える義務がある。


 義務とは言っても最初のころは少し希望を抱いていた。

 でも、どこに行っても最終的な結論は同じ。

 手に余る。ケースが不足している。治療はここでは出来ません。

 すぐに、治療の時間は苦痛に変わっていった。


 でも、父さまに「もう治療に行きたくないです」とは言えなかった。

 言えるはずがない。父さまはボクがそれを望んでいると思っているんだから。

 だからボクも、諦めていないフリをしなきゃいけなかった。


 そして、行き着いたのが、魔術研究所。

 そこで、出会ったんだ。

 ボクにずかずか近付いてきて、気になるとか言って一方的に話しかけてきた、あいつ。


 にこやかに話しかけてくるそいつのこと、初めはまたそーいうタイプの登場人物かと思った。

 "獣憑き"なんか何も気にしてませんよ?みたいな顔をしてボクと接することで、自分の寛容さを見せつける奴。


 ボクが一番傷付くタイプだった。


 だけど、そいつが言ったことは。

 ……腹が立つ。男の子か女の子かだって!?

 確かにボクは外に出る時は目立たないように地味な服を着るようにしてる。

 その服装は確かに中性的だったかもしれない。

 でも、どれだけ失礼なんだよ!! 思ったとしても言わないだろ!?


 怒りが過ぎ去って少し冷静になると、こいつが言ってるのは方便じゃないかって思った。


 本当は獣憑きが気になったんだろ?

 だからそんな事言ったんだろって!

 そう思ったボクは勢いで自分から帽子を取ってしまった。


 ……そして、そいつはボクの頭を見て。

 本当に、本当に……。

『何を仰っているのかしら、この人は?』

 って感じで、首を傾げたんだ。


 それからの事はあまり覚えていない。

 だけども、あの、カーテン越しに見えた顔だけは、忘れられない。

 ボクが怒っているのに、隣に座ってきたあの姿が忘れられない。

 あの黒髪が。僅かに上がった口角が。穏やかな目が。


 父さまに調べてもらった。

 ガーネット・ファロン。一般貴族の娘。

 叔父が持つ領地の端に家族で住んでいる。

 父親は研究者として国から報酬を貰っていて、娘が魔術研究所で治療してるのはその縁故らしい。


 父さまは一言、「会いたいのか?」とだけ言った。

 すぐには答えられなかった。会いたいのか。


 会わない方がいいって思いもあった。

 もし、全部ボクの勘違いだったら。本当はとても"上手"な女で、ボクが騙されてただけだったら。

 だけど、確かめられずにはいられなかった。だから、父さまにお願いした。


 再会する時が迫って、どうしても心が弾んだ。

 名前を名乗っていなかったから、まずはそれを名乗る。それからお話をしよう。普段どんな風に過ごしているのか。

 好きなものは、何かとか。

 全部、噓でもいいかもとすら思った。

 ボクの演技に合わせてくれるのなら。ほんの少しでも呪いを忘れさせてくれるなら。


 だけど、再会したガーネット・ファロンは。

 前よりも、鬱陶しくて、うるさくて、笑顔で、ズレていた。


 だってさ。愛想悪かったよ。嫌な態度、取ってたよ。ボク。

 獣憑きだよ。何もしてないのに、嫌われてたよ。ずっと辛かったよ。

 そんなボクに言う?

 大好きだなんて。

 笑顔で。

 だからさ。謝らないで。

 ズレてるなあ、やっぱり。

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