私って子供が好きだったんだ!
石畳のこの場所は公園だったみたい。
私とルゥくんは二人でベンチに座ってる。何も喋らず!
なんだかお互いに勘違いが広がってるみたいだからね。ここはしーです。
ルゥくんはもう泣いてない。
ただ前を見てじっとしてる。
「おれ……」
ルゥくんがぽつりと言った。
「父ちゃんが悪いことしてるの、ずっとわかってた。おれを使って詐欺してるって。父ちゃんは、金持ちにとっちゃ慈善のようなもんだとか、色々言ってたけど。ただの言い訳だってわかってた。なのにおれ、『そうなんだ』って思うようにしてた……」
ふむふむ。
「でも、お姉ちゃんのおかげで」
「あ。私、ガーネット・ファロンと言います。よろしくね、ルゥくん」
「ガーネットさんのおかげで」
「お姉ちゃんって呼んでもいいですよ! なんならあだ名を付けても大丈夫です! 私のお友達の一人は私のこと『ガー様』って。うふふ、面白くないですか? ガーネットだからガー様。敬ってるような親しいような、おかしな感じです! もし敬いが抜けたらガー、って呼ばれちゃうのかな? いいかも。面白い!」
「聞いてよ……」
あ、よくない。
「ルゥくん、私、ウザかったですよね。ごめんなさい」
「いや、そんな訳……!!」
慌てたように言ったルゥくんだけど、ぴたと止まった。
「……そっか。ガーネットさん、それ、『気にするな』って言ってくれてるんだよね」
ん?
「でも、言わないとダメなんだ。言わせて」
なんだか勘違いされてるみたいだけど、ここは黙って聞いておこう。
ガーネットは日々学んでいるよ。
「おれ、ガーネットさんに『お前がやってるのは悪いことだ』って、教えてもらえなかったら……これからも間違ってたと思う。父ちゃんの言うことを聞いて、言われるがままになってたと思う」
「……」
「それで、いつか、本当にそう思って、盗んだり、人を騙したりするのに何とも思わない奴になってたかも……しれない」
「……」
「正直、キツかった。ガーネットさんに『みんなの前で言ってみろ』って言われた時。でも……全部、ガーネットさんの言うとおりだ。おれ、最低だった……」
言ってないけどなあ。
悪くないって言われたから、そうなんだって思っただけですよ。
むしろ私の方こそ良くなかったよね。
「ごめんなさい、ルゥくん。私の言葉で泣かせてしまって。辛かったですよね。もっとルゥくんの気持ちを考えて喋るべきでした」
「ううん。おれにとっては、必要な言葉だったと思う。だから……」
ルゥくんは身体ごと、こっちを向いた。
「あ、ありがとう……が、ガー……」
ん? ルゥくん、止まった。
どうしたんだろ。
ルゥくんは、顔を伏せて。
それから、私の方を向いた。
「その、が、ガー姉、ちゃん」
え!
「ルゥくん、今私のこと、なんて呼んだんですか?」
ルゥくん、びくって震えた。
「が、ガーネットさん」
「ううん、違います! さっきの呼び方で、呼んでみてください、ね?」
無理矢理すぎるかな。だって聞きたいんだもん!
ルゥくんはまたごにょごにょ言ってから――。
「……が、ガー姉ちゃんっ」
わああ!
いい。いい。いい!
ガー姉ちゃん。ガー姉ちゃん! 気安さと親しみがこもった呼び方だ!
胸の中がどんどんあたたかくなってくる。頭の中かな?
もっと近付いちゃお。
足を支点に腰を浮かせて、ずりずり。
そうしてルゥくんに近付いていると、ルゥくんが「な、なんだよ」って言った。
うーん、この距離が限界? もっと近付くのがいいんだけどな。
でもさっきよりルゥくんが大写しに見えるよ!
「ふふふ、ルゥくん、ルゥくーん」
「ち、ちょっと、何」
「もう一回呼んでください。ガー姉ちゃんって」
「が……ガー姉ちゃん」
「もーいっかい!」
「ガー姉ちゃんっ」
「はーい、ルゥくん!」
ふふふ。ルゥくんったらなんだかきょろきょろしてる。
顔も赤いよ。触ったら怒られるかな。
触っちゃお。おでこをつん。
「ひゃっ」
「うふふふ」
いい。指先から柔らかさと体温を感じる。
私が蚊のままならきっとここから血をちうちうしてたね。
でもそれだけじゃない!
口をぱくぱくしてるルゥくんを見てると、どんどん、あたたかい気持ちになる。
なんでだろ。もう一回、今度はほっぺをつん。
「や、やめろっ!」
「あ」
手でばばっとされちゃった。
嫌がってたんだ。失敗した!
「ごめんなさい、ルゥくん。ちょっと調子に乗っちゃいました。もうしません」
「……す、するなって言ってる訳じゃない」
「えー。じゃあ、もう一回」
「やめろってばぁ!」
またルゥくんがばばっとしたよ。
うーん、ルゥくんの言うことって難しい。
やっぱり反抗期だね? ルゥくん。
あ。
わかった。
そうか。そうだよ。
分かった! 私がこんなにもルゥくんに惹かれる理由。
ルゥくんは反抗期――つまり、子どもなんだ!
だからだ。だって私も欲しいんだもん。たまご……ううん、子ども!
だから感じるんだ。可愛く!
そうだ。私、ルゥくんのこと、可愛いって思ってるんだ!
「そういうことなんですね~、ルゥくん!」
思わず口に漏れちゃったよ。ルゥくんは「な、なんだよ」って言って、また私の顔から目線を外した。
いい。反抗期の子どもってこんなに可愛いんだ。
すっごくニコニコしちゃう。
でもでも、私ばっかり楽しんでる気がするな。人間として自分だけ楽しいのはよくないよ。
ルゥくんにも笑ってもらいたい。
でも……どうしよっかな。
ルゥくんの笑顔の為に何が出来るかな。
考えてみよう。
えーと、私が持ってるものと言えば……。
私は服のポケットを上から押さえた。
硬くて丸いものが布ごしに形を作った。
そうだ、これがあった。
ふふふ。今度こそ、ナイスアイデア!
だと、いいんだけど。
「ねぇ、ルゥくん?」
「な、なに?」
「走って、喉乾いていませんか?」
「の……のど?」
ルゥくんはそっぽを向いたまま。
でも、聞いてくれている。返事してくれてる。
優しいね、ルゥくん。
好みが私と一緒ならいいんだけど。
ベンチから立ち上がって、ルゥくんに手を伸ばす。
「ね、ルゥくん。私とさっきの所に戻って、牛乳、飲みませんか?」
ルゥくんはびっくりしたみたいに私の顔と手を代わりばんこに見てる。
けど、すぐに私の手を握ってくれた!
「うん……ガー姉ちゃんが、一緒なら、行く。行かなきゃ、ダメだよね」
ふふふ。当然一緒です。行かなきゃダメってことはないけども。
手、柔らかくて小さいー。ノエルさんとどっちが可愛い手かな。後で比べられないかな。牛乳はやく飲みたいな。行こ行こ。




