冴えてた、はずだったんだけどなあ。
そういうことか。そういうことか!
ウエストリアでも要は『勉強代』を払って学んでるんだもんね。完全に合点がいったよ!
何も考えずに買い物をすると詐欺に会う可能性がある。それを教えてくれたんだね!
でも、それなら。
ひとつ、しなきゃいけないことがあるよね!
「あのですね。実は今、友達のノエルさんがお金を取り返してくれるって言ってるんです。そのお金はやっぱりお父さまに渡さないとだめですよね! 何て言ったって、私に勉強をさせてくれただけだったんですから!」
ルゥくんは目をぱちくりしてる。
なんだろ? 私の素早い理解に驚いているのかな。
ふふふ。自信を持っちゃうなあ。
今の私は冴えてるよ。人から助言を聞く作戦も大成功だ。
そうだ。だったらこれもルゥくんに任せた方がいいよね。
私はルゥくんの手を取った。
「ほら、行きましょう? 牛乳屋さんのところにノエルさんが戻ってきますから」
私がそう言うと、ルゥくんはぐいっと私の手に逆らって、何故かぶんぶん首を振った。
「い、行かない、おれは」
えー。それは困るよ。
「だって、私の口からだけじゃ納得してくれないかもです。私、説明が下手なんですよね。だからあなたの口からノエルさんに言ってもらわないとです」
「い、言うって何を」
「それはもちろん、『自分は何も悪いことはしてなかったんだ』ってことをですよ」
ルゥくんの力が弱まった。
おお? 説得できたのかな。会話が上達しているぞ。
もうちょっと説明しよう。
「ルゥくんはこう言えばいいんです。『大金を支払わせたのはただの勉強代』だって。それから、えーと。『この人は普段から良い思いをして生きているからちょっとくらい別にいいんだ』って! うーん、なるほどなぁ。確かに私、良い思いして生きてきたかも。自分じゃ気付かなかったなあ。毎日自分なりに必死だったつもりでした。これも学び、ですね」
そうだ! ふふふ。今の私本当に冴えてる。
「そういえば、お金、ルゥくんに渡してもいいんですよね! これで万事解決です。受け取ってください、私のお金! それから牛乳屋さんにも言わないとですねえ。あの人、あなた達のこと悪い人たちだって勘違いしてましたから。二人とも何にも悪くないのに! というより、私たちの方こそ謝らないといけないかもです。ただの勘違いだったのに悪者扱いしちゃったって。本当にごめんなさ――」
喋るのに夢中だったから、気付かなかった。
握った手が、震えてる。
手の平が熱くて、汗をかいてる。
ルゥくんは、泣いていた。
なんで。なんで泣いてるの。
地面にぽたぽた涙が落ちてる。ルゥくん、何も言わずに、うつむいて。
ああ、これって。
あの時と全く同じだ。
ノエルさんを泣かせてしまった、あの時と。
一方的に喋って、よくわからないまま悲しませて。
でも、でも。
私だって成長してるぞ。いい加減学んでるもんね。
人が泣いたからってもうおろおろしないよ。
私は、ルゥくんに、慎重に、慎重に手を伸ばす。
濡れた頬に手を伸ばす。手に柔らかい感触が伝わってくる。
ルゥくんはちょっとびくっとしたけど、逃げないみたい。
じゃあ、平気だね。
私はそのまま、ルゥくんの頭を抱いて、抱きしめた。
すっごく、良い体温。というのは置いといて。
「ごめんなさい。私、あなたを泣かせるつもりはなかったんです」
まずは謝って、自分が思っていることを伝える。ゆっくりと言葉を切って。
そうだな。私が思ってるのは。
やっぱり、ルゥくんと仲良くなりたい。
顔を合わせた途端に逃げられるの、ちょっと嫌かも。
「ただ私は、ルゥくんと友達になりたいんです。逃げたり、捕まえたり、そんな関係になるんじゃなくて」
ルゥくんがしゃくりあげた。
だけど涙は止まってる気がする。
よしよし。もう少し。頭もぽんぽんしちゃお。
大事なのはここから。
思っていることを伝えるだけじゃダメ。
それを踏まえてどう行動するかだよ。
私が今からどう行動すればいいか。
それはね。
聞けばいいんだよ。
私はルゥくんの肩に手を置いたまま離れて、目線を合わせる。
「ね。私たちが友達になるには、どうしたらいいですか?」
よし、完璧だよ。これで、ルゥくんが私にしてほしいことを言う。それを私がすればいいんだ。
これで晴れて仲良くなれるよね。
ルゥくんはしばらく私と目を合わせてから、うつむいた。
それから、ゆっくりと。
「ご……めん、なさ……い……」
なんで謝られたの?




