ガーネットは追いかける。
ノエルさん、走って行っちゃった。お金を取り返してくれるんだって!
本当に申し訳ないよー。こんな失敗、人間だったらしないよね。
私、あの二人の話が詐欺だなんて全く分からなかった。
ルゥくん、私のこと騙してたんだ。うーん、悲しい。
もっとよく考えるべきだったなあ。
こんなの目的を探すどころじゃないよね。
まあ、お金が無くなってもきっとなんとかなる。
ちょっと節約が必要だけどね。
ロザリンデさんみたいに森で実を摘んでクッキーにしてもいいかも。
牛乳は毎日という訳にはいかないだろうなあ。ううう。
でも、そんなのもう全部関係ない話だよ。
ノエルさんが取り返しに行ってくれたんだもんね。
優しい。本当に大好きだ。
うーん。私ってやっぱり欲張りになってるかも。
生きていけるってだけで幸せなのに。それだけじゃ不満になっちゃってる。
蚊の時の私が聞いたらなんて言うだろうか。なんにも言わないか。
昔のことを思い出したらさっそく飲みたくなってきたね。
「すみません、牛乳を一杯ください!」
「あ、おう」
新しい街の牛乳屋さん。こんにちは。
前の街の牛乳屋さんより男の人っぽい感じ。
「味はどうする? 果汁を入れられるぞ。それから砂糖もだ」
「牛乳のみでお願いします!」
「いいから何か頼めよ。別にタダでいいぞ」
「え!」
「大変な目に遭ったんだろ?」
「大変な目、には遭っていませんよ?」
「無理すんな。王都は確かに悪い奴も居なくはないが、とても良い所なんだ。大したことは出来ねえけど、これくらいはさせてくれ」
うん、大好きです。牛乳屋さんってみんなこんなに優しいのかな?
結婚するならこんな人がいいね。
でも本当にいらないんだよなあ。
果汁が混じってる血なんてないもんね。
どうしよう。断りたいよー。
でもでも、大変な目ってのは推測するに詐欺のことだ。つまりこの人も優しさで言ってくれてるんだもんね。
人間らしく振舞うならその優しさに応えないと。
ぶどう、みかん、りんご、コーヒー……。
何が一番いいかな。牛乳の味のままになる奴がいいな。
「うーん」
「思う存分悩んでくれよな。どれを選んでもうまいぜ」
そう言って牛乳屋さんは果物を切るのに戻った。
その果物、そのままくれないかな。だめかな。
お願いしてみようかな。
って、考えてた時。
ふわっと、匂いがした。
果物じゃない。牛乳でもない。
だけど、いい匂い。さっき嗅いだ匂い。
あたたかい匂い。
匂いの方向に顔を向けると。
あ。
ルゥくん。
ルゥくんがいたよ。
こっちに向かって歩いてる!
ルゥくんは歩きながら横目で店の商品を見てるから私のことに気付いてない。
どうしよ。声かけちゃおっかな。
かけちゃおう。
「ルゥくーん!」
私が手を振るとルゥくんは顔を上げて私を見て、後ろから「は!?」って牛乳屋さんの声がした。
ルゥくんは、身体を引いて、目と口を見開いて。
後ずさって……。
走っていっちゃった。かなしい。
「ルゥくん、行っちゃいました。残念です。せっかくまた会えたのに」
「お、おい嬢ちゃん。そんなのんき言ってる場合か?」
牛乳屋さん、なんだか焦ってるみたい。
「今の私、のんきですか?」
「だってあいつとあいつの親父に金をだまし取られたんだろ!?」
「ああ!」
そうだった。すっかり忘れてたよ!
私、ルゥくんにだまされたんだった。
え? でもじゃあ、どうしよう。
何をすれば正解、なのかな。
そうだ。
聞いてみよう。
私だけで考えるとダメになる。やっぱり人に助けてもらわないとね。
ちょうど親切な牛乳屋さんがいるし。
「あの、牛乳屋さん。私、この後どうすればいいでしょう?」
「この後……つっても、俺なら追いかけてとっ捕まえるが嬢ちゃんの場合は、そうだな」
「わかりました。追いかけてとっ捕まえればいいんですね?」
「え?」
私は肩の髪の毛を両手でたぐって、背中の方に流した。
その場でとんとん飛んでみる。うんうん、肩甲骨の調子もいいね。
飛んだ時、頂点につくとちょこちょこルゥくんの頭が見える。
けっこう離れちゃった。
ということは、全力疾走だ。
「ちょっと待てよ嬢ちゃん、追いかけるより兵士なりなんなりに……」
よーし、走るぞお。




