ちょっとだけ外に出ていよっと。
本当に書店はノエルさんの言った通りの通りにあった!
店から飛び出して、日よけの下に本棚がならんでるよ。
「わぁぁぁ……!」
ノエルさんも喜んでるみたい。きょろきょろしてる!
しばらく本棚から本を引き出して表紙を見てたノエルさんは私の方に振り向いて言った。
「ガーネット、何か読みたい本はある? ボクと一緒に探そう!」
「うーん、そうですねえ」
物語は好き。虫が悲劇にあう物語って少ないし!
だけど物語って、文字。
私の頭の中はもう王国史とか測量とかお勉強の文字でいっぱいだ。
今は読みたくないよー。
でも、ノエルさんは文字が読みたいんだよね。
すごい。普段私より勉強してるのに。
こういうのが私にないところなんだ。参考にしなきゃ!
「私、ノエルさんが本を選んでる所が見たいです!」
「……そうか? なら、探したい本があったらいつでも言ってくれ!」
ノエルさんは店に入っていった。私もついていくよ。
ぺら、ぺらって、紙の音がする。
小さな吐息が聞こえる。
ノエルさんが読んでる。本を。じーっと。
たまに本を仕舞って、指で本の背中を追って、また引き出してじーっと読む。
私も昔はよく葉っぱの裏でじーっとしてたなあ。
ノエルさんと私、案外似た者同士だったり?
しないよね。だって、私はじーっとしてるだけだったもん。
ノエルさんは違うよ。本を読みたくて読んでるんだもんね。
これがないんだよなあ。私。
授業の写しを取るのも、必要だからやってるだけ。
別に聞きたくないです。
あれ。じゃあ、授業を好きになればいいのかな。
でも、好きなことをしてたら戦いっぽくないしなあ。
とにかく、いいね。この時間。
ノエルさんのうなじ見放題だしね。
はぇー。
「オホン」って、咳払いが聞こえた。
いつの間にか隣に人がいる。こんにちは。
声を出さずに挨拶すると、その人はもう一度オホン。
なんだろうって思ったけど、見渡すと、ふふふ。わかったよ。
私がノエルさんの後ろに立ってると、狭い本棚は通れないもんね。
ノエルさんの横に立つと、その人は頭を下げて通った。
やっぱりね。私が邪魔だったんだ!
え。ちょっと待ってよ。
邪魔になるの、よくないよね。
もしかして、ここに居ちゃだめ?
私、本を選ぶ気ないし。
「ノエルさん、あのう」
小さく声をかけたけど、ノエルさんは気付いてない。
じーっと、本をめくって読んでる。
服をちょいちょいしてみるよ。
だめだ。すごい集中力だね。
うーん、どうしよ。
目を隠したり抱き着いたりしたら気付きそうだけど。
ノエルさん、こんなに集中してるんだ。
それこそ邪魔になっちゃうよね。
そうだなー。
ちょっとだけ、外に出てようかな。
ちゃんと、お店から離れないでいれば大丈夫だよね。
外に出るとちょうど爽やかな風が吹いた。
ざわめき。砂ぼこり。通り過ぎる人の群れ。
お店の中と外で別世界だね。外は道が広いのがいいよ。
ここで邪魔にならないようにしながら人を見る。うんうん、いい作戦だよ。
それにしても、本当にこの世界っていろんな人がいるなぁ。
花の帽子を被ってる、ドレスの人。体温低そう。
木材を運んでる半裸の人。体温高そう。いい汗もかいてそう!
あとそれから、子どももいるね。
ひとりで。
ん?
子どもが、ひとりかぁ。
友達、いないのかな。親も?
どこかにいく最中でもなさそうだよ。
もしかして、はぐれてる?
はぐれてるとしたら、良くないよ。
私もさっきノエルさんに「はぐれるな」って言われたもんね。
となると答えは一つだ。
話しかけてみよう!
子どもは私の方を向いてない。だから怖がらせずに近付けちゃった。
たぶん男の子だね。そんな匂いがするよ。
どんな風に声をかけようかな。お前? あなた? こども? きみ? うん、きみかな。
大きくなってから子どもと話すの、初めてかも。そもそも話してくれるかな。
ウザがられても心を強く持つんだよ、私!
「ねぇ、きみ?」
私が言うと、男の子はきょろきょろとしはじめた。
聞こえなかったのかな。
「こっちですよー」
「あっ……」
もう一度声を出すと、男の子は振り向いて……。
わ。私の顔を見てばばっと飛び退いたぞ。
警戒されてるかな。大丈夫ですよー。ただの蚊です。
「ひとりでどうしたんですか? はぐれちゃったんですか?」
「な、なんでもない。行けよ。早く行けっ」
男の子は顎で私の後ろの方をしゃくった。
なんでもない。じゃあ、大丈夫なんだろうね。
って、思ったんだけど、私は違うことも考えていて。
うーん、惹かれる。
この子、いいね。体温も高そう。柔らかそうないいお肌をしているよ。
だけどそれだけじゃない。
なんだかこの子を見てると、あたたかい感じがする。
「な、何笑ってんだよ。早く行けよ!」
「えー?」
ノエルさんみたいに怒ってるのも、いい。
このちっちゃい子を見てると、なんだかニコニコしちゃうな。
なんでだろ。もうちょっと、話したいかも。
「本当に平気なんですか? ご近所に知り合いは?」
「だからっ……あっ」
「ルゥ! ここに居たか!」
声がした。と、思ったら、袋を背負った誰かが出てきて、子どもをぎゅっと抱きしめた。
「すまなかった、父さんが商売にかまけていたせいでお前を迷子にするなんて!」
「わああ!」って、思わず手を口元に当ててたよ。
親子の再会だ! これってすごくいい事なんじゃない?
男の人は、子どもを抱き上げてクルクル回ってる。
袋がカチャカチャ言ってるよ。中に何か入ってるのかな。
子どもは笑ってないけど、ふふふ。知ってるよ。これって『反抗期』って奴だね?
男の人は子どもを降ろすと、私に笑った。
「あなたが、あなたがルゥを助けてくれたのですね」
「いえ、別に私は何も」
「ああ、なんと謙虚な! あなたは私たち親子の恩人です!」
男の人は胸に手を当てて私に頭を下げた。
うん、いい人だね。この人。
それに、子どもの名前。ルゥくんって言うんだ!
「うふふ。ルゥくん、お父さんに会えて本当に良かったですね」
「っ……」
ルゥくんはそっぽを向いちゃった。ふふふ、いいんだよ。反抗期だもんね。
でも、まあ、なごりおしいけど、これで私の役目は本当にもう何もないね。
あんまり本屋さんから離れているとノエルさんが怒るかもしれないし。
「では、さようなら。ルゥくんとルゥくんのお父さん」
「お待ちください、優しいお嬢様!」
「はい、なんでしょう」
ぺこりと下げた頭が下がり切る前に上がったよ。この人せっかちだ!
せっかちな男の人は、背中に背負った袋を降ろして広げ始めた。
「実はですね。息子の恩人のあなたに。いえ、恩人のあなただからこそ見せたい特別な商品がありまして!」




