ウエストリアから王都行き。
ウエストリアから王都行きの馬車が出る。
別に、意外ではなかった。
家に居た頃、父さまが話してくれたウエストリアでの思い出は、王都での出来事も含まれていた。
むしろ何故王都への導線が無いのかと訝しく思っていたけど、きっと「新入生が生活に慣れるまでは見送る」とか、そんな思惑だろう。
そんなことより。
「王都ですよ、王都! 渡り廊下からちらちら見えてたあの場所! ああ、ノエルさんと街を歩いて買い物をしたり牛乳を飲んだりした日々を思い出します! 最後にそんな風に過ごしたのは、ひい、ふう、あれ? そこまで経ってない? でも私にとってはすごくすっごく長い時間です! 王都にも居るかな、牛乳屋さん。元気かな、前の街の牛乳屋さん! 魔術研究所の先生にも会いたいな。王都に居てくれたらいいのに!」
ガーネットが喜んでいる。
うろうろ、くるくるして、とめどなく喋って。
さっきまで灰色だった部屋の空気にガーネットが色を付けていく。
リンベルはガーネットとボクを星になぞらえたけど、違う。
ガーネットは太陽だ。
ボクをいつでも照らしてくれる。
天真爛漫なダンスに見とれていると、鼻がむずむずしてきた。
少し、埃が立ったか。
バルコニーを開けよう。
「ノエルさん!」
「わっ」
立ち上がったボクの手をガーネットが取って左右に降り始めた。
これは、小さい頃にガーネットが教えてくれた手遊びだ。確か歌は、鍋の底が――。
「ノエルさんっ、王都っ、行きましょっ、一緒にっ、ノエルさんっ」
ちっ違う。これ、ただぶんぶん振り回してるだけだ!
「い、行くよ。行こう。落ち着け!」
「やったぁ!」
ガーネットはボクから手を離してぴょんぴょん跳ねた。
またガーネットは部屋の中をうろうろして、一人で喋ってる。
肩が外れる前にやめてくれてよかったよ。
でも、正直言って、嬉しい。
今のボクはウエストリアでの日々に閉塞感を感じている。
王都に行けば、気が晴れそうじゃないか。
ガーネットと、王都でお買い物。
何を調達するか考えておかないとな。出来ればウエストリアで役立つ物がいい。
それから、そうだ。王都には確か有名な劇場がある。
行ってみようかな。ガーネットは好きかな、演劇。
待て、二人きりで回るとも限らないか。
誰かと一緒に出たり、合流するかも――。
ボクは頭の隅に首をもたげて来た、特定の人物の名前をそっと奥に押しやった。
今は、気がかりにすることなど何もない。
またガーネットと街で遊べる。
それだけで十分じゃないか。




