行きたいです。絶対に!
「ふん、ふん、ふふん、らんたったたん」
思わず鼻歌が出ちゃってた。
足だって弾むよ。
だって、最近いい事ばっかり起きてるんだもん。
なんと、『待てば海路の日和あり』は本当だった!
人間になる方法も知れたし、デュオさんに会えることにもなったし!
女神さまの引き出しってすごい。いっぱい役に立つ知識が入ってる!
これからも海路の日和を待ちますよー。
海路ってなんだろうね。
廊下をうきうき歩いていると、なんだか人だかりがあった。
みんなで壁を見たり、話し合ったりしてる。
んー? なんでしょう、あれは。気になるぞ。
背伸びして見てみると、紙が貼られているのが見えた。
うん、壁じゃなくて掲示物を見てたんだね。でも文字までは見えないや。
仕方ない。誰かに聞いてみよう。
ちょっと、目の前の服をちょいちょい。
「あのう、すみません」
「はい? なんでしょう」
目の前にいた人は、振り向いてしばらく目をぱちぱちして……。
「ガーネット様!?」
「はい、ガーネットです」
こんにちは。あれ、でも、この女の人の匂い知らないなあ。
お話したことないよ。授業で一緒になった事ない。
でも、この人は私の名前を知ってる。
「私のことを、ご存知だったのですか?」
「は、はい。あ、あの、廊下を歩かれているお姿を、かねがねっ」
そっかあ。私の身体、長いもんね。そりゃ注目されちゃうよ。
ていうか、なんだか目線を感じる。
なんだろうって思ったけど、すぐに分かった。
周りのみんなが私を見てるぞ!
なんだか目立っちゃってる。早くお話しないとね。
「あの、私、皆さんがどうしてここに集まってるのかなって思っただけなんです。でも、後ろからじゃ掲示物が読めなくて」
「あっ、そ、そうなんですね! そ、その、どきます、私!」
行っちゃった。
じゃあ、他の人に。って思ったら、いつの間にか目の前が開けてる。
きっと女の人と話してるのを聞いてどいてくれたんだ。優しい!
でも、ちょっと落ち着かないな。
みんな私を見てこそこそ話をしてる。
目線を合わせようとすると、逃げていく。
うう。授業で一緒になった人は話してくれるのになあ。
読んだら早く行こうっと。
えーっと、これは。
ボクはノートに頬を付けたまま、木筆を適当に動かした。
白い紙に黒鉛のミミズが広がっていく。
最近、全く勉強に身が入らない。これじゃいけないと思って余暇の時間を予習復習に回してるのに。
気が付けば、ガーネットと……デュオのことが頭に浮かんでしまう。
もう結論は出したはずだ。ボクは、ガーネットが幸せであればいい。
誰かと付き合うとしても……いい奴だったら、いい。
デュオは、腹が立つけど、いい奴だった。
そして、多分、ガーネットのことを……真っ当な方向で、意識してる。
だからガーネットがデュオに近寄ろうとしてたって、別に構わない。
これからのボクは、もしあいつに何かあれば助ければいいだけ。
ガーネットとの付き合いが無くなる訳でもない。
だから、もう考えなくてもいい。
だってガーネットが幸せであれば、ボクはそれでいいんだ。
デュオとガーネットの接近を妨げる必要は何もない。
むしろあいつの想いが叶うように応援するべきじゃないか。
ここまで、結論が出てる。
何度なぞり直しても、正しいとしか思えない。
なのに、ボクは……。
気晴らしがしたい。
気分を変えて、別のことがしたい。
ボクの頭の中のよくわからないモヤモヤを吹き飛ばしたい。
こんな風に、ノートに落書きをしてたって……。
トン、トン。というリズムを、耳が捉えた。
部屋の外の廊下から聞こえる、体重を感じさせない、軽やかな、足音。
これは、ガーネットだ!
ボクは慌てて佇まいを整えて、ドアノブがガチャリと鳴るのに合わせて振り向いた。
「お帰り、ガー……」
「ノエルさんノエルさんノエルさん」
部屋に入って来る前から喋ってたガーネットは、ボクのすぐそばに来て、手を取った。
「なっ、なんだよガーネット」
「王都に行きましょう!」
「……は?」
ボクの手を包み込む細い指から目線を上げると。
ガーネットの目が、きらきらと輝いていた。




