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蚊です。転生したら人間でした  作者:


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天井にクモがいるよ。

「という訳で、みんなで楽しく過ごせたし、リンベルさんのぬいぐるみの良さも知れたし、ウエストリアで初めてのお泊まり会は大成功だったんです!」


ロザリンデさんは、紅茶のカップごしに私をじろり。


「大成功、じゃありませんの。むしろ大失敗ですわ」

「え!」

「提案した側が真っ先に寝る会なんてあっていいものですか」


そうなの! ノエルさんとお泊まり会した時もずっとそうだったよ。


「そのリンベルさんはあなたが朝起きた時どんな顔をしてましたの?」

「そういえば、いつもよりちょっとだけ頬がぷくっとしてたような」

「思う所があったのです。いくら立場の違いがあろうとも、親しかろうと、礼儀はあるべきですわ」


ロザリンデさんは紅茶のカップを傾けた。

なるほど。じゃあ次は頑張って起きとかないとね。

私もロザリンデさんが用意してくれた牛乳をちうちう。

人間の会話って、難しい。時々、何も言わないのに察さないといけない時がある。

私にはそんなのわからない。まあ、虫ですから。

一個一個覚えていくしかないんですよ。人がぷくっとしてる時は、何かある。うんうん、学びだね。


「そもそもどうしてお泊まり会なんですの。あなた、ここで過ごす目的を探すのではありませんでしたの?」

「皆さんで勉強の話になった後、息抜きしようってことになりまして。うふふ、お泊まり会はずっと約束だったから嬉しいです!」

「まあ、ずいぶんのんきですこと」

「次のお泊まり会はロザリンデさんも来ますよね?」

「っ!? げほげほっ!!」


むせてる。


「大丈夫ですか?」


私は立ち上がってロザリンデさんの背中に手を伸ばした。

あったかい! えーと、これですりすりしたらいいのかな。

すりすり。ロザリンデさんは口元に手を当てながらげほげほしてる。


「あ、あなた、私にお泊まり会に参加しろと?」

「えっ、だめですか」

「行きませんわよ! あなた以外誰も知りませんのに!」


えー、やっぱり貴族だからシャイなんだね。

仕方ないか。すりすり。


「やめなさいなっ! くすぐったい!」

「えー……」

「どうして残念そうですの!?」


だって、ロザリンデさんの身体ってあったかいし、好きな匂いがするし。

って言ったらまた怒られそうだなぁと思ってやめました。

このガーネット、日々成長しております。

ロザリンデさんは椅子に座った私を睨んだ。

うん。手遅れだったかも。


「あなた、今までもずっとその調子で人と接してましたの?」

「そのちょーし?」


首を傾げると、ロザリンデさんは机に手を突いた。


「それです! その愛嬌を振りまくようなそぶり、言葉遣い! 微笑みながら小首を傾げたりほどよくわがままだったり口調が伸びてたり距離が異様に近かったり! わざとやってるようにしか見えませんわ!」

「えーっ。そんなのしてませんよう」


むしろ大人しくしたいくらいだよ。ウザがられたくないもんね。

全然腑に落ちてない私を見て、ロザリンデさんは、はあっとため息を吐いた。


「もういいですの。それもあなたの個性だと思うことにします。それより、本題に入りましょう」

「はい!」

「まず、以前は言いすぎました。あなたの望みは、ウエストリアとは関係ない、などと」

「そうですか? 私は納得したんですけど」

「関係がないなら、関係させればいいのです。幸せな家庭を持ちたいというあなたの望みはここで十分叶えられる」

「え、そうなんですか!?」


もしかして卵、じゃなくて子どもをここで!?

ロザリンデさんはんっん、と咳払いをして低い声で私に言った。


「もし、あなたが頭の中で何かを考えているならそれは間違いだと言っておきますの。やめなさい。今すぐ。考えるのを」

「はい……」

「あと、あなたのその望みは刺激的すぎます。私のように『家庭を持つ』と言い換えなさい」


んー。私は子どもが欲しいんだけど。

まあ、結局は一緒か。


「あなたは幸せな家庭を築きたい。ならば、ここで相手を見つけて、将来を約束すればいいのです。そして、卒業したらその時に家庭を持てばいい」

「ふむふむ」


なるほどね。そういえば、お父さまもお母さんとは学生の時に会ったって、どこかで聞いたような。

あ、いい! そうだよ。私もお父さまたちと同じようにすればいいんだ!

それじゃあ善は急げだよね。


「わかりました。私、ここで将来を約束する相手を見つけます! そうと決まれば」

「お待ちなさいなっ! まだ話は終わってませんわよ! そうと決まればっていったい何をするつもりですの!?」

「それはもちろん、望みを叶える為に、誰かに……」

「声をかけに!? 誰でもいい訳ではないですわよ!? ずっとあなたの隣にいることになる相手なんですから!」


ふむふむ。じゃあ、例えば私のことを嫌いな人じゃダメってことだよね。

もっと教えてもらわないと。反省反省。


「ごめんなさい。ロザリンデさん。私、ちゃんとお話聞きます」

「全く……! 最初から浮世離れした方だと思ってましたが、度が過ぎてますわ、あなた……!」


ロザリンデさん、女神さまみたいに眉間に指を当ててる。

これは、さすがに私でも分かる。

今ロザリンデさんはウザがってる! 気を付けないとね。


「もし、あなたが誰でもいいから結婚したい、なんて言いながら歩いたら、きっと人だかりができますわ。その願いは胸の奥の奥に秘めておきなさい」

「はい! しー、です」

「……そもそも。相手を見つけるだけではいけませんわ。あなたは、高い目標を作らないと。今のあなたでは到底手に入れられないような存在。結婚を目指すにしろ、そんな相手でなければいけないのです」

「あ、なるほど!」


そうだ! 私は、ウエストリアに居る目的が欲しいんだ。

ちょっと浮かれちゃってたかも。貴族らしく落ち着かないと。


「今のあなたでは釣り合わない、そういう相手と結婚したいと思えば、あなたは本気で努力をするでしょう。容姿磨き、会話磨き、そして、勉強。あなたはどれも既に全力で取り組んでると思うかもしれませんが、違います。はっきりとした目的を持ってからこそが本当の本気なのです」

「ふむふむ!」

「では、あなたの周りにいる人で、そんな方はいますか?」


え。いるかなあ。

ノエルさん。リンベルさん。スイカさん。デュオさん。カラビア先生。クラスでよく話すお友達のレズリーさん、イドさん、アルノーさん、あとあと……。

んー。


ロザリンデさんは、ふーっと息を吐いた。


「例えば、いかがですか? ……公爵子女の、デュオ・ヴァルナートなどは」

「ああ!」


思わず手を打っちゃった。すっかり忘れてたよ。


「そうでしたね。デュオさん、公爵子女でした!」

「普通忘れたりは――いえ、もう詮無いことです。とにかく、立場が高い方と一緒にいる為にはそれなりの頭脳と結果が必要になる。あなたにとってはいい目標に」

「つまり私はデュオさんと結婚することを考えればいいってことですか?」


私が言ったら、ロザリンデさんはパっと容器からクッキーを取って、食べた。

すごい。また一個。また一個。

次々とロザリンデさんの口の中にクッキーが消えていく!

よっぽどお腹が空いてたんだね。

ロザリンデさんは、最後に、ポットから紅茶をカップに注いで、グイッと傾けた。


「まあ、そういうことですの。理解が早くてよろしいですわ」

「んー、でも」


今まで聞いたこと、私が経験したことを踏まえると、ちょっと気になることがある。

だからそうしますって言えなかった。

そうしますって言えばよかった。ロザリンデさんがじっと見てるよ。


「デュオに、何か、ご不満でも?」

「いえ。あの、私、デュオさんのこと好きですよ。結婚してもいいです!」

「……」


ロザリンデさんがじぃーっと私を見てる。

これは完全にウザがられてるよー。ちゃんと考えて喋らないとね。

えーと。あ、天井にクモがいる。じゃなくて、集中して、私!


「あのですね。つまり、私の方は問題ないんです。でも、デュオさん、私と結婚したくないと思います」

「……どういう、ことですの?」

「そもそも私、デュオさんに嫌われてたんです。二度と近寄るなと言われて。でも私はそれがどうしても嫌で。無理やり嫌いにならないでって言ったんです。だからデュオさん、私のことは嫌いではなくても、結婚するほどではない気がしますねえ」

「何を言って。そういう相手を振り返らせる為に努力を……」


首を振ってたロザリンデさんが、カチッと動きを止めた。

なんだろ。


「お待ちなさい。デュオは、あなたに『近寄るな』と? そしてあなたが、『嫌いにならないで』とすがったのですか?」

「はい! なんだか、草が何かとか言ってました」

「……まあ」


それきり、ロザリンデさん、黙っちゃった。

何か考えてくれてるみたいだから待っとこう。天井のクモでも見てようかな。

あれは巣を作らない奴だね。ちょろちょろしてるぞ。

昔はあれに食べられそうになったりもしたんだよなあ。

でも今は私より遥かに小さいから怖くないもんね。むしろ親近感が湧いちゃうよ。


「あなたは」


おっと、ロザリンデさんの声に集中しなきゃ。


「デュオと結婚をしてもいいのですわよね」

「はい。何も問題はなしです!」

「本人に、それを伝える気はありますか?」

「もちろんです! でも、デュオさん、なんか会えないんですよね。たまたま出くわすこともなくって」

「……わかりました」


ロザリンデさんの背筋が、ぴんとなった。


「では、私がそのうちデュオに会う機会を設けましょう。二人きり、という訳には行かないと思いますが」

「え!」

「そこであなたは、デュオに結婚したいと言えばいい。デュオがどう反応するかは私にもわかりませんが、きっと……」


ロザリンデさんはもう一度紅茶のカップを取って、一口飲んでから言った。


「どう転んでも、デュオにとって良い結果になりそうですわ」

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