ガーネットはお泊り会を楽しんでいる。
ロザリンデさんとお話してから、しばらく。
私は今久しぶりにぬいものをしています。
針をずぶ。糸を引っ張る。ずぶ。引っ張る。ずぶ。引っ張る。
うーん。やっぱりいい、ぬいもの。
でも、今日のぬいものは特にいい!
だって、ね。
ふふふ。うふふふ。
「あかん……もう、ウチ、ここに住む……」
「うふふ、くすぐったいです」
手がわしゃわしゃと髪を撫でる度に、頭が気持ちいい。
スイカさんの息の熱さが髪の毛を越えて伝わってくる。
本当にスイカさんに住んでほしいよー。ちょっとせまいかもだけど。
「めっちゃ……め~~っちゃ、うるつやや……」
「ちょっとスイカさん! ガーネット様に、あまりにも……」
「リンちゃんもやらしてもらいーな……たまらんよ、ガー様の髪……」
「……あ、後で。じゃなくて、スイカさん……!」
スイカさんだけじゃない。
私の目の前にはリンベルさん。ノエルさんは今は椅子に座って読書中。
ふふふ、今日は待望のお泊まり会だ!
これからテストがあっても関係ないもんね。
リンベルさんたちも言ってたもんね。辛い時こそ息抜きが必要なんだって。
なんて言ってる間にぬいものが完成しちゃった。
糸をくるくるして縛って、と。
「はい、リンベルさん! 出来ました!」
「あっ、ありがとうございます!」
リンベルさんは私の手からぬいぐるみを受け取って、ぎゅーっと胸に抱いた。
「私、寝る時はこの子を抱いてないと落ち着かなくって……! いつもお店で治してもらってたから、本当に困ってたんです……!」
うんうん、分かるなあ。
だってウエストリアに来た時は、私もいっつもノエルさんをぎゅっとしてたもんね。
私は、ノエルさんをちらり。
さっきまで四人でお話してたけど、今は本を読んでる。
うん、やっぱり普通だね!
この前、ちょっとだけ悲しそうに見えたんだよね、ノエルさん。
部屋に帰ってきたら、ベッドに膝を立てて座ってて。
その顔が、なんだか、辛そうに見えて。
でも、何かあったか聞いたら、ノエルさんは驚いたみたいな顔で「なんでもないよ」って言った。
そして、それからはいつものノエルさん。
本当に、なんでもなかったんだなあ。
言われるまで気づかないなんて、やっぱりまだまだだよね。
もっと、人の気持ち、分かりたいな。
そしたらノエルさんにウザいって思われることも減るよね。
「ガーネット様、あの、もし差し支えなければですが!」
「はい。なんでしょう?」
「そ、その、これ! 裁縫は、どこで学ばれたのですか? だって、ガーネット様のお手際、すごくよくって、この子の縫い目もまるで新品で……!」
「それ、ウチも気になる!」
スイカさんは立ち上がって、リンベルさんの隣に座っちゃった。
残念。髪に住んでほしかったのにな。
「全部、お母さんからです。最初、お母さんが針を使って何かしてるのを見て、私もやってみたいって。覚えてからは、暇な時によくやってましたねえ」
私はお針箱に道具を仕舞いながら答えた。
会いたいな、お母さん。
留め金をぱちんと止めると、リンベルさんとスイカさんが私を見てた。
なんだなんだ。
「それだけです? 誰かに、師事したりしはらへんの?」
「してないですよ? あ、でも。それならお母さんが師匠かもしれないですね!」
私がそう言ったらリンベルさんたちは「へぇぇ」って。
「やっぱガー様って、不思議な人やなぁ」
「ちょっと、スイカさん。ガーネット様に失礼かと」
「いやいや、褒め言葉やって。なんていうんやろ」
スイカさんは髪をぽりぽり掻いた。
お風呂の後の花みたいな匂いが髪の間から広がる。
ふふふ。私がスイカさんの髪に住むのもありかも。
「ガー様って知り合ってみたら、めちゃくちゃ隙だらけに見えるんよ。でも、そう思ったらめっちゃしっかりしとったりもする。だから不思議やねん」
「ま、まあ、わかります、けど、スイカさん……!」
私はリンベルさんとスイカさんの会話に合わせて笑ってる。
だけど、内心は、やばって思ってるよ。
もしかして私が人間じゃないの、バレつつある?
でもでも、違うよ普通だよって言うのも、違う気がする。
普通じゃないしなあ、私。
正体は虫ですよ。
「わかるよ、スイカ」
ノエルさんだ! 本、読み終わったのかな。
「ガーネットは、ボクが出会った時からそーいう感じだったからね」
「あ、やっぱそうです?」
「うん。初めて会った時からそうだ。ガーネットは、自分で考えることが出来る奴だった。ちゃんと、してるよ。今まで言ったこと、なかったけど」
ノエルさんが褒めてくれた。うれしい!
ちゃんとしてるだって! 今まで言われたことない、ノエルさんにそんなこと!
だけど私、自分で考えてなかったですよ、あまり。
人間を真似すればいいって分かったのも、女神さまが言ってくれたからだし。
「ガーネットは、自分でちゃんと、何をしたらダメで、何をすればいいのか、わかってる。いつもうるさく言ってるのは、ボクが気にしすぎちゃうってだけで」
「わああ……!」
褒めすぎ。褒めすぎです。うれしいな、うれしいな!
私が内心跳ねていると、ノエルさんは私の顔を見て言った。
「だから、ガーネットは好きにすればいいからな。ボクが何を言ったとしても。ガーネットは、自由でいいんだ。どんな事をしてもいいし、誰に会っても、いいんだ」「はい! 私、自由に生きたいと思います!」
ノエルさんが優しい。お泊まり会って、やっぱりいい。
ノエルさんはまた本を開いた。スイカさんとリンベルさんはお互いの顔を見てる。
こんなに楽しい時間なんてない! 毎日でもやりたいよ。
「あ、あの! そういえば、ガーネット様。もしかして、ご自身でぬいぐるみを作ったりも、していますか?」
「ぬいぐるみ、ですか? いえ、別に」
「そ、そうですか。勿体ないです。だってこんなに、綺麗にぬいぐるみを直せるのに……!」
リンベルさんはそう言って、ぬいぐるみをもう一度ぎゅーっとした。
へええ。
「本当に好きなんですね、そのぬいぐるみのこと」
「はい! 小さい頃から一緒なんです、この子。抱きしめてると自然と落ち着いてきて」
「ぬいぐるみを抱いていると、眠くなるんですか?」
それは気になる情報だ。
睡眠は私の好きな物ランキング上位なんだ。
「ガーネット様、よければ抱いてみますか?」
「いいんですか?」
私はリンベルさんの手からぬいぐるみを受け取った。
ところでこれってなんだろう。動物かな。
んー、どうしよう。寝る時に抱いてるってことは、寝転がった方がいいのかな。
「ちょっと失礼しますね」
私は立ち上がってベッドの方へ。そして、寝転がった。
もちろん手にはぬいぐるみを抱いたまま。
うん、ふわふわだね。これ。手の中で、存在感がある。
リンベルさんがやってたみたいにぎゅーっと抱きしめると、気持ちよく押し返してくる。
ノエルさんをぎゅっとした時と似てるね。
あれ? ちょっと待って。
「――ほわぁ」
「あ、おいガーネット、そのあくび……」
「え? ガー様?」
すやぁ。




