ノエルは昂っている。
さっきまでボクは、デュオ・ヴァルナートと対峙していた。
傲慢。怜悧。そういう形容詞がつく男だって印象だった。
だが、これはなんだ。今ボクの目の前で、何が起きている。
さっきまで自信満々に振舞っていた奴は、もういない。
代わりに――。
「あー、その、おっ。うん、知らっ。知っ?知ってる、うん。知っているが、それがどうした?」
デュオはきょろきょろと落ち着きのない様子で顎に手を当て、目線を散らしながら言った。
最後は、元のデュオに幾分戻っていた。だけど、さっきまで全身から発せられていた、オーラみたいなものが、明らかに、無くなっている。
「なんだよ今の」
「何かあったか?」
「いや、だってお前、あんなに、ろーばいしてさ」
「そっ、それより、俺こそお前に、聞きてえことがある」
質問返し。今までのこいつになら、会話の主導権を握られるって、構えてたかも。
だけど、今は、なんというか。
警戒できなかった。
「そ、そのぅ、お前と、あいつ…が、ガーネットは、どういう、関係なんだ」
「……大切な親友だ」
「そっ、そうか。うん、なるほど。報告は、違ってなかったか、うん」
……こいつ、今、報告って言ったか?
誰かに、何かを調べさせたってことか?
信じられない。まさか、そんなことを……
今ここで、漏らすか?
「あー、えっと、そんじゃ、お前はあいつについて、色々と、知ってるんだな」
デュオは頬を掻きながら切り出した。相変わらず、目が泳いでいる。
「あいつ、どういう奴、なんだ?」
「どういう奴って?」
「ほ、ほら、普段どんな生活を、送ってたのか、とかよ」
「知らないよ。別に、家が近くにある訳じゃないし」
「い、いやでも、例えば……そ、そのぅ…ごにょごにょ」
「……なんだ、はっきり言えよ」
そのごにょごにょは、普段聞こえすぎるボクの耳にも届かなかった。
ボクの中の困惑が、段々といらだちに変わっていく。
ボクがガーネットの名前を出した瞬間、こいつは様子がおかしくなった。
「だから、その、あいつは……」
もしかして、こいつは。
――もしかしてだけど。
あくまで可能性の一つだけれど。
評判を取り戻す為にガーネットを所有したいとか、そんなんじゃなくて。
あいつを、ひとりの女の子として、意識して、いるのか?
「あ……あいつの……むっ、む……」
何故だろう。物凄くいらいらする。
だけどそのいらいらの源泉が分からない。
「昔の男って、どんな奴っ、だったんだ?」
ボクはどうして――ちょっと待て。
「ガーネットに男なんている訳ないだろ何言ってんだお前!!」
ボクは思わずデュオの目の前まで踏み出した。
男!?男だって!?今まさに、その話でここにいるんだよ、ボクはッ!
「そっ、そうなのか?いや、でも、たぶん、あいつ――」
「ガーネットはなっ!!すっごく純粋な女の子なんだ!!前に会った時から起きたことを最初から最後まで全部喋るような子なんだ男の子の話なんか出たことがない変な想像おえっ、するんじゃないっ!!それは、冒涜だっ!!ガーネットへの!!」
そう、変なことはなかったんだよっ!
それなのに、お前に会ってから――。
お前に会ってから、ガーネットは変なんだ。
お前なんか、口が悪くて偉そうで、ガーネットのこと、ボクより知らないくせに。
今ここにボクがいるのも、全部、お前が余計なことを――。
あ。
やばい。
最近は、こんな風に思うことが無かったから、油断してた。
ガーネットと出会ってからは長らく感じることが無かった、気持ち。
理不尽だと思ったことに対する憤り。
どうして、こんな風に思わなきゃいけないんだ、って時。
そんな時、ボクの身体は、心に反して、反応をしてしまう。
つまり、鼻が、ツーンとしてきた。




